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BOOTHガイドライン変更(実写AVは事実上販売NG)についての考察

 2021年7月20日、BOOTH事務局から利用者へのメール及びWebで、BOOTHのガイドライン変更についての発表がありました。BOOTHのガイドラインは2013年12月27日に制定され、これまで変更がありませんでした(Internet Archiveで確認済)。しかし、この変更たいへんわかりにくく、Twitterをみていると、まるでトンチンカンなことを言っている人も少なくありません。ということでこの記事では、現行ガイドラインがどのように変更されたのか、その主な内容について解説していきたいと思います。

 なお、非常に長くなってしまったので、肝心なところだけを知りたい方は、「1.ガイドライン変更の主旨説明」と「7.『実写に関する取り扱い』について」、「8.まとめ」だけを読めば、大筋問題無いと思います。

※画像のテキストの黄色いマーキング部分は、変更後のガイドラインでの変わった点になります。

※画像のテキストでマーキングのない部分は、現行・変更後で変更がない部分です。

※画像の水色のマーキング部分は、変更前の現行ガイドラインで留意すべき部分です。

1.ガイドライン変更の趣旨説明

 BOOTH事務局は、ガイドラインの変更について、以下のように説明しています。

昨今、BOOTHで販売されている実写作品(仮装及び衣装を主体とした実写商品含む)に関しまして、性器を過度に表現・無修正で露出している商品や、過激な表現が含まれ当社が不適切と判断する商品(以下「販売禁止商品」といいます)が多く見受けられます。
BOOTHはこれからも多様な創作物と出会えるマーケットでありたいと思っています。
しかし一部の過激な商品によって、その他の多くの創作物の販売機会が脅かされることは望んでおりません。
そのため、実写作品の販売禁止商品の増加傾向を受け、販売禁止商品の「実写に関する取り扱い」をより具体的な表現へ変更いたします。またこれとあわせて、実写作品以外の作品においても違反時に行われうる対応措置がより具体的に把握できるように、ガイドライン全体の禁止行為例や対応についてより明確な表現へ変更いたします。

 実写作品において「性器を過度に表現・無修正で露出している商品や、過激な表現が含まれ当社が不適切と判断する商品(以下「販売禁止商品」といいます)が多く見受けられます」というのは、BOOTHにおいて、刑法175条に違反するまたはその可能性が高い商品が数多く出品されている、ということを事務局が明言しているわけで、BOOTHというプラットホームも刑法175条の幇助に問われる可能性を考えると、かなり踏み込んだ発言と言えます。それでもこのように説明をして、利用者の理解を得なければならないのであれば、事態は深刻ということなのでしょう。

2.「ガイドラインの前書き」について

 現行のガイドラインの前書き及び「規定」の部分は非常にシンプルですが、変更後ガイドラインは、下記のように文章が修正・追加されています。

【現行】

OLD1.前書き

【変更後】

1.前書き

 現行ガイドラインでは、このガイドラインを「ピクシブ株式会社が遵守する」ものという形になっていましたが、変更後ガイドラインにおいては「運営のための規定」と変更しています。

 ピクシブ株式会社サービス共通規約第14条は「禁止行為」を規定しているもので、BOOTH個別規約第6条は、共通規約第14条に追加する規定です。第14条には細かい規定がたくさん並んでいるので、詳細を知りたい方は、リンクを飛んで、直接共通規約を確認して下さい。個別規約第6条は下記の通り。

第6条 登録禁止商品
ユーザーは、本個別サービスの利用にあたり、共通規約第14条各項で登録を禁止される商品の他、下記の商品を登録してはならないものとします。FX、株、仮想通貨など金融に関する情報商材、それに伴うツール及び関連商品

 このように、変更後ガイドラインでは「サービス共通規約があり、その上でBOOTH個別規約があり、さらにBOOTHのガイドラインがある」という位置づけが整理されています。

3.「年齢制限の追加・商品の強制非公開/禁止行為」について

 現行ガイドラインは、「年齢制限の追加・商品の削除」「禁止行為」という形で二つのセクションに分かれていたのが、変更後ガイドラインでは、「年齢制限の追加・商品の強制非公開」の中に「禁止行為」が入る形になっています。

 また、「商品の削除」「アカウントの削除」という言い回しは、いずれも「非公開」という形に変わっています。これは、問題のある商品、アカウントは削除せずに非公開で残しておくことを明記する意図があると思われます。

