幸せな一夜~グスターボ・ドゥダメル初公演

【前書き】

ベネズエラの指揮者、グスターボ・ドゥダメルが、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラと一緒に初来日した、2008年12月17日のコンサートレポです。

2008年4月のTBS深夜の『CBSドキュメント』で、若干26歳にして、ロサンジェルス・フィルの首席指揮者就任が決まった、グスターボ・ドゥダメルの特集が面白くて、気になってCDを買ったら、とんでもなくすごくて(ベートーヴェンの交響曲第5番&第7番)。

で、12月17日などという無茶な日付なのに、がんばって行ったコンサートでした。興奮冷めやらぬまま、その日の深夜に書いたので本当に前のめりですが、笑って読んでやってください。

【ということで、本文】

 個人的な万難を排しての東京芸術劇場。グスターボ・ドゥダメルの初来日公演初日。

 大編成のため、ステージに満杯のシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ(SBYO)の面々。弦楽器だけで一体何人いるんだー。

 1曲目は、ラヴェル「ダフニスとクロエ」第2組曲。今回の曲目では最も官能的な曲ゆえ、ある意味本領はここかと思ったら、想像通りの艶やかさ。クラシックの演奏で使うのが適切なのか躊躇するのだが、この言葉しか当てはまる言葉が浮かばないグルーブ感、スイング感が見事。そのスリリングさは、1曲目とは思えない。結果、1曲目から、ブラボーとスタンディングオベーションが始まる。

 2曲目は、 カステジャーノス「パカイリグアの聖なる十字架」。ラテンの独特の土着感と陽気さを楽しむも、一方で切り裂くような鋭さもお見事。さらに、ブラボーの声高まる。

 ここで休憩。今日はほぼ満席だが、明日のハコが東京国際フォーラムAなので、まだチケットが余っているようだ。前半で感動した人が相次いでそれを求める姿に納得。ボクも明日外せない打ち合わせがなければ、買ってたよ。明日は明日で、アルゲリッチとカプソン兄弟も出るし、マーラーの「巨人」だし。

 そして、メインの3曲目は、チャイコフスキー「交響曲第5番」。いい意味で裏切られる。CDになっているベートーヴェンのNo.5とNO.7や、youtubeで観たショスタコーヴィッチの交響曲10番から、今回も若々しい、勢いと大胆さ。そして、その解釈が正しいのかどうかすら忘れさせてくれる根源的ともいえる明るさで疾走するんだろうと勝手に思っていたら、これが、どうして、堂々たる風格。抑制が利かせるところは細心に(第2楽章のラストは息をのんだ)、リズミカルなところは軽やかに楽しげに(第3楽章)、そして、第4楽章は、自由奔放で淀みない流れが、圧巻のラストへ。

 ドゥダメルの指揮は、常に何故か聴く者に緊張を強いる。その緊張が聴衆を縛り付けるのだが、エロティックで爆発的なフィナーレが圧倒的な開放感をもたらす。そう、言うなれば、彼の音楽は、とてもSM的だ。

 当然ながら、ブラボーの嵐とスタンティングオベーション。ボクを含め今日の聴衆たちは「伝説の日本デビューの夜」に立ち会うことを望んだ人たちだ。だから、聴衆も恥ずかしいくらいにちょっと前のめりだったとは思う。そんなスノッブな気持ちを吹き飛ばして、ドゥダメルとSBYOはその期待に見事に応えてくれた。その意味でこれだけの賛辞は当然だ。

 アンコール1曲目は、ある意味ドゥダメルとSBYOのシンボルソング的な作品であるバーンスタインの「マンボ!」。youtubeで観た衝撃も繰り返されると、もはやお約束だが、それでもラテンな明るさがたまらない。狭苦しい舞台でも、いつものようにコントラバスをクルクル回しているのが微笑ましい。でも、客席おとなし過ぎだよ。もっと頑張れ! SBYOの若い連中をノせてナンボだよ!

 アンコール2曲目は、ヒナステラの「エスタンシア」から「マランボ」。さらに、SBYOのテンションは上がり、踊り出すは、椅子に乗ってはしゃぎ出すは、バカ騒ぎ。ようやく客席も盛り上がる。フィナーレとともに、場内全てが笑顔、笑顔、笑顔。

 アンコールが終わっても、拍手とブラボーは鳴り止まず。何度も呼び出されるドゥダメル。もう一曲やるかの勢いだったが、さすがにそれはなし。みんながみんな楽しそうに家路へとつく。

 何と幸福な一夜だったことか! ドゥダメルとSBYOという若い才能の未来に幸あれ!

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