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症例振り返り13 低K血症はK動態を考えないと面白くない。偽性アルドステロン症を深めてみる

電解質異常の診かた。なんとなくできるようになって日々流れて行ってしまうことが多いですがきっちり生理学から分かっておくと理解が進むなと思います。

症例 80代 独居/認知症の女性

福祉協議会の宅配弁当の見回りだけがサービスとして入っていた独居認知症の女性。かかりつけや内服はなし。自宅生活は謎だらけ、数年間入浴はできておらず、近くの木の実をたべる姿が目撃されたり、何重にも衣類を重ね着してひもで縛った姿で、動きは活発であった。

サービスセンター長から足が腫れているとのことで来院され、常に長靴を裸足で履いていることでの褥瘡+蜂窩織炎の診断。抗生剤内服加療で治癒し、1週間後のフォローの採血も問題なし。

しかしその数日後に左上肢と両下腿の浮腫が出現し、採血をすると低K血症が出現した。内服管理ができない人なので低K血症の精査加療目的に紹介入院となった。紹介時の血圧は180程度と高値であった。

K動態でしっておくべきこと

  1. Kは細胞内にほとんどが存在し貯蔵されている。intake不足での低K血症は長期でしか起こらない。

  2. 細胞内へのK取り込みは①インスリン②β刺激③アルカリ血症で促進

  3. K排泄は主に腎からだが、ろ過排泄分はほぼ全て再吸収されるため集合管からの分泌で規定されている。通常のK分泌量は尿中40-60mEq/dayである。

  4. K分泌量は①集合管内のHO3-②集合管内のNa③アルドステロン作用できまる

  5. アルドステロン作用はMR(mineralocorticoid receptor)への結合しそのカスケードでのNa再吸収と電気勾配的なK分泌だが、コルチゾールはアルドステロンよりもMRへの結合力が強い。

  6. MRをアルドステロンがコントロールするために、11βHSD(11β-hydroxysteroid dehydrogenase)がコルチゾールを局所で不活化している。

低K血症の原因を鑑別していく

蜂窩織炎治療後に出現した急性の低K血症+全身性浮腫の鑑別を勧める必要があります。

低K血症の鑑別を病態で考えていくと、集めるべき情報はだいたい以下のようになります

  • 病歴:いつからの低K血症か、intake不足はないか、腎外排泄はないか(下痢・嘔吐など)、インスリン使用やβ刺激亢進症状

  • 腎排泄:尿検査でKの排泄の程度をチェック、尿中K、Crと尿・血症浸透圧もTTKGを計算するには必要。

  • 血液ガス:アルカレミアかアシデミア。

  • 内分泌:甲状腺機能亢進はβ刺激となる、レニンとアルドステロン。

検査前の病態のアセスメントは、高血圧と全身性浮腫がありvolumeover+低K血症を一元的要因で説明するにはアルドステロン作用が増強している病態を考えておくべきだろうと思っていました。

検査結果とアセスメント

  • 病歴:入院数日前にはK3.7と正常、数年前の検査も見つかりK4.4と低くない。食事摂取などは不明だが少なくとも急性の低下。インスリン使用や腎外排泄の病歴はなし

  • 腎排泄:尿中K60mEq/gCr。浸透圧は測られていなかった(TTKGは必須ではない)

  • 血液ガス:pH7.48程度のアルカレミア

  • 内分泌:甲状腺ok、レニン・アルドステロン低値

尿中へのK分泌が低K血症の原因のようです。尿中Kの分泌がどのように行われているか再確認する必要があります。

下記がその図です。コルチゾールがMRに結合するのを11βHSD2がブロックし、アルドステロンが結合できます。Naを集合管から再吸収するためにATPを利用しKを汲み出しています。最終的には集合管の電化がNa再吸収によりマイナスなり、電気勾配でKが分泌されます。

アルドステロン作用、Kの分泌

Kの分泌に関わる要素は3つです

  1. 集合管のHCO3-高値:尿細管アシドーシスやアルカリ血症で起こるものです。集合管の陰性電荷によりKが出ていきます。

  2. 集合管のNa高値:サイアザイド系利尿薬の副作用で起こる低Kの機序です。

  3. アルドステロン作用:アルドステロン作用が増強する場合にはNaを再吸収しKをどんどん汲み出します。結果としてhypervolumeの低K血症でアルカリ血症となります。

今症例では低K血症、K尿中排泄増加、アルカリ血症、hypervolumeなどアルドステロン作用の増強が見られました。しかしレニンアルドステロンは低値でした。

偽性アルドステロン症

考えるべき疾患は偽性アルドステロン症です。この検査パターンになった場合には遺伝性疾患なども考慮されますが、超高齢で数年前のKも正常のためそこは鑑別の上位にはならないと考えました。

偽性アルドステロン症として有名なのは甘草を含む漢方薬が原因のものです。甘草に含まれるグリチルリチンが11βHSD2を阻害することでコルチゾールをブロックすることができずMRが反応して高アルドステロン様の状態となります。

つまり偽性アルドステロン症は局所でのコルチゾール増加による病態と理解できます。

その後と妄想

原因不明のまま下腿浮腫は軽減し体調良好なのでと退院となり、再度当院紹介されてきました。退院時も低Kは残存するものの進行はありませんでした。通院困難なので訪問診療で見ていくこととなりました。

蜂窩織炎での体調不良に対して、自宅内置き薬の漢方薬の乱用がなかったか確認が必要と思っています。

またグリチルリチン作用は解除されるまで数カ月と長くかかるようなので退院時まで低K血症が持続していることは否定的な所見ではありません。

軽度の偽性アルドステロン症の際に、感染などのストレス要因が加わると内因性コルチゾールの増加から症状が増加しうるものと考えます。つまり下腿浮腫が出現し入院していたら自然軽快したというのは内因性コルチゾールの増減で説明がつくものと思っています。

あとは漢方薬以外に偽性アルドステロン症を来たすサプリなどが自宅にないかなと考えていたら、食べているらしい木の実はいったいなんだろうと疑問が浮かんできました。ただグリチルリチンが含まれる肝臓はマメ科の植物なのでさすがにそれは妄想が過ぎるかなと思うので今日はここまでで振り返りは終了します。

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