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就活の話~地方×文系大学院生⑧ビッグデータと就活~

すでに一周遅れ感がありますが、某大手就活情報企業による、内定辞退率なるものの売買が問題になっていますね。
某大手就活情報企業では長すぎるので、ここからは便宜上R社と書きます。

簡単にまとめると、

・R社が自社のサイトで得たデータをAIで分析して「内定辞退率」を予測し、38社に販売した
・利用者の内7983人からは、データの外部提供の同意を得ていなかった
・R社は予測データは採用判断に使わないと確約を得ていたと発表しているが、データが販売されたのは内定者の決定前だった

このニュースを見て、いろいろと思うところがありすぎてまとめるのに時間が掛かってしまいました。
ぼつぼつ書いていこうと思います。

1.ニュースを見てすぐに思ったこと

まず、一就活生としてすぐに思ったのは、「最低最悪」の4文字でした。
その時のツイートを振り返ると、こんなことを呟いています。
(Twitterってこうやって振り返るツールにも使えて、便利ですね)

でも、なにがどのようだから倫理的にだめだと思ったのか、それを掘り下げるのに思いのほか時間が掛かりました。
現在は「就活における就活生と企業のフェアネスを侵害しているから」、「就活生の苦しみを助長しかねないから」と結論付けています。

2.1個人情報の取り扱いに関する同意って言ったってさ

結論について述べる前に、ビッグデータの扱い方について思ったことを述べておきます。ここはただの感想パートです。

就活において、R社が就活生側にも企業側にも多大な影響力をもつことは、多くの人が知るところでしょう。
寡占市場であるために、R社次第で、就活のあり方はいくらでもR社にとって都合がいいように作り変えることができると言えます。

具体的には、R社のナビを通さないと応募できない企業がたくさんあります。
むしろ、R社のナビに登録せずに就活をすると、かなりやり方が限られてしまうと言っていいでしょう。
(2019年8月27日追記:この記事で、R社の寡占ではないことがわかりました。大変失礼しました)

R社は、そもそもの段階で個人情報の取扱い許可の取得に不備がありました。
それは明確な個人情報保護法違反らしいので、だいぶずさんな態勢であることがわかります。

ちゃんと規約を確認しない方が悪いという人もいるでしょう。
しかし、逆に聞きますが、何かに登録する時に規約を隅から隅まで読む人なんてどれくらいいるんでしょうか。
更に、同意しないと登録できないようになっているなら、するしかないんじゃないでしょうか。

そういう「同意したくなくても同意せざるを得ない」状況になっていること自体、企業優位というか、パワーバランスの歪さを感じます。

2.2プライバシーと便利さの対立

私はデータサイエンス事業を行っている企業の1dayインターンに参加したことがあります。
その時に知ったのですが、データって本当に、思いつきもしない場面で蓄積されていて、かつデータを掛け合わせると思いがけないことがわかったりするんですね。

R社の場合は、自社サイトを利用した時間帯、回数、閲覧した企業など、とにかくありとあらゆる事柄がデータとして蓄積されているはずです。
正直、私はサイトの利用履歴から内定辞退率なるものが導き出せるとは全く思っていませんでした。

でも、ほとんどの人はどこでどういうデータが蓄積されて、そこから何が導けるかという感覚をもっていないんじゃないかな。
もっているとしたら、実際にデータを扱っている人くらい。

私は、自分に関するデータが自分の与り知らないところで集められて、そうしてR社のように自分が嫌悪感を抱く使い方をされるかもしれないと思うと、率直に言って「気持ち悪い」です。
プライバシーを侵害されているような感覚です。

3.1就活生と企業のフェアネス

本題に戻ります。
まずは「就活生と企業のフェアネス」について詳しく述べていきます。

就活はよく恋愛に例えられます。
互いに求める相手に巡り会うために、選びあっていると。
マッチングである以上は、就活生と企業は対等な関係であるはずです。

しかし、企業側にのみ内定辞退率という就活生にとって不利なカードがあると、一方的に企業が有利になります。
恋愛で言えば、相手に好かれにくくなるような面をせっかくうまく隠していたのに、第三者がこっそり相手に伝えていたようなものです。

