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『キミと青いヨルの』のレビュー:ジャンプに載る快挙、物語体験型マダミスの名作

日本で最も有名で売れている漫画雑誌といえば週刊少年ジャンプです。発行部数は100万部を超えていて、これは漫画雑誌のみならず雑誌の全ジャンルの中でも最も発行部数の多い雑誌で、『ワンピース』や『鬼滅の刃』、『チェンソーマン』、『呪術廻戦』など、数々のヒット漫画が掲載されてきました。
そんな週刊少年ジャンプの3月20日発売号に『キミと青いヨルの』というマダミスとその漫画が掲載されました。ジャンプに掲載された漫画がプロローグになっていて、誌面のQRコードを読み込めば実際にマダミスをプレイすることができます。
マダミスの知名度が上がって世に普及するという面で快挙であるだけでなく、作品自体のクオリティも非常に高く、ジャンプ云々をさておいても初心者からベテランまで万人におすすめできる名作です。

ジャンプに掲載ということはマダミスをまったくプレイしたことがない人も対象になりますが、だからといって簡単に犯人にたどり着けるかというとそんなことはありません。
4人プレイながら、手がかりとなる情報を集め、論理的に推理するというマダミスらしい推論ができなければ犯人を探すことはできません。サブプロットも複雑というほどではありませんが、犯人探しだけに集中できるほど単純ではない適度なものが用意されています。
合計40分の議論時間は、推理の面でもプレイのやりごたえの面でも適切なボリュームです。

そして『キミと青いヨルの』で最も力が入れられているのは没入感です。
原作のきださおり氏は物語体験を重視して感動系リアル脱出ゲームを手がけてきており、本作でも遺憾なくその才が発揮されています。
単純に感動的でエモいストーリーというだけでなく、リアルをいかに感じさせるかということに心を砕かれています。物語体験は小手先のテクニックではなく、作品全体を通した一貫したテーマになっています。
マダミスではあまり見られない手法であり、特に初めて触れた人は驚きと感動を受けるでしょう(もちろんそうでない人も強度はともかくそれは同じです)。
そして物語体験が首尾一貫しているからこそ、プレイ後にさわやかな満足感を得ることができます。

システム面ではマダミスをプレイしたことがなく、GMがいない状態でも滞りなくプレイできるように注意が払われています。ほかの作品の中にはGMレスと言いつつ、GMがいた方が満足感が上がるという作品もありますが、本作は進行の説明が丁寧かつわかりすいため本当にGMは不要で、指示に従っていればスムーズにプレイすることができます。
キャラクターのハンドアウトや追加情報はブラウザ上で表示され、スマホで閲覧する想定になっています。集英社が2021年秋にリリースしたマーダーミステリーエクスプレスシリーズも同様の仕組みでしたが、同シリーズ作品と比べるとユーザー体験が格段に向上していて、本作はマダミスアプリ「UZU」と比べても遜色ないプレイ体験が提供されています。

細かな点ではキャラクターの行動には、実在する人間であれば疑問符がつくおかしな点はいくつかあります。しかしそれらは疑問に思いつつも受け流せる程度ではあります。
1つだけ致命的ではないもののゲーム体験に大きく関わることがあり、プラットフォームを統一して閲覧した方が良いでしょう。

本作は純粋にマダミス作品として見てもクオリティが非常に高く、マーダーミステリーミニシリーズとしてパッケージ販売されても上位に入る出来栄えです。
しかも少年ジャンプを購入すれば無料でプレイできます。仮にこの作品のためにジャンプを購入したとしてもわずか290円です。
ジャンプに掲載された意義も含めて、間違いなく今年のマダミスベスト10に入る作品です。

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