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『ボーイズラブの勃興と同人誌』-BL初期に同人誌の果たした役割

0.はじめに
 このテキストは、ボーイズラブ初期のキーパーソンだったマンガ家、小説家、編集者へのインタビュー集、「あの頃のBLの話をしよう」(2016年7月/桜雲社)に、コラム(?)として収録されたものです。

 <BL初期に同人誌の果たした役割>というサブタイトルは、noteに掲載するにあたり、見出しとしてのわかりやすさとして、付与しましたが、もう少し具体的には、<BL初期に、同人誌、特に二次創作・パロディ同人誌の果たした役割>ということになります。

1.前史
 1978年10月の「COMIC JUN」(3号目から「JUNE」に改題・サン出版)創刊によって、主に女性読者を対象とした男性同士の同性愛表現をテーマとした商業雑誌に現れた。その後、1980年10月にライバル誌「ALLAN」(みのり書房)も生まれた(1984年休刊)。1983年10月には小説に特化する形の「小説JUNE」が創刊された。これらの商業雑誌が生まれた背景には、70年代前半~後半にかけて、萩尾望都・竹宮恵子(後に惠子)といった二十四年組を中心とする少女マンガ家たちが、SFや少年愛を題材とした新しい表現に挑戦し、多くのファンの支持を集めたことがまず挙げられる。彼女たちの多様で既成の少女マンガを打ち破る自由なスタイルは、幅広い支持だけでなく、マニアックなファン層を形作ることになった。また、同時期イギリスで流行ったグラムロックの影響が日本にも及び、マーク・ボラン、デヴィッド・ボウイ、QUEENといったロック・ミュージシャンが新しい少女マンガや「JUNE」での美形男性キャラの確立に大きな影響を与え、いわゆる耽美系と呼ばれる要素がここに生まれた。
 1975年12月にはじまったコミックマーケットの初期においても、上記の「少女マンガブーム」の影響が色濃く反映された。1976年4月には『ポーの一族』のパロディ作品『ポルの一族』が、同人誌『漫画新批評大系叢書 vol.1 萩尾望都に愛をこめて』(迷宮’76)にて発表され話題を呼ぶ。笑いもやおいもおもちゃ箱のように詰め込まれたこの作品は、コミックマーケット準備会初代代表でもある原田央男(霜月たかなか)を中心に作られたものだ。原田は、『コミックマーケット創世記』(朝日新書)において、「コミケットがパロディ化・アニメ化によって「まんがの遊び方」を教えてしまった」と後に述懐するが、この作品がコミックマーケット(以下コミケと省略)におけるパロディ文化の嚆矢となる。
 1979年12月に発行された同人誌『らっぽり やおい特集号』(漫研ラヴリ)では、「山なし落ちなし意味なし」という<やおい>の定義が語られ、転じて男性同性愛の性表現、特にパロディ同人誌におけるそれを指す言葉として使われるようになる。70年代後半からのアニメブームを受けて、徐々にコミケの主流をなしていくようになるパロディ同人誌においては、原作のいわゆる美形キャラがやおいの主たる対象であり、その造形も原作の絵柄を相当に残しつつ、耽美系の傾向を受け継ぐものが主流であった。

2.C翼ブーム
 1980年代前半において「少年愛ブーム」で話題となった諸作品や、「LaLa」「別冊少女コミック」の主要作品などが連載終了し、当時のマニアックな少女マンガファンの支持を得ていたマンガの多くがいったんなくなるのとほぼ時を同じくして、1985年から大ブレイクがはじまったのが同人誌における『キャプテン翼』(以下C翼)パロディである。C翼ブームには様々な要因があるが、その大きな要因の1つは、特徴あるキャラが大量に描かれていながら、全体としては非常に個性に乏しく、その表層的な記号性がパロディ対象に非常に適していた、ということが挙げられる。しかも、原作は健全なスポーツマンガであり、キャラクターのグラウンド外の生活がほとんど描かれず、パロディとしていかようにもアレンジ可能であり、しかもアニメ化もされている「少年ジャンプ」作品という点で誰もが知っており、共通言語性も高い。パロディ同人誌を描く少女にとって、これほどうってつけの原作はなかった。
 1985年前半からはじまった人気は、1986年に入ると過熱とも言えるブームを迎える。若い描き手・読者が多かったこともあり、その暴力的とも言えるエネルギーは、様々な軋轢を呼ぶ。若い参加者たちのマナーがなっていないと、特に、既存のパロディや耽美系ジャンルのサークルからC翼ジャンルは目の敵にされた。しかし、そのパワーによって、現在にまで続くありとあらゆる「パロディネタ」が生み出され、新しい物語が紡がれる中で、しだいに原作キャラの記号だけを残し、絵柄はそれぞれの描き手のオリジナル性が発揮されるようになる。そこには、「JUNE」や耽美がある種のエクスキューズとして持っていた文学性、高尚さ、韜晦といったものはほとんどなくなる。その方法論は、現在に至るメルクマールとなった。その後の『聖闘士星矢』『鎧伝サムライトルーパー』といった作品のヒットとパロディのブームの持続は、読者の年齢層が団塊ジュニアというボリュームゾーンであることと相まって、コミケと同人誌の市場を大きく拡げていく。

以下、有料エリアにおいては、こんなことが語られます。ご興味のある方は、よろしくお願いします。

3.パロディサークルの創作(JUNE)ジャンルへの進出
4.商業誌への展開
5.JUNE系小説作品のパロディ
6.ボーイズラブの勃興
7.創作(JUNE)ジャンルの伸張
8.ボーイズラブ全盛期に向けて
9.まとめ

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