仮に、企業側に内定辞退率を提示すると同時に、企業にとって不利な情報を就活生にも見せているなら、まだフェアネスが保たれているからマシだと思うんです。
しかし企業側(要はR社にたくさんお金をくれそうな方)にだけ擦り寄った。
就活生側には就活がフェアな場であると言いながら。
それはやっぱり、一就活生としては「ずるい」と思ってしまいます。

3.2就活生の苦しみ

次の問題点として、「就活生の苦しみを助長しかねないから」があります。
就活がいかにしんどいものか、私も何度もnoteで書いてきましたし、一般的に言われてもいます。

「就活うつ」、「就活自殺」なんて言葉もあるくらいです。
内定が出ないことを苦に心身に支障をきたすことは、大いにありえます。

内定が出ないということは、それだけ就活生にとってつらいことです。
働いている人から見たら、「なんだそんなこと」と思うかもしれません。
でも、他人がどう思うかなんて関係ありません。
実際にそれだけ悩み苦しむ人がいるということが重要です。

確かに、企業の人事も大変だと思います。
有効求人倍率はおよそ2倍と言われており、全企業の半分しか必要な人材を確保できないことになります。
せっかく説明会だの面接だのコストをかけて、あれこれと社内の手続きを経て内定を出したのに辞退されたら、すごい迷惑でしょう。

人事の方々を助けるという意味では、このサービスは確かに世のため人のためになっていたのかもしれません。
実際に売れているわけですし。
(内定を出すかどうかの判断に使ったかはわからないことになっていますが、9割以上の確率で建前だと思っています)

でも…私は一就活生なので、やっぱりそっち寄りの立場で判断したくなっちゃいます。
就活なんかで心身に支障をきたす人なんて、増えてほしくないです。
内定辞退予測なるもので内定が出なくて、それが原因となって心身に支障をきたした人がいたかもしれないと思うと、はらわた煮えくりかえります。

4.まとめに代えて―企業の倫理観

私は、「内定辞退予測を出してクライアント企業に売ろう」と思いついたこと自体は、別に責める気はありません。
データを扱っていれば「内定辞退率予測ができるのでは?」と思うこともあるだろうし、それを使ったビジネスを思いつくのも、企業に属する人間としてはありがちな思考回路だと思います。

しかし冷静に考えて、「内定辞退率予測を売ろう」と思いついた人がいたからって、必ずしもそれが実現されるとは限りませんよね。
R社の経営層か事業責任者かわかりませんが、誰か権限のある人(たち)がゴーサインを出してしまったのが問題だったのではないでしょうか。

なぜゴーサインを出してしまったかというと、倫理的にこれはナシだ、世間の反発を買うという感覚が、意思決定者に欠けていたんじゃないかと思います。
より便利にデータを使って儲ける方法を追及した結果、このような事態になったのではないだろうかと。

ビッグデータの活用が叫ばれている現状、そのデータをどのように使うのかについて、よりセンシティブで慎重な判断が求められると思います。
効率化とか商業化だけでなく、それが本当に「いいこと」なのか、「誰にとって」いいことなのか、きちんと考えていかなければならないです。

データサイエンスの技術ばかりが発展して使う側の人間が未熟なままって、SF作品みたいな状況になってしまったなあと思っています。
そもそも人間が成熟していた時期なんて、ないのかもしれませんけども。

▽おまけ
STEM(Science,Technology,Engineering,Mathematical)一辺倒になりがちな現代に対して、人文科学の視点とバランスを取ることの大切さについて書かれた本です。

この本を読んだときは「あんまり濃い内容じゃないな」って感じでしたが、R社みたいなことが起こると確かにみんな読んだ方がいい気がしてくる。

#COMEMO #NIKKEI

最後までお読みいただきありがとうございます。 これからもたくさん書いていきますので、また会えますように。