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邦楽評論 黒木渚

アンダーグラウンドでダークな世界観を歌うアーティスト・黒木渚を今回は紹介したいと思うのですが、どう紹介したらいいのか見当もつきません。

本当にごめんなさい。

でも、それほどまでに彼女の音楽性・メッセージ性は名状しがたいのです。

「あたしの心臓あげる
毎晩抱いて眠ってね
ギター聞かせてあげるから
あなたの心臓ちょうだい」

【黒木渚 「あたしの心臓あげる」】

彼女は、明るく闇を歌う。大声で人を殺す。猟奇的に愛を語る。

中島みゆきに例える人もいますが、確かにそのイメージがあっていると言えるでしょう。

暗く闇を歌うことなら誰にでもできます。しかし彼女の場合は邪悪を光の中で歌うのです。

「クマリである私の目
人々を見下す私は誰?
何を欲しくて集うのか
ホントは私こそ知りたくて
空に放たれた意味深な言葉
吐きだしてうつむいた泣かない子供」

【黒木渚 「クマリ」】

その一例がこれ。ネパールなどで神として崇められる幼子を「クマリ」と呼ぶが、その「クマリ」の気持ちを歌う曲、「クマリ」。

この曲では崇められた後、次の「クマリ」が選ばれ、玉座を追い出される幼子の気持ちも描かれています。

「クマリを見る私の目
神殿を奪ったあの子は誰?
芽生えたざわつきはもしかして
感情と言うものかしら
甘さを閉じ込めたココナツの殻
こじ開けて飲みほした泣かない子供」

【黒木渚 「クマリ」】

幼子の目が、クマリであった目から、クマリを見る目に代わり、「感情」が芽生える。周りの全てを見下していた少女が、訳も分からぬまま普通の少女に成る暗い感情の過程を、滑稽に明るく歌い上げるのです。

こんな風に「悲しいこと・辛いこと・残酷なこと」を明るく歌う作風は、あまり類を見ません。

先ほど言った中島みゆきか、そうでなければRADWIMPSの「棒人間」、星野源の「地獄でなぜ悪い」などでしょうか。

「僕は人間じゃないんです
本当にごめんなさい
そっくりにできてるもんで
よく間違われるのです」

【RADWIMPS 「棒人間」】

「嘘で何が悪いか
目の前を染めて広がる
ただ地獄を進むものが
悲しい記憶に勝つ」

【星野源 「地獄でなぜ悪い」】

このアンバランス感。文字だけ見れば滅茶苦茶暗いのに、なぜか音楽を聴いていると明るい気分になる。辛いことを、忘れさせるのではなく、そのままで笑い飛ばしてくれるような強さを、与えてくれるような楽曲。

この曲もまさにその好例です。

「安定をひったくるテロリズム
人生を寝取ったあの女
チクショーチクショーふざけんな
この世はほとんど終ってる
表現を自重する芸術家 
能無しが出世する
チクショーチクショーふざけんな
この世はとっくに終ってる
面白ろおかしくやっていけたら
気が楽なんだけど
常識や美学変えるような 
かつてないセンスで
またとないチャンスを 
この手につかめたら
駆け上がって転げ落ちて
人生はコメディ
何度でもこっぱみじんになって 
やけくそで立ち上がって
スパイみたいに良く狙って
くすり くすり 狙撃する
ユーモアの弾丸くらって 
世界が目を覚ます」

【黒木渚「ふざけんな世界、ふざけろよ」】

タイトルはそのまま、「ふざけんな世界、ふざけろよ」。

世界を否定しながらも世界を肯定して、社会に嫌気がさしながらも誰かを愛していて、ドス黒い思いを抱きながら明るく高らかに愛を叫ぶ。

そうした楽曲は、私たちに何かを伝えてくれる、強い楽曲です。

また、そうかと思うと、黒木渚は破裂しそうなぐらい強い感情をぶつけてくることもあります。

「赤裸々な事って溢れてるクセに
なかなか本音には出会えない
振り回されたら付いてけないよ
深海魚みたく破裂してしまう
けたたましいよ
世界は騒音だ
翻弄さえも愉快な方へ引っ張って
最高過ぎて苦しいね
あぁあぁあぁ!
夜になったら忍んでおいで
産まれた姿で待ってるからさ
見つからない様に隠れておいで
今夜は眠らず待ってるからさ」

【黒木渚 テーマ】

行き場のない感情を歌い上げるのはまさにロックですが、毒も吐いて、闇も吐いて、それでも彼女は明るく高らかに歌い上げるのです。

邪悪の中にあって、暗黒の中にあって、彼女の楽曲は輝く。
その闇を否定せず、肯定した上で前に進む。
だからこそ、何かが僕たちの心に突き刺さる……

そんな彼女の楽曲に、これからも注目したいと思います。

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