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ダンサーとオットセイ

私は女性で法的に結婚しているため、配偶者は男性だ。結婚して20年以上経つのだけど、いまだにその呼び方に悩んでいた。

口から自然に出る呼び名は、初々しく名前のときもあったが、それは時間の流れが存在を薄くしてしまった。今は「旦那さん」と呼ぶことが多い。
DANNASAN。実は気に入っている。DANという響きの後に一呼吸あってsan と入るところが弾みを感じてダンスっぽい。口に出していうと特にこのリズムを感じて楽しい。
よ、ダンサーと心の中で思う。旦那さんは全く踊らない人だが。

しかし、実はこう呼んで良いのか、心底悩んでいた。結婚後しばらくしたとき、感性が素敵なミュージシャンが「旦那って(言葉が)下品」とするりっと語った言葉を聞いてしまったからだ。「旦那さん」は下品らしい。もう楽しく言い慣れ始めてしまったころだったが、下品は困る。品が良い方がいい。そこから私の言い方迷子が始まった。

「旦那」は主従関係の中の主の方でざっくりいうと施しをする・される関係性にあるからということも下品の一つの原因らしい。お商売を連想させるというのもあるらしい。

でも、「主人」というとそれこそ、この人の召使になったのかしら?と多少卑屈な気持ちになる。それから色々調べて「家人(かじん)」とか「つれあい」とか頑張って使ってみたけど、全くなじまず、こんなこと、頑張ることはないと思いつつ困っていた。

そして最も、オーソドックスな「夫」という呼び方。
残念ながら、日常的に本人に「夫」と呼ぶことはまずないだろう。友達に話すときに「夫がね」と話すほど日常がカチッと品が良いわけではない。おまけに私の思考回路のせいで、オットセイを連想してしまう。「夫」と使うたびちょっと面倒くさい。オットセイは可愛いけど。

それが先週、ある文章のなかで「旦那さん」という言葉が出てきた。あれ、使う人にもよるのかしら、全然下品な感じがない。いい感じのフランクで、日常生活に馴染んでいる。そして読んだときの音の響きがやっぱり楽しそう。
私の20年来の悩み事が、先週一つ解決できてスッキリした。

【9月28日・自宅にて】

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