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【表現評論】メモリーズオフ コアレビュー外伝 飛田扉の考察【全作再プレイシリーズ】

●メモオフシリーズ、その他作品、様々なネタバレが含まれます。

⚫︎飛田扉(CV志倉千代丸)

千代丸先生の熱演が聞けるのはメモリーズオフだけ! かどうかは知りませんが、想い出にかわる君とそれからに出演していたトビーこと飛田扉について考察したいと思います。ギャルゲーなのに男の考察が始まる。男性キャラで考察できる人物はトビーくらいしかいないからね。あとは莉一くらいか。テンチョーもギリギリか。修司もいるか。結構いるな。信も良さそうだけどね。年齢を重ねることで、信の思想がどのように変わっていったのか考察できるかもしれない。まあ今回は飛田扉さんでいきます。

トビーは作品を通して不可解なことが多く、主人公にとっては不快な人物として描かれてます。想君だろうがそれからだろうが同じ。それからに関してはいのりとの別れの原因となっている人物でもあるので、ユーザーから見るととんでもねえ野郎です。愉快に描かれるシーンは全編にわたって皆無と言っても良い。深歩ルートの最後の方でちょっと分かり合えたくらいか。

飛田扉さんはおそらくシリーズで最も不幸な生い立ちの持ち主です。まず扉という変わった名前を持っていますが、これは児童養護施設の扉の前に置き去りにされた赤ん坊だったので、扉と名付けられたという経緯があります。すでに激重。一蹴君によると施設の中でも浮いた存在だったようで、施設を出てからもまともな生活を送っている形跡がありません。無愛想で無口で口を開いたかと思えば不愉快なことしか言わない人間なので、まともにコミュニケーションも取れません。さらに想君では犯罪スレスレというか、どストレートな犯罪者ではないかと思わせる描写すらあります。それからでは最近は多少マシになったという話もあった気がしますが、ユーザーにとっては想君だろうがそれからだろうが不快であることに変わりはありません。

ただトビーは作中の他の人物からは、それほど嫌われまくっている人物ではないことが伺えます。想君ではトビーと犬猿の仲であるのはショーゴ君くらいで、深歩やマグローとは普通に関係を保っていますし、それ以外でも関係が悪いような描写がありません。それからでも、関係が悪いのは一蹴君といのりだけで、信との関係はそこまで悪くないように思えます。つまりトビーは常に主人公(+いのり)と非常に仲が悪い人物です。

なぜそうなるのかは結構明確で、トビーは嘘が大嫌い、真実厨であるという特徴を持っているからです。つまりショーゴ君も一蹴君もいのりも嘘つきなわけですね。トビー視点だといのりはリナ(つばさちゃん)になりすましたとう大罪を犯してますし、一蹴君は過去を忘れて、嘘の記憶の中で生きているという大罪を犯しています。ショーゴ君は自分の気持ちに正直になれないという特性があるので、真実厨のトビーからすると、最も相容れないタイプの人間です。

真実厨であるが故に、嘘をつく状態から抜け出すと、途端に態度が変わるという特徴も持っています。それが最も現れたのは深歩ルートで、自分に正直になったショーゴ君と分かり合えたような結末でした。

トビーにはさらに激重な過去があります。バイクで事故って片足を無くし、相手(マグローの父親)は死んだという過去です。もともと変わった人間なんでしょうが、この事故が後の人生に大きな影響を与えていることは間違いなさそうで、罪を背負った人間は一生償い続けなければならないという価値観を持っています。それが一番現れたのがいのりルート。

それからでもう一つ得られた考察は、トビーが真実厨である理由です。この記事でも少し触れましたが、

トビーは自分の不自然な生まれから、世界の自然な状態に執着していると考察しました。嘘を嫌うのは、嘘が本来自然には存在しないものだからだし、一蹴がリナを忘れて生きていることに憤慨するのも、忘却していること自体が自然状態(真実)からかけ離れているからだし、ということです。

トビーの行動の全ては、自然状態に執着するが故の行動だと解釈すると、全てが説明できるような気がしています。想君もそれからも、主人公たちはことごとく自然の状態から離れて、嘘の世界で生きていこうとしているので、それを阻止しようとするトビーは主人公たちからは極悪人に見えるわけですが、最初から自然に生きている人間にとってみれば、ごく普通の人間に見えるのかもしれません。他の人の視点で物語を描けば、おそらくトビーは全く異なる人物として描かれるでしょう。見ている人の視点によって全く印象が変わるキャラクターというのは、メモリーズオフにはトビー以外にいないでしょうね。莉一とかあの辺のサイコなキャラは別として。

トビーのシリーズ最後のセリフがこれ。

「あの女にも、罪がある」

「罪を犯したヤツ同士、お似合いかもな……」

メモリーズオフ それから

真実と向き合って生きることにした一蹴といのりに対する言葉です。これめちゃくちゃ悲しいんですよね。トビーは自分と同じように罪に苦しんで生きることを一蹴といのりに対して強要していたわけですが、最後の最後で、お前らは二人で生きていけ、という赦しの言葉を出しています。

これは言い換えると、お前らはやっぱり俺とは違う、俺だけは一人で苦しんで生きていく、という自分への決意の言葉なんですよね。少なくとも自分にはそうとしか受け取れませんでした。あまりにも悲しい赦しの言葉です。

で、トビーはその後シリーズに現れなくなりました。いないよね? 少なくとも自分の記憶では出てないはず。きっと今日も一人で罪を償って生きているんでしょう。

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