作品「現代の昔話」


現代の昔話   
 
 
のっぺりとした
ならまちの西に
坂道が現れる
その途中 陰陽町
いんぎょうまち と読むらしい
いわくありげなその町に
目立たない神社がある
開け放たれた扉から
鄙びたお社が見える
赤い鳥居や大木も無く
まずしく やさしい空気を感じる
お腹を空かせたように
二匹の狛犬は痩せている
でも なぜか笑っている
右側で
「阿」と口を開けて大笑い
左側で
「吽」とニンマリ笑っている
初対面の私にも
非常に友好的な狛犬たちだ
こっちも釣られて微笑んでしまう
その時は
お賽銭も入れずに願い事をした
しばらくしてそれは叶った
今回は
十円玉二枚で願い事をした
それもすぐに叶った
ほんとうの話である
現代の昔話である
 






『歩きながらはじまること』(七月堂)
『朝のはじまり』(BOOLORE)

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