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33年間を、宮殿づくりに捧げた男の話

みなさん、毎日つづけていることはありますか。

歯磨きや散歩など、暮らしに溶け込んでいる習慣はあると思います。でも、30年以上、毎日一つのものを作り続けているひとは、ほとんどいないのではないでしょうか。

先日、みた映画がとても印象的だったのでご紹介します。タイトルは、『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』。33年間をかけて、一人で宮殿を作った男のお話です。

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映画と言っても、作り話ではありません。実話をもとにしています。実際に33年間をかけ、たった一人で宮殿を作ってしまったひとが、この広い世界には存在しているのです。

主人公のフェルディナン・シュヴァルは、フランス人です。1836年に、フランス南部の小さな村で生まれました。

パン職人を経て、28歳から郵便配達人の職に就きます。19世紀初頭ですから、バイクも自転車もありません。シュヴァルは郵便配達のため、一日に30キロも歩きつづけます。

最初の結婚をして妻と死別し、二回目の結婚をします。2度目の妻との間に娘が授かり、傍目に見ればとても幸せな生活を送っていました。

シュヴァルが宮殿づくりをはじめたのは、43歳のとき。仕事中に変わった石を見つけ、それで宮殿作りを思いたったのです。

以来、仕事中に手頃な石を拾っては、家の前の敷地に積み上げる日々。建築の心得などないですから、積み上げた石は石灰を使って独学で補強しました。

完成したのは、建築を始めてから33年後。そのときには、奥さんも一人娘も死別していました。シュヴァルは、43歳から一人で宮殿づくりをはじめ、76歳に完成させたのです。

シュヴァルの宮殿は、今もフランス南部のオートリーヴにあります。交通の不便な場所にもかかわらず、多くの観光客が訪れ、シュヴァルの残した不思議な建築物に魅了されています。

以上が、一人で宮殿を作った男の物語です。この事実だけを聞くと、単純にすごいと思ってしまいます。

シュヴァルは、郵便配達の仕事をやめませんでした。「やりたいことができたから、郵便配達をやめて宮殿づくりに専念する」なんて自分勝手は言い出さず、仕事で30キロ歩いたあと、毎日10時間を宮殿づくりへ捧げたんですね。

43歳から33年もの時間を捧げた労力はもちろんのこと、それよりも、周囲の雑音に流されずやり遂げたことに狂気を感じます。

映画でも描かれていますが、シュヴァルの挑戦は、村人の眼からとても奇異なものに映りました。

それはまあ、そうですね…。想像してみるとわかりますが、近所の中年のおじさんが、急に自分の敷地に宮殿作りを始めたらどう思われるでしょう。しかも雨が降ろうが、毎日いちにちも休まずに。

「宮殿を観光名所にして、一儲けしよう」なんて下心もなく、です。

シュヴァルの宮殿は、結果的にはフランスの観光名所のひとつとなっています。でも金儲けを考えるなら、あまりにも効率が悪過ぎます。なんせ完成して回収できるフェーズは、33年後になってしまうのです。

ただ作りたいと思ったから、作る。動機が純粋なだけに、社会的には理解されにくいことでした。

結婚しているわけですから、妻はシュヴァルの宮殿づくりに当然ながら困惑します。今の時代で言うところの、「嫁ブロック」にもあったことでしょう。娘は村の子どもにからかわれ、嫌な思いをします。

近所から白い目で見られ、家族からは「もう、いい加減にして」と責められる。それでも33年間、やめることなく毎日、自分のイメージする宮殿と向き合い続ける。狂人と片付ければ簡単すぎますが、ぼくのような一般的な人間には理解が及びません。

でもシュヴァルは、狂人なんかではありませんでした。自分がやっていることを、きちんと客観視できています。その証拠に、宮殿が完成に近づいたとき、最上部に自らのメッセージを書いたボードを残しています。

「1879~1912年、10,000日、93,000時間、33年間に渡る苦難。私以上に頑固な人間にしかできない仕事である」

時間が有限なものだからこそ、その使い方で人生の描き方はかわります。そのうちの93000時間をも宮殿づくりに費やした、ひとりの男の物語。とてもおもしろかったです。

2020年4月24日からDVDレンタルがスタートするようなので、興味の出てきた方は見てみてください。映像も美しく、写真を撮る人の参考にもなると思います。

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