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私はやっぱり寂しがりやだから、早く皆に来てほしい

最近は朝、家の前の畑や庭を黙々と草刈りをしている。
以前勤めていた会社を退職後、それが私の仕事になったのだが、毎日少しづつ草刈りを続けていくと、色んな人と出会う。朝、家の前を通る軽トラ、夕方犬の散歩をするおばちゃん。

私の住む集落は農村地帯である為、朝は比較的軽トラがよく走る。土曜日に家の前の畑に生える雑草を一気に刈った。それ以来、畑の前を走る軽トラのスピードが妙に遅くなることが多くなった。皆、急に雑草が無くなって驚いたのだろう。

目の前を通る軽トラにはいつも挨拶として会釈をするのだが、驚いた事に急に窓が開いて、中からおばちゃんが「おはよう!」と言ってきた。正直どこの誰なのか、全然分からなかったが、ひとまず「おはようございます!」と若者らしく返した。

リース契約をした車が来て、早一週間。車とはとても便利なもので、行動範囲も広がり、今まで最寄り駅に行く事さえも億劫だったものが簡単に行けるようになった。
私が住む集落は、田舎特有の細い道の為、対向車とすれ違う事が出来ない。さらに、家に到着してもすぐに駐車スペースがあるわけではなく、軽いS字を描いて駐車を行う必要があった。以前、ペーパードライバー講習をしてもらった先生にも「家の周りがテクニカルコースだね!」と言われるレベルの為、逆に一般道に出ると、道の広さや急ではないカーブにホッとする。とは言え、それらに慣れないと車があってもどこにも行けない為、若葉マークを付けて、毎度ドキドキしながら運転をしている。

最初の1週間、なるべく早く運転に慣れたかったので、事あるごとに車を運転していた。毎日車を運転していた為、少しは慣れたかな?と思っていた時、井戸に車をぶつけてしまった。
「ついにやってしまった」と心の中でため息を付く。ビビりながら車の様子を見ると、車自体には外傷はなく、ホイールがぶっ飛んだだけで済んでいた。しかし、ガッツリぶつけた音はしたので、ホイールには多少の傷が付いた。

ぶっ飛んだホイールを付け替えるのも初めてだった為、案の定上手くいかず、近くにいた男性に声を掛けた。一緒にホイールを付けた後に、「初傷、おめでとう」と手でグッとマークを示しながら言われる。
初めて、ぶつけた音を聞いた時は、すごくショックだったが、これは皆が通る道なのかもしれない。むしろ車の本体に傷が付かなかっただけ、ラッキーだったのだろう。

休日になると、家主さんの会社の人が来て、自宅の一階でカフェをやるのだが、その店番もするようになった。庭や畑の草刈りをしつつ、暑さのために休憩していると、家主さんがやって来た。
おやつ、と言ってあんパンと栗パンをくれた。家主さんも私が前いた会社を退職していた事を知っていたので、「どうですか?」と聞いてきた。
そこからどんな話の流れになったのか、あまり記憶していない。しかし、唯一、家主さんに「まぁ、一番大事な事は良いと思ったら、アクションする事やね」と言われた事がグサっと刺さった。

なんでこんな当たり前の事、おじいちゃんに言われなくちゃいけないんだ、と思う反面、何だかんだ引っ越し、就職、退職と生活に慣れたら…と思って後回しにしていら事ばかりだった。車も来たし、比較的自由も利くようになった。そうだよ、今なら何だって出来るんだ、と思い返すキッカケになった。
家主さんは大学院の教授からの紹介で知り合った。教授もまぁまぁ変な人なので、家主さんもまぁ変な人である。(変な人というか、少々ハードコアな人が正しいかもしれない…)「とにかくやってみなはれ」とよく言う人で、ここ最近の私は色々考えすぎる傾向にあったので、このような存在はとても有難い。そして、家主さんと話しているとだいたい教授の話になり、「あいつの言いそうな事は大体分かるわ」という結論に至るのが、いつも微笑ましく感じている。

また、昨年週3回オンラインで行っていた大学院の人達との勉強会も復活し、復活早々に私も最終的に論文を書くことを目標にアーティスト研究をする事になった。研究対象はジル・クレマン。どんな研究になるのか、どんな論文にしようか、まだまだ未知数ではあるが、昨年手に取った「動いている庭」を再度読み返すことにした。

農業や園芸というものは大変奥深く、有機農業と言っても、様々な考え方が存在する。例えば、あまり草が生えないように野菜の周りに黒マルチを敷くのか、敷かないのか、という事だけでも結局は誰のために、何のために農業をするのか、遡って考えていく必要がある。私は地球や生き物の事を知るために農業をやっているのだろうか?それとも自らの食糧確保のために農業をやっているのだろうか?それだけでもかなりアプローチが変わるはずだ。

家の周りには、様々な植物が植えられている。スペアミント、レモンバーベナ、エゴマ、タイム。今まではそれらの植物にじっくりと目を向ける事が出来なかったが、ハーブティーにしたり、料理に使ったり、手を動かして自分の中に取り入れる事で、さらに学びが生まれた。
今日は背が高くなってきたレモンバーベナの先端を刈り取る作業をしていた。植物は日光を取り入れる為に背をどんどん高くするが、逆に背を高くすることにエネルギーを注ぐあまり、他の枝葉が増えてこない。周りの雑草も刈り、必要以上に背を高くする必要がなくなったので、枝葉がさらに増えるように、伸びた部分を刈り取る。
そんな作業をしていると、ジョギング中のような男性が道を尋ねてきた。私はその男性を何度か見た事があったので、てっきり周辺の住人だと思っていたのだが、そうではないようだ。道を尋ねられるという事は、私はここに定着しつつあるのだろうか?そんな事を考えながら、庭に大量繁殖したエゴマを収穫して醬油漬けにしていた。

4月以降、生活が落ち着いたら、皆に知らせようと思いつつ、気付けば4か月が経っていた。車もやって来たし、いよいよ気軽に人を呼べる。

ずっと実家で家族と暮らしていた事も影響しているのか、やはりちょっぴり一人暮らしは寂しい。さらに、田舎の特有の暇さも相まってウズウズしていた。草刈り仲間を作る事、屋外で映画鑑賞をしたい、ここでやってみたいことは色々ある。

とにもかくにも、自分の家に色んな人を招いてみたい。
ある人にはハーブティーを出したいし、ある人とはひたすら一緒に草刈りをしたい、ある人とは近所のケーキ屋さんに言っても良いかもしれない。そんな気持ちが先立つ中で、早々に個人メッセージ攻撃を始めた。

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