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【表現評論】メモリーズオフ#5 とぎれたフィルム コアレビューその7 香月ルート1【全作再プレイシリーズ】

●メモオフシリーズ、その他作品、様々なネタバレが含まれます。

⚫︎前回の記事

⚫︎メモリーズオフのヒロイン考察

ショートカットの順番って、基本的に重要なヒロインの順番に並んでたと思うんですけども、#5はあすかが最初に来てます。なぜ。作ってる途中まであすかが完全にメインだったとかあるんですかね。立ち位置的には完全に真ヒロインでもおかしくないんだよなぁ。亡くなった親友の妹、幼馴染、悲しき過去の持ち主、絶望の淵から救われた経験がある、などなど。真ヒロインっぽい属性をいくつも合わせ持っている。なぜぽっと出のヒロインが真ヒロインになってしまったのか。単にそういう仕掛けだったのか。

メモリーズオフって基本ぽっと出のヒロインは負ける運命というか、サブヒロインであって、幼馴染とか過去からの知り合いがいた場合は、そっちがメインのシナリオになるパターンがデフォルトです。

試しに幼馴染or昔からの知り合いを列挙してみましょう。

1st 彩花(幼馴染) 唯笑(幼馴染)
2nd 誰もいない
想君 カナタ(昔の知り合い&中学から友人) 沙子(昔の知り合い)
それから いのり(昔の知り合い)
#5  あすか(一応幼馴染) 香月(高校からの友人)
T-wave りりす(幼馴染)
ゆびきり ちなつ(幼馴染) (幼馴染) 椎名(中学から友人)
IF 柚莉(幼馴染) 瑞羽(幼馴染)
星天 ちはや(幼馴染) 陽詩(幼馴染) 優梨子(昔の知り合い)

次にメインと呼べそうなルートを考えてみます

1st 唯笑
2nd ほたる つばめ
想君 音緒 カナタ
それから いのり
#5  麻尋
T-wave りりす 智紗
ゆびきり ちなつ 霞
IF 瑞羽 ノエル
星天 ちはや 英

どちらの表にも存在するキャラは強調体です。こうしてみると、メインルートに幼馴染or過去の知り合いが存在しない作品は2ndと#5だけ。2ndはそもそもその手のキャラがいないから除外するとして、#5は過去から関係のある女が、ぽっと出の女に負ける唯一の作品です。ええんか。それでええんか。もしかして制作側としてはこれでもメイン扱いなのか。こっちの認識がおかしいのか。ノエルもぽっと出(ユーザーにとっては既出ですが、累にとってはぽっと出)のヒロインとしては、メインヒロインに肉薄したヒロインですけども、麻尋ははそんなレベルじゃないしなぁ。取って代わったレベルだし。やっぱり色んな意味で違和感を感じさせる作品です。それとも、あすかが好きすぎて目が曇ってるのか。ありうる。

こうしてみると、2ndは幼馴染がいたらもっと面白かったのかもしれないですね。ほたるすまん! やっぱりぽっと出の女より幼馴染の方がよかったわ! というルートが見てみたかった。つばめルートは、過去の少年が健ちゃんだったら、それに近い可能性があったのか。

⚫︎観島香月

あすかはもう終わったんだよ。香月の話ですよ。香月の話。

主人公にとっては高校からの映画仲間という、ちょっと珍しい立ち位置の人物です。3〜4年くらい友人関係が続けていると考えると、メモリーズオフには、他にそういうキャラクターが少ないんですよね。めっちゃ幼馴染とか、すぐに仲良くなって親友のようなポジションになるとか、そんなんはいますけど、数年前から知っているという関係性は、香月と詩名だけじゃないでしょうか。しかし詩名は後輩だし、若干立ち位置が異なる。同級生で気心知れた友人関係というヒロインが堪能できるのは香月先生のルートだけ。

感動するとすぐ泣く人で、無類のカレー好き。細かいところに目が届くし、面倒なこともやってくれるし、人間の好き嫌いがなさそうだし、気配りができるタイプの人間です。友達にほしい人。部下に欲しい人。面接でなんでもやります! 打たれ強いです! 自分をモノに例えると潤滑油です! って言っても許される人。

細かいところに目が届かず、面倒なことをやるタイプでもなく、人間の好き嫌いも激しく、気配りが全くできなさそうな春人君にぴったりな人物ではないだろうか。#5のベストカップル説あるな。

⚫︎しょうもない嘘が多い主人公

日常的にしょうもない嘘をつきまくるんだよな。この主人公。面白くもないし。おまけに誰のためなのかよくわからん嘘が多い。誰のためでなくても、なんかやべえなと思ったら咄嗟に嘘をつく癖がある。あすかと麻尋を会わせないように嘘つくシーンとか、お前をあいつに合わせたくないから部室に来るなって言えばよろしいんじゃないのか。言って困ることないでしょ。ライターの伝家の宝刀なのか、主人公にしょうもない嘘つかせてトラブルに発展するパターンも多い気がする。嘘No. 1主人公の称号がもらえるレベル。

⚫︎雄介の台本

を麻尋につっかえす主人公。お前の言いなりにはならねえよ! バーカ! という感じです。素直になれよ。三井。

⚫︎戻れないあの頃

香月に、仙堂さんのことと、映画のことは、別に考えてみてもいいんじゃないか、と言われて引っかかっていた主人公。今度は香月に誘われて、部室で映画鑑賞することになりました。見せられたのは、昔4人でよく見ていた、議論していた映画ということで、戻れないあの頃のことを思い出します。

