庭の人格を形作った100冊(75/100)

part3です。

↓前回

51. くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4)
エリザベス・ムーン
発達障害とその”治療”が自己という存在に対してどのような意味を持ちうるのか改めて考えるようになった。”くらやみの速さ”という問いも心に残り続けている。

52. シベリアの掟
ニコライ・リリン
全く想像もできない犯罪者たちの、異常にしか見えない誇りと歴史の価値観を垣間見た。異質なものを知ることは視野を広げるきっかけとなる。

53. 脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす (ブルーバックス)
甘利 俊一
あまりにもすごい。脳を理解するうえで数理と言うものの必要性を認識し始めるきっかけ。

54. 意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論
ジュリオ・トノーニ,マルチェッロ・マッスィミーニ
定義でなく、現象に対する公理から出発し、定量的指標によって意識に挑むというアプローチは本当に世界の見え方が変わるような体験だった。IIT自体がどうというより、このタイプの方法論を知れたことが現在の学究態度に大きな影響を与えている。

55. 遠読――〈世界文学システム〉への挑戦
フランコ・モレッティ
精読ではなく、あらゆるテキストを分析にかけることで文学を再構成するという遠読の考え方に、文学における科学の勃興を見出した。これ以降自然言語処理にはまっていくことになる。あんまりこれに続くような本が出ていない気がするのは残念。

56. 脳の計算理論
川人 光男
計算論的神経科学の勉強を本格的に始めた一冊。マーの3階層といい、理論でしかわからない範囲と実験でしかわからない範囲、その両輪の必要性を理解し始め、その後の勉強の仕方を規定した。個別の知見も、特に書字を到達運動の連続とみなすと経由点で文字の特徴量が出てくるなど興味深い。

57. 深層学習 Deep Learning (監修:人工知能学会)
麻生 英樹,安田 宗樹,前田 新一,岡野原 大輔,岡谷 貴之,久保 陽太郎,ボレガラ ダヌシカ
さすがに今では古びた部分が多いが、総論部分をきちんと追ったことで現在DNNの実装する場面で何とかなっている。

58. 喪失とノスタルジア - 近代日本の余白へ
磯前 順一
常に何かをなくしたような気分である自分にとって、それらをはっきり言語化するようになったきっかけ。

59. 暴力と聖なるもの (叢書・ウニベルシタス)
ルネ・ジラール
すべての関係は相互的暴力であるとか、根源的暴力への希求だとか、暴力が生命への普遍的プロトコルであることを強く意識するきっかけとなった。

60. プリパラ ガァルマゲドン外伝: 怪獣アイドル ガァルル登場ガァル (ちゃおノベルズ)
桑原 美保,タカラトミーアーツシンソフィア
プリパラのアニメは、誰もがなりたい自分になれることとアイデンティティがテーマとなった極めて現代的な問題意識のハードSFであったが、その中でもアイドルものでは必ず現れる“選ばれなかった”少女に注目した今作は個人的に多くの学びがあった。

61. 自明性の喪失―分裂病の現象学
W.ブランケンブルク
自明的に了解されることが本当に何も了解できなくなってしまう症例が、自分自身の世界理解への違和感に大きく影響した。また、本格的に精神病理と哲学の交差点に触れ始めた本でもあり、人間精神の理解において、その異常によってむき出しの本質を見ることの重要性を認識し始める。

62. 狭小邸宅 (集英社文庫)
新庄 耕
仕事・金・何かを為す・何者かになる、これらの分かちがたさと自信の虚無に向き合うことになった。あと異常パワハラ描写の迫力がすごすぎます。なぜ不動産営業は心肺蘇生中の医師にも電話をつなごうとするのか理解できるようになるので医師の皆さんにもお勧め。

63.脳と時間: 神経科学と物理学で解き明かす〈時間〉の謎
ディーン・ブオノマーノ (著), 村上郁也 (翻訳)
実際読んだのは英語原著。認知における時間と空間の類比と関係、そして基盤となるその存在を強く意識していたが、この本でかなり言語化が進んだ。地味に初めて読み通した英語原著だったので、そういった意味でも思い出深い。