【現行】

OLD3.年齢制限の追加・商品の強制非公開

【変更後】

3.年齢制限の追加・商品の強制非公開

 変更後ガイドラインの「年齢制限の追加・商品の強制非公開について」の文章は、現行ガイドラインの「年齢制限の追加・商品の削除に関して」の記載を丁寧に書き改めた形になっています。

 「禁止行為」についての箇条書きは、「タグ付け」「コメント等」といった補記以外は新旧同じです。

4.「年齢制限商品(R-18商品)」について

 変更後ガイドラインの「年齢制限商品(R-18商品)」の文章は、現行ガイドラインの「年齢制限商品(R-18商品)」の記載を丁寧に書き改めた形になっています。また、全年齢でも、運営側判断で「年齢制限商品」に変更することがあることを明記しています。箇条書きについては、基本的に新旧同じです。

【現行】

OLD4.年齢制限商品

【変更後】

4.年齢制限商品

5.「隠蔽処理(モザイク処理)について/隠蔽処理(モザイク処理)の必要箇所の例」について

 現行ガイドラインでは、「隠蔽処理(モザイク処理)について/隠蔽処理(モザイク処理)の必要箇所の例」のセクションは、ガイドラインの一番最後に記述されていたのですが、変更後ガイドラインでは、セクションごと記述が前の方に移動されています。これは、「隠蔽処理(モザイク処理)」が、この後の「実写に関する取り扱い取扱」において、言及があるための変更と思われます。

 また、現行ガイドラインでは、「隠蔽処理(モザイク処理)について」「隠蔽処理(モザイク処理)の必要箇所の例」という2つに分かれていたのですが、 変更後ガイドラインでは、「隠蔽処理(モザイク処理)について」として、1つにまとめられ、その中で、「(1)隠蔽処理(モザイク処理)の方法」と「(2)に隠蔽処理(モザイク処理)の必要箇所の例」の2つに分けられています。

【現行】

OLD5.隠蔽処理

【変更後】

5.隠蔽処理

 なお、「隠蔽処理(モザイク処理)」の箇条書きの修正箇所については、冒頭の1箇所のみです。現行ガイドラインが「基本的に隠蔽処理は画像の技術的性質ではなく、視覚的判断により細部が不明瞭になっていることを前提とする」となっているのが、変更後が「視覚的判断により細部が不明瞭な状態とする」とシンプルになっています。確かに現行の説明は本質的ではなく、削除されたところは不要のようにも思われます。

 また、現行ガイドラインでは「隠蔽処理(モザイク処理)」について、そのやり方のみが箇条書きで記載されているだけでしたが、変更後ガイドラインでは、実写であるかどうかを問わず、「性器や性器の結合部位、それらを連想させる部位、及び切断・裂傷等の詳細かつ過度な表現等がある商品については、適切に隠蔽処理を施す」ことを、BOOTHとして求めていることが文章化されています。

6.「販売禁止商品」について

 現行ガイドラインでは、「登録禁止商品」となっていますが、変更後ガイドラインでは、「販売禁止商品」と変わっています。また、変更後ガイドラインでは「実写に関する取り扱い」が、この「販売禁止商品」の中に入っています(現行ガイドラインでは、「登録禁止」の下にはあるが並列表記)。

 また、現行ガイドラインでは「削除対象」である表記があるだけですが、変更後ガイドラインでは、「BOOTHでは、以下に該当する商品(販売禁止商品)を販売することができません。」に加えて「当社が販売禁止商品に該当すると判断した時点で、強制的に非公開とします」という記載が付け加えられています。「削除」から「非公開」への用語変更については、前述の『3.「年齢制限の追加・商品の強制非公開/禁止行為」について』を参照して下さい。

 箇条書きの条項は、現行・変更後同じです。

【現行】

OLD6.販売禁止

【変更後】

6.販売禁止

7.「実写に関する取り扱い」について

 ここが、今回ガイドライン変更のキモの部分となります。

 まず、箇条書きの前の包括的な文章として、変更後ガイドラインは、「実写を主体とし、かつ以下の項目に該当すると当社が判断した商品については、前述の隠蔽処理(モザイク処理等)の有無に関わらず、BOOTHで販売することができません」という記述が設けられました。現行ガイドラインでは「隠蔽処理(モザイク等)が施されている場合は、社会通念上許される範囲でこの限りではありません」という但し書きがあったことからすれば、これは大きな変更ということになります。