ズッ友メンバー

「オレたちの撮った映画が、何十万人、いや何百万人の人たちを感動させられるかも知れないだぜ」
「いろんな人に泣いたり、笑ったりしてもらって、勇気を与えられる。幸せを感じてもらえる。そんな映画作りって、すごいと思わないか?」
「オレたちは、そんなすごい夢を目指してる、いわば同士じゃないか」

メモリーズオフ とぎれたフィルム

言うほど何百万人も感動させるって凄いのか。数の問題なのか。何百万人をうっすく感動させるよりも、ひとりの人生を根本から変えるような映画の方が凄いと思いますけどね。まあ何百万人も感動させたら、ひとりくらいは人生変わるかも知れないけど。雄介君の光の階段は、どちらかといえば後者の映画ですよね。麻尋の人生を変えるためだけの映画と言えなくもない。

⚫︎人間関係の天才

映画を見終わった後に、夏月から本当は映画撮りたいんだろ? と聞かれる主人公。雄介がいない映画作りは考えられないと返答するとこう返されます。

「私には春人がまるで、雄介の『せい』にしているように聞こえるぞ」

「もし雄介が生きていたとして、そんなふうに夢をあきらめる口実に自分がされたと知ったら……」
「そうしたら、きっとすごい怒ると思う。そうは思わないか?」

メモリーズオフ とぎれたフィルム

登場人物全員の性格を見抜いたセリフです。ここまで人間関係の機微が理解できていると、正解のわかってるパズルを解いている気分になりそう。はいはい、あれはこうだからああすればこうなるでしょ、みたいな。人間関係の才能がある人からすれば、人間関係なんてそんなもんなのかもしれない。僕は人間才能がないので、何をどうしたらこうなるのか、全くわかりません。というか大体外れます。この手の能力ってどうやったら伸ばせるんでしょうね。学校の勉強のように、ああすればこうなる、という、ある程度の線形性を持った分野なら、論理的な手順を踏むことで能力向上が望めそうですが、人間関係はああすればこうなるが効きづらいので、能力開発の手法がわかりません。とりあえず場数を踏めばいいのか。いくら場数を踏んでも、無理な奴には無理が気がする。それを言ったら勉強だって、無理な奴には無理なのでは、と言えなくもないけども。

主人公は香月の説得に近い行動で、映画を撮ることに決めました。完全に手のひらの上で転がされてるよ。やはり最高のパートナーだな。

⚫︎ちょっと優しくなった

麻尋にそんなことを言われた主人公。香月バフの凄まじさが垣間見えるセリフです。どんなパーティーにも欲しい逸材。

⚫︎私と映画作りどっちが大事なんですか問題

あすかに映画作りのことを話すと、こんなセリフが飛び出します。

「例えば、わたしと映画作りなら、どっちが大切ですか?」

「ハル先輩にとっては、わたしより映画の方が大事なんだ……」

「わたしの相手してるときは、いつもめんどくさそうにするクセに!」

メモリーズオフ とぎれたフィルム

前回も同じようなセリフなかったか。比較が好きやね君。雄介が映画作りに没頭してから仲が悪くなった話もあったので、あすかにとって映画作りはトラウマなのかも知れない。最後のセリフも悲しい。相手がめんどくさそうにしてる自覚があるのに、あれだけグイグイ行ける方もすごいけど。結局あすかブチ切れで説得不可能でした。説得する義務があるかというと、ないんだけど。カメラ恐怖症なのに周りが映画バカだらけで可哀想なあすかちゃん。

⚫︎映画よりあすかちゃんだろ!

CUM研メンバー、修司と木瀬さん部室に集めて映画制作の件を伝えると、修司が噛みついてきます。僕は反対だと。仙堂さんと映画を撮るなんて、あすかちゃんはそんなに簡単には割り切れないでしょうがと。言うときは言いますね。

「ユウはもういない。そのことはなにを言ってももうどうしようもないけどーー」
「あすかちゃんは今もいるんだよ? 一番に考えてあげないといけないのは、あすかちゃんのことでしょ?」

「たかが映画のために、あすかちゃんを傷付けるつもり!?」

「ああ、言ったよ! 映画なんかより、あすかちゃんの方が大事だろ!?」

メモリーズオフ とぎれたフィルム

なんという正論。その通りだよ。よく考えろ。たかが映画だぞ。国家事業じゃないんだぞ。世界の命運を握ってるわけでもないんだぞ。何百万人を感動させるわけでもないんだぞ。誰が見るかもわからない、たかがアマチュア映画だぞ。それを撮るために、親友の妹を犠牲にしてもいいんか。よくないだろ。映画制作は雄介の意思って、もう雄介はおらんのやぞ。あすかちゃんは今もいるんだぞ。どっちが優先なのか明らかでしょうが。何を考えとるんや。春人君、雄介から何かあったら妹の力になってくれって言われたでしょうが。そっちが無視していいんかい。雄介の意思だぞ。修司とも、僕たち二人であすかちゃんを守ろうって約束したでしょ。そっちは無視していいんかい。映画って言えばなんでも許されると思うなよ。

無慈悲な正論パンチをかまされ、売り言葉に買い言葉で、修司は逃亡。今度は香月がやってきて、私が来た、と言わんばかりに、この拗れまくった状況をなんとかすると言ってのけます。いや、流石の香月さんでも無理だろ。ただでさえスタッフ集めに奔走してるのに。なんでもかんでも有能社員に全部任せてたら、そのうちサイレント退職するぞ。少しは仕事を減らしてあげてください。

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