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課題の本質を「知る」──『プランニングの基本』から【6】

『この1冊ですべてわかる プランニングの基本』(高橋宣行著)一部公開、第6回です。
創造的プランニングの工程、STEP1は「知る」こと──情報の「量」だけがあふれる時代において、本当に質の高い情報とは何か、どのように収集すればよいのか。

「第3章 プランニングの工程──創造的プランナーの段取りとコツ」より

「知る」ことが、あらゆる仕事のスタート

STEP1「知る」〈課題の本質を発見〉は、STEP2とSTEP3のために存在します。従来、コンセプトやアイディアの発見は、情報量に比例すると言われ、情報持ちになることを目指してきました。

しかし今、IT、ビッグデータの時代になり、情報の量だけは溢れています。ここで本当に必要な「質の高い情報」とは何か。あらためて、何のために情報収集をするのか、なぜ「知る」ことが大事なのか。これらを明確に意識することが、すべてのプランニングの「差」につながっていきます。

情報そのものが価値を持った時代は終わりました。今は情報を加工し、コンセプトに…、アイディアに…、と価値を創造する時代です。ようするにコンセプトメイキングが目的で、その手段として質の高い情報が求められているのです。

「知る」ことで新たな課題が見えてくる

「知る」には2つの大きな目的があります。

1つ目は、「真理を探るため」。
2つ目は、「『その先』を描くため」。

「真理を探るため」とは、例えば「なぜ売れないのか」「なぜ関心を寄せないのか」その悩みの本質は何か。ここを徹底的に深掘りしていくためです。しかし、今は情報が当たり前に手に入り、わかった気になり、深く悩まない、深く考えなくなっています。調査、データから事実を取り出し、簡単に結論にしてしまうのです。

世の中との関わり、モノゴトの背景、人との関係から、人々の本音を探し出し、問題の本質を深掘りするから、新たな課題発見につながっていきます。

つまり、「新しい課題創造をする」ための視点を持ち続けることで、変化をつくり出すことができるのです。

「何が問題か。悩みの根っこはどこにあるのか。なぜ好かれないのか」。ここに触れる情報こそ、質が高い情報と言えるのです。

2つ目の「『その先』を描くため」とは、情報を駆使し、新しい標準をつくり、市場を創り出すために、どんな「知る」が必要か。現状を超え、つねに一歩先を走るために何が必要か。それを描き出すために情報を集めるわけです。

成熟し、モノ余りでコモディティ化(汎用化)した社会で、頭ひとつ抜け出すのは大変なことです。しかし、ここを意識しないかぎり、いつも同じウズの中から抜け出せません。そのためにも「知る」ことは「創り出す」ための第一歩と考えてください。

①大きな夢を見るために、②独自のイメージを描くために、③新しい情報価値づくりのために、「その先」を描くための情報収集(下記の1と2)が不可欠なのです。

プランニングでの情報収集とは

情報収集は、

1 特定情報──テーマ、課題に関する情報
2 一般情報──知識、経験、常識、良識

の2つがあり、意図する、しないにかかわらず、この2つの方向から集めています。

1の「特定情報」は、課題・テーマ周辺の情報、データ、知識です。それは社会、市場、消費者、商品、競合、流通、コミュニケーション、トレンドなどで、全体把握と問題点を探し出します。

2の「一般情報」は、常日頃蓄えていた雑学、人生経験、珍しい体験、常識、センス、キャラクター、性格、雑学などで、一見、無関係な情報がプランニングをする時に引き出されてきます。

当然、1の特定情報だけではライバルと同じ土俵から出られません。人と違う、ホカにないことをプランニングするためには、2の自らの一般情報が1と組み合わさって新しい土俵を創り出し、そこでプランニングするのが理想です。自らを磨くことで考える土台は上がり、それが創造力を高めることになるのです。

「テーマ」がある。さあ、どう情報を集めるか

私の場合、テーマが決まっていても、①闇雲に情報を集める場合と、②テーマのもとに仮説を立てて情報を集める場合があります。

その時の仕事の状況にもよりますが、いつもはまず「闇雲」を狙い、ひたすら情報収集に集中します。

②のテーマに沿って集めると、どうしても関連した狭い範囲の情報になってしまいます。時間を決め、広げられるだけ広げる…。その間、いっさいアイディアを考えません。蓄まるほどに、後々の組み合わせが増えてくるし、何が化学反応を起こすかわからない。そんな楽しみがあるからです。パーセンテージで言えば70%情報収集、30%が考える時間でしょうか。

ムダなようでも直線には走らず、寄り道をするほどに自らの一般常識が増えていく…。これがまた次に生きてきます。


プロフィール

高橋宣行(たかはし のぶゆき)

1968年博報堂入社。制作コピーライター、制作ディレクター、制作部長を経て、統合計画室、MD計画室へ。制作グループならびにMDU(マーケットデザインユニット)の統括の任にあたる。
2000年より関連会社を経て、現在フリープランナー。企業のブランディング、アドバイザー、執筆活動などで活躍。著書に『高橋宣行の発想ノート』『高橋宣行の発想フロー』『高橋宣行の発想筋トレ』(以上、日本実業出版社)、『博報堂スタイル』『今どきの、発想読本 「コラボ」 で革新』(以上、PHP研究所)、『オリジナルシンキング』『コンセプトメイキング』『「人真似は、自分の否定だ」』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『発想職人のポケット』(小学館)他がある。


※著者が本書のねらいを語った「はじめに」も小社公式サイトで公開しています。

※『この1冊ですべてわかる ○○の基本』シリーズラインアップはこちら!


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