 また、現行ガイドラインでは「仮装及び衣装を主体とした実写商品」という事実上コスプレ関連の特記項目があったのですが、変更後ガイドラインではこれがなくなりました。

 現行ガイドラインにある箇条書きの内「・肖像権、意匠権を侵害する恐れのある商品」「・被写体及び撮影者の許諾を得ていない商品」「・被写体が未成年者の商品」「・公序良俗に反すると判断された商品」はそのままNGの箇条書きに残っています。

 現行ガイドラインでは「仮装及び衣装を主体とした実写商品」としてNGだった「・過度な露出が含まれる商品」条項は、変更後は全体のNG条項となり、「・演出における性交行為・性器を強く連想させる商品」条項も、「性器・性行為を強く連想させる商品」として全体のNG条項になっています。

 同様に、現行の「撮影場所(民家など)における無断撮影がなされた商品」も、「公道・公園・学校・商業施設・駅・他人の民家など、その立ち入りや撮影等について許可を得なければならない場所で無断撮影がなされた商品」とより詳細に記述され全体のNG条項となり、同じく現行の「実在する制服の動画、静止画が含まれる商品(学校、警察官など)」も、「実在する職業(警察官、消防士など)、資格などの制服、携帯品、記章等で、その職業、資格などに対する信頼を損なう可能性または悪用の可能性のある商品」と、こちらも変更後が詳細となり、全体のNG条項になっています。

 さらに、この種の販売禁止の記述において付記されることの多い「当社が不適切であると判断する商品」の条項が加わり、「・催眠、緊縛、拘束、強姦、薬物等の過剰表現、暴力的、危険性・刺激性が強い表現など(これらに限定されるものではありません。)」「・社会道徳・倫理等に照らし当社が不適切であると判断する商品」が例示されています。

 その一方で、「・実写を主体とした成人向け商品」が全体のNG条項から消えています。これは、成人向けの実写作品それ自体は否定はしないということなのかもしれませんが、隠蔽処理(モザイク処理等)の有無に関わらず実写を主体とした「・性器・性行為を強く連想させる商品」が販売禁止であることを考えると、露骨な描写の「・実写を主体とした成人向け商品」は販売できないということかと思われます。

 また、「仮装及び衣装を主体とした実写商品」のNG条項としてあった「演出における着衣の無い状態を連想させる商品」が、変更後にはありません。そもそも現行ガイドラインが「仮装及び衣装を主体とした実写商品」を特記していた理由は明確ではありませんが(コスプレの元ネタの権利者とのトラブルを避けようという意図があったのでは?と推察可能ではあります)、前段の「・実写を主体とした成人向け商品」が変更後ガイドラインでは削除されていることも重ね合わせると、実写での性表現を一律には否定しない、という意図が汲み取れますが、その描写は大きく制約されることになります。

【現行】

OLD7.実写

【変更後】

7.実写

8.まとめ

 このようにガイドラインの変更内容をつぶさに確認しますと、

実写作品の販売禁止商品の増加傾向を受け、販売禁止商品の「実写に関する取り扱い」をより具体的な表現へ変更いたします。

という、『ガイドライン変更に関するお知らせ』の前書きの記載とは裏腹に、単に「販売禁止商品の「実写に関する取り扱い」をより具体的な表現へ変更」するのに留まらず、BOOTHでは、いわゆるアダルトビデオ的な実写作品は事実上販売できないことになった、という理解でよいのではないかと思われます。

 あまり話題にはなっていませんでしたが、これまでBOOTHは、インディーズ系AVや個人のハメ撮りビデオなど、無審査の実写作品の販売が跋扈しており、その修正の甘さや内容は危惧されるところでした。一方で、「実写を主体とした」「性器・性行為を強く連想させる商品」は「隠蔽処理(モザイク処理等)の有無に関わらず」NGとなると、審査済レベルの実写AVも販売できない、ということになり、これはこれで少々厳しいようにも思われます。しかしながら、BOOTHのようなプラットフォームにおいて、増えすぎた実写アダルト作品の性器修正レベルを、審査機関に依らずに自主的に管理していくことは非常に困難である、ことも容易に想像がつくところでもあります。ましてや、この記事の冒頭で触れたように、実写作品において「性器を過度に表現・無修正で露出している商品や、過激な表現が含まれ当社が不適切と判断する商品が多く見受けられ」とガイドライン変更にあたってBOOTH事務局も明言しているわけですし。それでも、本ガイドラインの変更にはずいぶんと時間がかかったように思いますので、BOOTHとしては非常に悩んだ上での決断だったのではないでしょうか。

追伸
 このレポ、全文無料で読めますが、面白いと思っていただいたなら、よろしければ投げ銭して下さい。

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