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キラキラ世界の休日

5月に展示が終わったものの、その後も何だかんだ忙しく過ごしていた。久しぶりに休みの日らしい日が出来たのも、元々用事が入っていたからだ。

その日の予定は実家の近くであった為、前の日の晩から実家に戻っていた。両親との夕食。父親から父方の祖父に顔を見せに行くように言われる。前々から祖父が心臓を悪くして病院に入院した話を父から聞いていた。医者からは、持って1年、と言われたことも関係しているのだろう。次の日、私の予定は午後からだったので、母と一緒に午前中に祖父の家を訪ねることにした。

翌日、祖父の家を訪ねる。リビングの1番景色がいい場所には介護用のベッド。そこに座っている祖父の姿があった。祖母や叔父は特に変わらない様子だった。普段、畑で野菜を育てているせいか、祖父宅の玄関前の植物をまじまじ観察してしまった行動に、私自身の変化を感じる。祖母は、そんな私の様子に「あれ植えた」「これ植えた」と種袋を見せてくれる。

母と一緒に行ったケーキ屋さんのケーキを渡すと、祖母は「珈琲でええか?」と行って、その場にいた全員分の珈琲を入れる。結局、今年のお正月は祖父たちに挨拶を出来ないままだったので、かなり久しぶりの再会だ。私の近況はそこそこに祖父の塩分制限の話や、介護申請の話、近くの病院の話を祖父と祖母から交互に聞く。
生まれて以来、成長成長成長と何かに毒されたかのように生きてきた私は、あまり老いるという感覚がよく分かっていない。しかし、心臓の病気を持っている祖父の姿を見ていると、急に「老い」について実感したつもりになってしまう。会話の中で、祖母が祖父に対して「今まで出来てたことが、急に出来なくなったとしても、それが出来ないって自分で思う事は中々難しい」と言った。続けて、「やっぱり、人はちょっとでもよく見せたいと思ってしまうねん」と言う。祖母のその言葉に、なんとなくピンと来た。「ちょっとでもよく見せたい」という同じ気持ちでも、置かれている状況が異なると、客観的に見れば、全然違う行為に見える。いや、でも気持ちは同じなんだよなぁ…。人間がいつまで経っても変わらないように思えるのは、このような要因があるからなのだろうか?

そこからも、祖父と祖母を中心に話が続く。すると、急に祖父が私に対して「昔は、何でも1番トロかったのに、今ではこんなに逞しく生きてて、おじいちゃん嬉しいわ」と言い出した。「何やってもトロいのは今でも変わらへんけど…」と心の中で思いながら、さらに話は続く。「孫の中でも1番気になってたんや」と祖父の言葉に続くように、「それでも○○ちゃん(バレエ教室の恩師)はあの子は根性が凄いから、大丈夫!っていつも言ってたんよ」と祖母が言い出す。
正直、高校生までやっていたバレエのレッスンで根性を出していた記憶もなく、全くの無意識でしかなかっただけに驚いた。大して上手でもない私だったが、それでもかなり恩師に可愛がってもらっている自負だけは当時も今もあったぐらいだ。とは言え、5月の展示ラッシュで多少精神をすり減らしていたであろう私には、その話は何故だか泣いてしまいそうになるものだった。

祖父も祖母も年のせいか、若干テイストを変えて、同じ話を何回もする。1回目の話で少し泣いてしまいそうになった私であったが、流石に2度目、3度目となると泣いてしまう。幸いマスクをしていた為、あまり周りに気付かれることがなかったことが救いだった。ふと、隣の母親を見てみると、母親も泣いていた。そんな母親の姿を見て「やっぱり涙腺の弱さって似るもんなんかなぁ」と思った。

祖父宅には15分ぐらいで帰ってくるつもりだったのに、色んな話を聞いているうちに昼前になってしまった。そこから、実家に戻り、午後の予定も終えて自宅に戻る。

今起こっていること、1~2ヵ月後に起こるかもしれないこと、将来的に起こりうるかもしれないこと…
色々考えては不安になることばかりで、すぐに「誰かポンと100万円くれないかな」「とりあえず月収10万ぐらい増えてくんないかな」なんて考えてしまう。まぁ、それはそれで実現したら嬉しいことではあるのだが、そんな短絡的な話でもない。よく分からんなぁ、意味わからんなぁ、何でやねんって思うことはあるし、正直それらに対して真正面から戦う意思も気力もない。とは言え、そんなネガティブな気持ちばかりでは物事も上手い方向に転ぶものを転ばない。正直、どうしたものかと思うことは多い。

わりと真面目に「私以上に世界からこんなに愛されている人なんていないよ」と思うほど調子の良い時もあるだけに、いつになっても自分自身のコントロールが一番難しい。

キラキラ世界の威力は凄まじいもので、少し落ち込み気味だった気持ちも帰宅時の車の中では少し前向きになっていた。今日1日で色々考えすぎていたことに気が付いたし、もっと何でも楽しんでみればいいように思えた。
自分の作品だって、ベケットやカミュみたいにするのではなく、楽しさやワクワク感で周辺を焼き尽くしてしまうぐらいのものが作りたい。

今の家も、恐らくそこまで長くいる予定はない。新しい家はどんな場所なのか?どんな生活が待っているのか?例えそれがキラキラ世界の実家だったとしても、それはそれで面白がればいいと思うのだ。

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