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一言で語れないからこそ、 「素敵」と言いたい。

大学に入学してから院を卒業するまでの6年間。
僕は軽音サークルに所属していた。
活動は三ヶ月に一度LIVEをする程度で、もちろん参加は自由。

常に200人以上が所属している大きなサークルだったから、
本当にいろんな人がいた。
オリジナルバンドを組んで本気で音楽をやる人。
飲み会にだけ顔を出す人。
オレンジの服しか着ない人。

いい意味でもわるい意味でも
とにかく個性的な人が集まっていたけど、
その中でも一際目立っていたのがKさんだった。

留年しまくっていたKさんは、出会った当時大学7年生。
ひどい猫背に鋭い目つき。めちゃくちゃとんがった赤い靴。
知り合う前は、怖そうな人いるなあ…ぐらいの印象だった。

でも、卒業した今だからこそ分かる。
僕が大学時代に一番影響を受けたのは
間違いなくKさんだ。

この人との出会いは、なんというか
自分の世界を一段階広げられた気がして
どうしても忘れられない。

そんなKさんについて、
今回は書いてみようと思う。

「たばこ吸ってるから」

ある日、一人の先輩がサークルの飲み会に誘ってくれた。
そこはいわゆる重鎮たちの集まり。
飲み会にいる人は当然全員年上で、
8人中6人が留年しているというまさかの空間。

そしてそこは、
軽音のスタープレイヤーの集まりでもあった。
参加している先輩は、とにかく楽器がうまい人たちばかり。
そして、めちゃくちゃ色んな音楽を聞いている。

「リサイクルショップで見つけた
500円のエフェクターがマジで当たりだった
ギターからオルガンの音がする」

「Radioheadはなんだかんだ
The Bendsが至高」

「家電を楽器にしてるバンドにハマってる
特に洗濯機の音がいい」

「最近はトリップポップ系かなあ
あと、部屋を暗くしてサイケな照明つけて
お経の音流してるとマジでキマれる」

もはやそれは音楽なのか。
グレーな趣味の人もいるし、
一周どころか三周ぐらい回ってそうな価値観の人もいた。

とにかく、自分のこれまでの人生にはないような、
ヤバイ人たちが集まっている場所だった。

でも、その人たちが聞かせてくれる話はとにかく刺激的で。
そこにいる誰かと会話するだけで、
自分の世界が少し広がったような気がして
いつもいつも本当に楽しかった。

そんな場所を仕切っているというか、
中心にいるのがKさんだった。


「たばこ吸ってるから」。

どうして僕が呼ばれたんですか。
とKさんに聞くと、理由になっているのか
どうかわからない返答が返ってきた。

人間の本質的な魅力は、そいつの暗い部分にある。
抱えてる闇が全身から漏れてるぐらいのやつの方が
おもしろいことが多い。

後からちゃんと聞くと、
めちゃくちゃひねくれた持論を話してくれた。
全身から闇が漏れてるってどういう状態やねん。

Kさんはいつもいつも、
どこから持ってきたのか分からない理論で
僕たちを妙に納得させる人だった。


「うまいうどんが食いたい」

Kさんには、人を惹きつける魅力があった。
たぶん、人生ではじめて「カリスマ」という言葉が
当てはまる人に出会った瞬間だと思う。

いわゆるリーダーっぽいというか、
たぶん社長とかに向いているタイプの人だと思う。
よく分からないことを言って、周りをどんどん巻き込んでいく。
決して全知全能なわけではなくて、
短期で怒りっぽいし、めちゃくちゃ人をいじるし、割とすぐ泣く。
あと、そのメンバーの中だとたぶん一番楽器がうまくない。


それなのに、仲のいい人たちで集まるときは
ほぼ必ずKさんが中心だった。
Kさんがする話はいつも不思議な説得力があって。
口達者で、頭の回転がとにかく早い。
飲み会で、Kさんが話しだすと
場の空気が全てそちらに持っていかれるような雰囲気があった。
プロ並みに楽器がうまい先輩も、Kさんの持論には敵わない。


そしていつもKさんは、やりたいことであふれている。

「うまいうどんが食いたい
今から香川行くから住所教えて」

その連絡がきた時点で深夜1時。
結局5人ぐらいの暇人が集まって、2時に福岡を出発。
Kさんの運転で讃岐うどんを食べに行った。
看板もない田舎のお店で早朝に食べるうどんは、
これまでに食べたどのうどんよりも美味しかった。

そんな弾丸旅行以来、全員がうどんの虜になって、
Kさんの家で夜な夜なうどんを手打ちで作ったのもいい思い出だ。


その他にも、
学部の留年生をほぼ全員集めて
ムダに集合写真を撮ったり、
使われていない冬のプールで
テントを張ってキャンプをしたり。
(しかも、大学の許可はもらって…
こういうところは意外ときっちりしてる)

そんな無茶苦茶な人なのに、なぜか憎めない。
むしろ不思議な人望がある。
最近退屈なんです、なんかやりましょうよ!
次は何するつもりなんですか?
Kさんの周りは、いつもそんな言葉をかけてくる
後輩であふれていた。

Kさんはたくさんの名言を残しているけれど、
特に心に残っているのはサークルの卒業LIVEでの言葉。

「人と人のつながりって、実際は本当に脆いもので
どちらかが手を伸ばそうとしないと、簡単に消えてしまうと思うんです
これまで出会った人の中には、自分から手を伸ばせなくて
関係が途絶えてしまった人もたくさんいます
けど、このサークルで出会った人たちとは
この先もずっと付き合っていきたい
僕が手を伸ばしたら、応えてくれるとうれしいです
いままでお世話になりました」

いつも無茶苦茶なKさんだからこそ、刺さったのかもしれない。
一回りも下の後輩たちがいる中で、少し気まずそうに、
けれど真っ直ぐに一人ひとりとの関係を
大切にしようとする姿勢に素直に感心したし、
8年間お世話になった場所で卒業の言葉を述べたあと、
深々とお辞儀をする姿は、とても素敵だった。


Kさんには本当にいろんな面があるけれど、
まあ、そういう人だ。

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たくさんの魅力が集まって、「素敵」になる。

「言葉の企画」第4回。課題は、
あなたの「素敵」な人についてエッセイを書くこと。

今回改めて、
自分がこれまでに出会った「素敵」な人について考えてみた。
そして、僕の中での「素敵」には一つの条件があると思った。


それは、一言では語れない魅力があること。


ここまでKさんの魅力をつらつらと書いてきたけれど、
Kさんがなぜ「素敵」なのか。
一言で言い表わす言葉は見つからない。

斜にかまえて世間を批判している反骨精神も
ロックでカッコいいと思うし、
友達の誕生日に本気のサプライズを仕掛けたり、
就職が決まった後輩と飲んでいる時に
急に泣き出したりするようなギャップも魅力だと思う。
論理的でクールなのかと思いきや、すぐ怒ったり、
感情的になってしまう部分すら
人間くさくてとても嫌いになれない。

そういうのを全部ひっくるめて、
僕はKさんのことを「素敵」な人だと思う。

「素敵」という言葉は便利だ。
けれど、それだけじゃない。

「素敵」という言葉は、
いろんな想いや感情の受け皿になれるような、
とても懐の大きい言葉ではないだろうか。

僕はこれからも「素敵」という言葉を使いたい。
もちろん、そう思った理由を考えることからは逃げずに。

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