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薄暗くて優しい 『雨の首』

作者:うさみみき
画像引用元:Amazon


同じ作者さんの『頽廃の花売り』という漫画がすごく良かったので、こちらも読んでみた。
タイトルを『雨の音』だと思っていたけど、
正しくは『雨の首』ですね。怖い。

黒猫が少女の首を欲しがる話。

Amazonより

上記はAmazonの紹介文の引用。怖い。

もうちょっとあらすじを書くと、
剥製のように、人間や獣人の首を「干し首」にする黒猫ロアと
ロアに拾われた、身寄りのない可哀想な女の子アメの物語です。

めちゃくちゃ暗くて辛くて残酷!という内容ではなくて
しっとり薄暗くて切ないけど、
可愛さやほのぼのしたところもあって、読みやすかった。
あらすじと表紙の絵で「好きそう!」と思った人は
実際きっと好きだと思う。
上下巻で完結だから集めやすいし、オススメ!

以下、めちゃくちゃ長文で語っていますが
ネタバレ大量で、読み終わった人向けの内容なので、ご注意ください~。







ネタバレありの長文感想だよ~

巻感想
アメちゃんが「んー」としか喋れないのが可哀想だけど可愛くて、複雑な気持ち。
かわいそかわいい大好きだけど。気軽に大好き~って言えない内容だね。

彼女はロアに懐いていくし干し首にも理解を示していくけど、
それは助けてもらったからで……。
嫌だったらやめていいと選択肢は提示されているし、
アメちゃんは無理してるわけではないけど……。
ここを出て悲惨な暮らしに戻るかここにいるかの二択、だもんなあ。
選択肢、あってないようなものだよな、って思う。
でもアメちゃんは幸せなんだからそれでいい、のかな。

巻感想
ふたりが幸せでよかった。 よくないのかもしれない。

悲しく思うのは
ロアは妻や自分の子供には救われなかったんだよな~ってこと。
ロアはアメにとっていい保護者だったけど、
いい夫でもなければ、いい親でもなかっただろうな。

アメにはあって妻子にはなかったものってなんだろうか。
従順さだろうか。

アメは酷い暮らしをしてきたからロアへの感謝が深い。
でも妻子はそうではなかっただろう。
干し首の仕事を気味悪がるのも当然だ。
少なくとも干し首は、子供に見せていいものじゃない。
強いショックを与えるかもしれない。心に深い傷をおわせるかもしれない。
自己責任で見れる年齢になるまでは、遠ざけておくべきものだ。

アメは干し首を見た当初、怯えていた。
ここは私の解釈だけれど、
「もうあの過酷な環境に戻りたくない」という思いが、
彼女をロアのもとに踏みとどまらせたのだと思う。
それは酷なことだったんじゃないか。
アメは干し首を受け入れて、愛したけれど
それは彼女の恐怖心を踏みにじった上にあるものなんじゃないか。

アメといる時のロアはいい部分ばかり切り取られているように思う。
きっとロアはとても酷いことをしてきている。
それでも、彼が自分の欲のためにアメを救ったことで
アメは救われた。
そしてロアも救われた。
そのことをよかったな、と思う。

アメがロアを愛したのは
アメが元々「かわいそうな子」だったからで、
過酷な過去がなければ、彼女がロアに懐くことはなかっただろう。
アメをこんなふうにした社会を憎むとロアは言うが、
彼女がこんなふうでなければ、ロアは救われなかった。
皮肉だし、歪だ。
でもふたりは幸せだったのだから、それでいいとも思う。

正しくて綺麗で整っていて間違いのない、
健康で明るくて誰が見ても祝福できるような、
そんな関係だけが「いいもの」なわけではないよな。
そんな思いを含めて
私にとって、苦さの残るハッピーエンドだった。
現実にアメとロアのような二人がいたら、
私はたぶんロアの立場の人に内心めちゃくちゃキレると思うけど。
でもこれはフィクションだし。
ロアが救われたことに、涙が出た。
ロアもアメも好きだよ!!

2023.11.30

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