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原田マハさんの「生きるぼくら」を読み、親に会いに帰った話。

以前、原田マハさんの「生きるぼくら」の冒頭を読み、思わず親に連絡を取ってしまったことがあった。

あれから1か月。
ゴールデンウィークなどの人が密になる時期も過ぎ、ちょっと落ち着いてきた今。
たまたまその土日に予定がなかったため、ついに実家に帰ることにした。

その結果、大学時代に帰る時とはまた違う感情を覚えた。
また定期的に帰ってきたいと思った。

1,

あれから1か月。生活にはいろいろな変化があった。
仕事が本格化し、スランプに陥ったり。
意識しすぎもよくないけれど、同期とどうしても比べてしまったり。
周りが目標に対してストイックなため、気付けば退社が遅くなっていたり。
自分の中で、「ちょっとしんどいな」が積み重なっていた。

そうした日々を過ごす中で、ふと思い出す。
親に会いたくなった日を。
『生きるぼくら』から感じたものを。

だから僕は、一度実家に帰る選択をした。
学生時代よりは距離が離れてしまったため、それなりにお金はかかる。
しかし今は、薄給ではあるが学生時代よりもお金がある。
「なんで今?」と友人は聞くけれど、帰る時間があるのだから帰りたい。
お金よりも時間が大事。だからこそ、今しかない。

そう思った僕は、金曜日の終業後、東京駅に向かった。
結局お金のことを考えて、行きは夜行バスにしたけれど。

2,

冒頭の段階で既に読むのがやや苦しくなった『生きるぼくら』。
他の本よりは進捗が遅いが、あの後も細々と読み進めている。
そして読み進めるうちに、また新たな思考の整理が進んできた。

物語は中盤になり、主人公・人生にも少しずつ変化がみられる。
母の失踪から幼少期に親に連れて行ってもらった蓼科へ。
そこでの祖母との出会い。離婚した父の再婚相手の連れ子との出会い。
引きこもりだった人生も、蓼科という地で自分に責任を持って生きるべく、
新たな仕事を勤勉にこなすようになった。

現地の人との交流の中で、人生は「生」を感じ始めた頃、
祖母の認知症が一層進んでしまい、周りの人も、人生のことすらも記憶から消えてしまう。

そんな中でも芯を持って生き続ける人生に、僕も自然と刺激を受けていた。
そして、気付けば両親だけでなく、自分の祖母についても考えるようになっていた。

3,

実家に戻ると、両親と祖母が温かく迎えてくれた。
懐かしく、馴染みのあるあの顔で。

何気ない昼食を食べ、何気ない会話をし、
ちょっと近くまでドライブをし、夜には盃を交わす。
自分が買ってきたお土産を渡すと喜んでくれて、
また新たな話を始める。

本当に何気ない日常だけど、これはとても貴重な時間だろう。
また日常に戻ったら、この光景は非日常になるのだから。

高校時代、一緒に住むのが当たり前だったころにはこんなに話をしただろうか。大学時代、たまに帰ってきたときにはそのありがたさを分かっていただろうか。
貴重になってはじめて、そのありがたさが分かる。
ひょっとすると、最近Uターン者が増えたのも、そうした理由からかもしれない。

4,

自分自身、変化する環境を味わうことが好きだ。
もちろん日々つらいこともあるけれど、刺激ある毎日を過ごしたいと思うし、変化がないのは退屈だと思うほう。

しかし日々変わりゆく日常の中で、全く変わらないものはない。
変化が少ないものを、「変わらない」と認識しているだけ。
そのほうが、自分にとっても理解しやすいし、そう思いたいから。
そして、変わらない=非日常と分類しやすくなるから。

都会の人が田舎に憧れるように。
田舎の人が都会に憧れるように。

一時的な非日常は、自分の心の救いになる。
変化の激しいこの社会では、変化の少ない環境が落ち着くこともある。

変わらないものは、学生時代からのコミュニティの仲間と親。
そう思っていたが、実際は微妙に違った。

変化の幅は少ないが、コミュニティも親も生きている。
実家に帰ってみて、確かに親は元気そうだったが、細かく見るとやや年相応になっていたり、歩いた時の疲労が増していたり。そして祖母も、年相応に同じことを聞き直したり、すぐ忘れてしまったり。
ひょっとすると見えない部分にあるなにかも、ちょっとずつ変わっているのかなとも思ったり。

やや寂しくなるが、生きている以上はそれが当たり前だ。
そしてきっと、自分も少しずつ変わっていく。

変わらないからといっていつまでも先延ばしにしていたら、いつの間にか大きく変わってしまっているかもしれない。
この当たり前も、もう当たり前ではないかもしれない。

だからこそ、時間がある時に帰省したい。
またすぐに、親の顔を見たい。
なんなら動けるうちに、こちらまで来てほしい。

そんなことを思いつつ、僕はスケジュール帳をめくっていた。
次はいつ会いにこようかと。



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