64. Hirsch・Smale・Devaney 力学系入門 ―微分方程式からカオスまで―
Morris W.Hirsch,Stephen Smale,Robert L.Devaney
高等教育を受ける人間なら全員がこういった系の時間発展について最低限勉強すべきだと強く信じている。

65. ヴィトゲンシュタインの甥
トーマス ベルンハルト
人間本性と天才性、そして去っていた友人への弔鐘、世紀末のウィーン的な最後の貴族たちといったものへの憧れを強く意識し始めた。

66. 重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)
シモーヌ ヴェイユ
恩寵・愛・重力。すべて現在でも自分の中心的テーマである。

67. 火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者
オリヴァー サックス
自分にとって最も本質的なものを神経疾患によって追い求め続ける羽目になる話が多く、”銀の庭”度が非常に高い。自らの発達特性とあわせて、健常者との異質性、すなわち火星の人類学について思うところが現在でも尾を引いている。

68. ロボトミスト 3400回ロボトミー手術を行った医師の栄光と失墜
ジャック エル=ハイ
うつ病の難治症例という医者も患者も絶望に支配される領域で、わずかに見えた希望の光を追い求め続けたことによる一瞬の栄光と、地獄への失墜。わが子と自らの行った治療法を失った男が、それでも何かを求めて旅をする人生の書。「精神医学とは絶望の管理である」、それでも医師は希望に手を伸ばしてしまう。

69.脳のヴィジョン
S.ゼキ
視覚、特に色を中心に局在論という概念が明確になっていくまでの研究史に重点が置かれた本。数々の否定され終わった仮説を列挙していて、人の営みとしての科学に思いをはせることになると同時に、視覚(ヴィジョン)において脳がどのようにな仮説でみられてきたということから、未来においてどのように仮説を立てて脳をとらえるかという視点(ヴィジョン)の話へとタイトル回収されて激熱。

70. 精神医学の実在と虚構
村井俊哉
精神疾患はすべて生物学的に回収されるという素朴な考えが揺らぎつつあったときに、そもそも操作的定義と疾患の本質主義のあり方について多くの“言葉”を得た書。より何もわからなくなったともいう。

71. 宅間守 精神鑑定書――精神医療と刑事司法のはざまで
岡江 晃
ほぼ実際の精神鑑定書がそのまま出版されており、一人の人間である凶悪犯罪者の人生のほぼ全てが、司法と精神医学の場でどのように読み解かれ、そして判断が下されるのかという過程をはっきりと知ることができた衝撃。あとこれ守秘義務ってどうなってるんですか?

72. ロシア宇宙開発史: 気球からヴォストークまで
冨田 信之
夢と空想、政治と思想、すべてが何人もの天才を通じて織りなしたコスミズムというすべてを支配しようとした巨大な何か。その輝ける(ほこりをかぶった)年代記。人間はどこまで行けるのだろうか。

73. 人類の星の時間
シュテファン・ツヴァイク
歴史と人間が交差するその一瞬の、幸か不幸かはわからないが、永遠になってしまう決定的な瞬間。それをひたすら集めたこの本は、自らの運命について考えるのに十分すぎる。

74. 中世の覚醒―アリストテレス再発見から知の革命へ
リチャード・E. ルーベンスタイン
スコラ哲学という神と理性が交差する西洋の思想的基盤において、アリストテレスとイスラーム学問がいかに大きな役目を果たしたのかを始めて認識し始めた。とくにイスラーム学の先見性については、安易な欧米中心的知の体系という世界認識を改めるきっかけとなった。

75. 西洋哲学史 ―古代より現代に至る政治的・社会的諸条件との関連における哲学史
バートランド・ラッセル
軽妙で皮肉に満ちた文体で、教養というべき内容を読めたことは幸福だったと心の底から思っている。あと、大学図書館で借りた2巻に、学生運動家が残したと思われる書き込みがあったのも、そういった歴史への実在性の感覚に強く影響した。


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