見出し画像

博士のアルバム 2話


「はじめまして・・・。あ、いえ、はじめましてではありませんね。先生が就任の時、ご挨拶させていただきました。覚えてくださってますか?」
「あ、う、う~ん。ごめん、覚えてないや」
女性はウフフと小さく笑っていた。
「私は、運用課で補助金の仕事をしています。一カ月前までは総務課にいたんですが異動になりました」
「そうなの?」
「まだ、慣れなくて。でも、経理をやっていたので仕事は総務の時とあまりかわりません。国からもらった補助金の使い道を管理していて」
「そっか、君名前は?」
「茅野ユミです。覚えてくださいね」
そう言って彼女は僕の前から立ち去った。さらりとした空気から金木製のような香りが鼻の奥で感じられた。

 茅野ユミさんと出会ってから私は、研究室に行くのが楽しみになった。彼女は、色んな場所で頼りにされている。
美人を鼻にかける振る舞いは一切なく、明るくて気さく。仕事は丁寧で確実、その上早い。私が今まで仕事で世話になった事務方とは別格だった。
 茅野ユミさんとは別の棟にある私の研究室は、相変わらず漫画雑誌が印刷ミスした足元にある用紙の上に積まれていた。後輩が読んだあと、必ずこうして私のところに置いていく。

「漫画の回し読みですね。漫画雑誌って、漫画がいくつも掲載されているからお得感ありますよね」
「そうなんだよー。茅野さんもいつの間にかグループに入っちゃってさ、彼女は、刑事ものとか法律ものが好きだったなあ」
先生は、目尻を思いっきり下げて微笑んだ。
幸せそう。茅野さんの話になると素敵な表情になる。

#創作大賞2024  

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?