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2017年J1第16節 ガンバ大阪対川崎フロンターレ レビュー「ガンバ大阪の守備にいかに対応したか。そして、小林悠が抱える課題」

2017年Jリーグ第16節、ガンバ大阪対川崎フロンターレは1-1の引き分けでした。

前半10分過ぎまでは、ガンバ大阪がボールを保持してチャンスを作り出します。ガンバ大阪の守備時のフォーメーションは、4-3-3です。FWの位置に長沢、倉田、堂安。MFの位置に井手口、遠藤、今野が並びます。

FW3人、MF3人が常に均等な距離を保ち、ボールがある位置とゴールを結んだ位置にFWとMFが並び、ゴールに直結するようなパスを防ぐ事を優先します。サイドにパスが出たら、FWの堂安と倉田、MFの井手口と今野が素早く移動し、相手との距離を縮め、ゴール方向へのパスが出ないようにパスコースを消します。この守備は、フィッカデンティ監督が得意としている守備で、FC東京在籍時や現在監督を務めているサガン鳥栖でも取り入れられています。

前半10分過ぎまでは、川崎フロンターレがガンバ大阪の守備に慣れていなかったため、パスを上手くつなげる事が出来ませんでした。しかし、前半10分以降は川崎フロンターレも適応し、少しずつボールを保持する時間が長くなっていきます。その理由は、空いている場所が見つけられたからです。

ガンバ大阪の守備で「どこが空いていたのか」

MF3人、FW3人でサッカーコートの横幅をカバーするガンバ大阪の守り方は、コート内の中央エリアを攻略しようとする攻撃には有効です。しかし、大抵のチームが4-4-2や5-4-1といったフォーメーションを採用し、フィールドの横幅を4人もしくは5人で守っているところを3人で守るのですから、当然空いてくる場所があります。その「空いてくる場所」とは、MF3人が守っている両脇、つまりタッチライン付近でした。

川崎フロンターレは、センターバックのエドゥアルドと谷口、そしてエドゥアルド・ネットの3人でパス交換している時に、ガンバ大阪のFWがボールを奪いにきたら、素早く空いているポジションにいる、エウシーニョや車屋にパスを出します。時にチョン・ソンリョンを経由し、ガンバ大阪が3人で守る場所を、4人のパス交換で優位にたち、空いているサイドにいる選手に素早くパスを出していきます。

ガンバ大阪としては、出来るだけサイドにパスを出させたくないのですが、中央のエリアを空けてしまうと、阿部と中村が中央を守る遠藤の横に立っているので、中央は空けられません。センターバックの三浦やファビオが対応しても良いのですが、小林が2人の背後を狙う事で牽制します。

ボールが敵陣に入ったら、サイドバックのエウシーニョと車屋がFWと同じ位置をとり、ガンバ大阪のサイドバックを牽制します。ガンバ大阪のMF3人で守っているエリアには、大島とエドゥアルド・ネットがボールを保持しつつ、阿部、中村、登里の3人がパスコースに顔を出し、数的優位を作り続けます。小林は引き続きセンターバックを動きで牽制しつづけます。

ガンバ大阪の守備を逆手にとった攻撃を仕掛けることで、次第に川崎フロンターレがボールを保持する時間が長くなっていきました。

ガンバ大阪は4-4-2に変更。スペースを消す。

後半に入っても状況は変わりません。川崎フロンターレがボールを保持し、ガンバ大阪のFW3人、MF3人を揺さぶり続けます。次第にMF3人の両脇のスペースが大きくなっていき、そのスペースを使ってボールを運んだエウシーニョのパスを登里が折り返し、中村がシュートして先制点。ここまでは狙い通りだったと思います。

ガンバ大阪は、得点を奪いに行くために、後半19分に堂安と遠藤に代わって、アデミウソンと藤本を入れます。堂安はボールを持った時はよいプレーをしていたのですが、少しずつ守備の時に戻らなければいけない場所に戻れなくなり、スペースを空けるようになっていました。遠藤も井手口と今野が左右に動くので、中央のエリアを2人の動きに応じてカバーしていたのですが、次第にカバーが遅れるようになっていました。

得点も奪いにいかなければならなくなったので、フォーメーションも4-4-2に変更。FWをアデミウソンと長沢、MFを右から藤本、井手口、倉田、今野に変更します。倉田を中央に入れて、中央からボールを運ばせ、今野を左サイドに入れることで、後半よいプレーをみせていたエウシーニョを抑え、奪ったボールからチャンスを作りたい、という意図が感じられました。4-4-2にしたことで、MF3人で守っていた時に生じていたスペースも塞ぐことが出来、次第にガンバ大阪ペースになっていきます。

