僕は小林悠の残留には反対だった

2016年シーズンにタイトルが取れなかった川崎フロンターレにとって、シーズン終盤喜ばしいニュースだったのは、FWの小林悠が残留したことだと思います。小林に対しては、例年数多くのチームからオファーが届いていたと言われていましたが、2017年シーズンを迎えるにあたって、Daznとの10年2,100億円という放映権料契約を追い風に、ガンバ大阪、ヴィッセル神戸、サガン鳥栖といったチームから、川崎フロンターレを上回る条件のオファーが届いたそうです。中には、1億5,000万円以上の年俸と複数年の契約を提示したチームもあったそうです。サポーターの中には、小林は移籍するのではないかと思っていた人も多いと思います。

しかし、小林悠は「川崎フロンターレでタイトルを獲得したい」と残留を表明しました。川崎フロンターレの現在の年俸とは1億円以上の開きがあったという噂もあるなか、小林悠の残留はサポーターにとって驚きでもあり、とても喜ばしい出来事でした。「男気がある」と思った人もいると思います。小林悠が残留したことを祝って、あんパンを買い求め、あんパンが品薄になるという「あんパン祭り」なる出来事まで起こりました。

しかし、僕自身は小林の残留については、川崎フロンターレのサッカーを追い続けてきた1人として喜ばしいと思う反面、1人のサッカーファンとしては、決して喜ばしいとは思えませんでした。

正直に言うと、僕は小林は移籍すべきだと思っていたからです。

なぜ、小林は移籍すべきだと思うのか

僕が「なぜ、小林は移籍すべきだ」と思っていたか。それには、サッカー選手としての地位向上を考えたからです。

小林悠の2016年シーズンの成績は、15得点11アシスト。Jリーグベストイレブンにも選ばれました。川崎フロンターレのシーズン総得点数68点の実に1/3に絡んでいます。サッカー日本代表にも、Jリーグに所属する選手として選ばれる数少ない選手です。正直、JリーグNo1のFWだと思います。天皇杯決勝の鹿島アントラーズ戦、後半20分にハーフウェーライン付近でパスを受け、ペナルティーエリア内に侵入し、日本代表の昌子をフェイントでかわし、左足のカーブをかけたシュートでポストに当てた一連のプレーは、Jリーグに所属している選手では小林しか出来ません。

JリーグNo1のFWだからこそ、僕はJリーグで最も高い年俸をもらって欲しかったのです。なぜなら、Jリーグで最もよい成績を残した日本人FWの小林が、日本人で最も高い年俸をもらわなければ、他の選手の年俸も上がりません。繰り返しになりますが、2017年シーズンを迎えるにあたって、Daznとの放映権料契約を追い風に、高額の年俸による契約が出来るチャンスでした。このチャンスを逃したのは小林個人にとってだけでなく、Jリーグの日本人選手にとっても大きいと僕は思います。

僕が気になったのは、小林に「自分の決断が、日本人FWの価値を決める」という考えがあったのか、という事です。家族の事、サッカー選手としての自分自身の価値は、当然考えるべきことですし、小林自身も熟慮を重ねたと思います。ただ、小林の決断は、1人のJリーガーの決断というより、日本を代表するFWとして、1選手の枠を超えた影響力があるということを考えて決断されたのか、ブログや報道されている内容を読んでいて、気になりました。もちろん、決断は簡単なことではなかったと思います。

とても「日本的」な決断だと感じた小林悠の残留

そして、「サポーターの熱意に促されて残留を決断した」という理由が、僕はとても日本的だなと思いました。サッカー選手にとって、ファンから支持される事は価値でありますが、年俸の金額も価値判断基準の1つです。どちらに重きをおくかは、個人個人の価値観によるものなので、僕がとやかく言う事ではありません。ただ、イタリア、スペイン、イングランドのFWであれば、小林のような決断はしなかっただろうな、とも思いました。文化の違い、個人のパーソナリティの違いなのかもしれませんが、ゴールこそすべて、お金が評価基準の中で生きる他の国のストライカーの価値基準に照らし合わせると、小林の決断は違和感を覚えました。

僕自身は小林の残留という決断は、尊重すべきだと思っています。ただ、僕はこれを喜ばしい決断だと心から賞賛する気にはなれません。小林には、日本人FWのトップとして、もっとよい条件でプレーすべきだったと思いますし、その決断が日本人FWの地位向上や条件向上につながったかもしれません。

繰り返しますが、小林の残留は川崎フロンターレのサポーターや関係者にとっては喜ばしい出来事かもしれませんが、違う切り口で考えると、必ずしも喜ばしいことばかりではないか。僕はそう思います。

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