作品「まむし」


まむし          
 
 
とうとう
ヘビまで捕まえてしまった
庭で飼い犬があまりに吠えるので
見に行くとヘビがいたのだ
それほど大きくはないが
模様が派手だ
「まむしやな」
不思議と冷静に思い
ゴミ拾いバサミで捕まえ
とりあえず
大きな透明の飼育ケースに
入ってもらった
パタンとフタをして
覗いてみると
まむしは
しっぽの先を
小きざみに
タタタタタタ……と
震わせていた
その様子に
ぼくも 少し揺れた
捕まえてどうするのか思案した
「みーさんは 神さんやから 大事にせなあかんで」
こんな言葉を聞いて育ったぼくには重大な問題なのだ
次の日から知人や友人に
「まむし飼いませんか」と声をかけたが
「ヘビはきらいや」
「ウナギやったら ほしい」(関西では鰻の蒲焼きをまむしというのだ)
「焼酎に漬けてちょうだい」
「そんなもん いらんわ」 と
全員に断られてしまった
世の中の厳しさを知った気がした
三日もすると
まむしは元気がなくなったように見えた
このまま死んだら 
えらいことなので
春日大社の森へ逃がしに行こうと思った
あそこなら神さまがたくさんいらっしゃる
手に飼育ケースを持って歩いていった
何組かのカップルとすれ違ったが
ぼくの存在には気づかない
小さな社の裏に回りフタを開ける 
まむしは動かない
仕方なく小枝を使って外に出した
それでもじっとしている
まむしは 
ケースの中でも
森の中でも
どこでも良さそうに見えた
先に動いたのは 
ぼくだった
 お元気で 
 またいつか
声にならない言葉を置いて
その場を静かに立ち去った








『歩きながらはじまること』(七月堂)収録
『朝のはじまり』(BOOKLORE)収録



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