コーナーキックのからのカウンターでしたが、井手口のパスから長沢があわせて同点ゴールをあげます。谷口がポジションを修正する前にパスを出した井手口と、タイミングよくあわせた長沢のプレーは素晴らしかったと思いますが、谷口の対応は軽率でした。この試合の谷口は、このプレー以外は完璧だったので残念です。

ボールを運ぶ選手がよいプレーが出来ない

1-1になった後、川崎フロンターレは後半27分に中村と登里に代わって、家長と長谷川を入れます。このタイミングでガンバ大阪は、倉田を左MFに移します。倉田を中央に移動させたのは、得点を奪うための措置だったのだと思います。同点にしたので、バランスを修正したのだと思います。

川崎フロンターレは、小林をFWに移し、MFは右から長谷川、大島、エドゥアルド・ネット、阿部というフォーメーションに変更します。しかし、この交代が上手くいきませんでした。

鬼木監督は、この試合でガンバ大阪のアデミウソンが披露したように、少しずつ疲労がたまり、動きが遅くなったことで生まれるスペースを活用し、ドリブルで素早くゴール前までボールを運んでもらいたかったのだと思います。

しかし、長谷川も家長も、鬼木監督の期待に応えたとはいえませんでした。ボールを運ぼうとしてはボールを失ったり、不必要にボールを持って攻撃をスローダウンさせてしまったり、急がなくてもよい場面で慌ててゴール前にパスをしてチャンスを潰すというプレーがみられました。

鬼木監督は、後半にボールを運べる選手を入れて、追加点や1点を奪いにいくという交代策を何度か実行しています。しかし、ハイネル、長谷川、家長、三好といった選手が起用されるのですが、どの選手も期待に応えられていません。当然、普段パスを何本も交換するサッカーに慣れている他の選手にとって、ボールを素早く運ぶ攻撃に慣れていないという点もあります。

ただ、2015年シーズンまではレナトという選手がいたので、レナトがその役割を担ってくれていました。ただ、今の川崎フロンターレにはレナトはおらず、代わりを務められる選手もいません。強いチームは相手が攻撃を仕掛けてきたら、その勢いを逆手にとって、得点を奪う事が出来ます。

しかし、今の川崎フロンターレはそれが出来ていません。1点を取りに行きたい時にどうするのか。相手が攻撃を仕掛けてきた時に、逆に得点を奪うにはどんな方法があるのか。今の川崎フロンターレの課題です。

小林悠が得点を奪えていない理由を考える

僕が気になるのは、小林が第10節のアルビレックス新潟戦以来、リーグ戦で5試合連続で得点がない事です。小林が得点を奪えていない理由は色々あるのですが、気になっている点は2つあります。

1つ目は、「相手に動きが読まれている」事だと思います。小林はサイドの位置から、相手の背中に走り込んでボールを受けるプレーを得意にしていました。しかし、相手も小林の動きが分かっているので、小林がアクションを仕掛けたら、素早く走り込む場所を消すようになりました。当然、小林の動きによって他の選手は動く場所を得ているのですが、自身が得点を奪うための動きなのにもかかわらず、それが出来ていないのです。

2つ目は、「自分が使いたい場所に入るのが早すぎる」ということだと思います。小林はサイドから中央に移動した後、センターバックの近くでボールを受けようとしている事が多いのですが、センターバックが守っている場所は、普通に動いていたらボールが受けられる場所ではありません。

得点が取れるストライカーは、普段はその場所は空けておいて、パスが出るタイミングにあわせて動きたい場所に走り、相手の守備に対応されないようにして、得点を奪います。小林は得点を奪える場所に移動するのが早すぎるし、一度その場所に入ったら、下がって動き直すことなく、その場所でずっと待ってしまうのです。

一度下がって相手が守る範囲から外れた後に走り込めば、相手は対応出来ません。こうした駆け引きを90分通して出来る選手が一流のストライカーと呼ばれるのですが、小林はまだその動きが出来ていません。

今のままだと、相手がミスをしてくれたり、背後を取れた時は得点は奪えると思いますが、ガンバ大阪、柏レイソルといったチームを相手にする時は、相手も小林が受けたい場所を簡単には空けてくれません。

Jリーグで強豪と呼ばれるチームの守備に対して、いかに対応して得点を奪うのか。この動きが出来るようになれば、川崎フロンターレが楽に勝てるようになるし、日本代表にもコンスタントに選ばれるようになるはずです。

この引き分けを活かすかどうかは、次の試合の結果次第

1-1の引き分けは悪くない結果でしたが、首位の柏レイソルとの勝ち点差を考えると、よい結果とも言えません。これによって、これから続く試合では、出来るだけ勝利を積み重ね、勝ち点を増やしていく事が求めらるようになりました。この試合の引き分けをよい結果とするには、次節のヴィッセル神戸戦が重要です。どんな試合になるのか、注目です。

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