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ultra soul 「メマイ…」論:文脈からの考察

先日、QuizKnock CEOの伊沢拓司氏が『伊沢拓司の低倍速プレイリスト』という新連載記事の第一回として、B'z『ultra soul』の歌詞についての考察を投稿した。

筆者も先頃読んだので、これに乗っかる形で論考を書いてみたいと思う。
※「作品」や「テクスト」の解釈は一通りに定まるものではないし、作者が解釈を間違うことも往々にしてあり得る。本稿はその立場に立ったものであることを先に注記しておく。


突然の「メマイ…」?

伊沢氏の記事では、『ultra soul』の歌詞の中の、サビではなく1番Bメロ「メマイ…」の一語に絞るという、何とも斜め上な切り口から考察を進めている。ここでも「メマイ…」について考察していきたい。
伊沢氏は記事内で、カタカナで表記された「メマイ」という歌詞の使われ方について、他の曲での情報から「カタカナでの表記は『韻を踏む以外には使われていない』」としており、その後も主に押韻の観点から論が進められている。が、ここではあえて文脈の面から「メマイ…」を考えてみる。


どれだけがんばりゃいい 誰かのためなの?
分かっているのに  決意おもいは揺らぐ

結末ばかりに気を取られ この瞬間ときを楽しめない メマイ…

夢じゃないあれもこれも その手でドアを開けましょう
祝福が欲しいのなら 悲しみを知り 独りで泣きましょう
そして輝くウルトラソウル

B'z『ultra soul』 (作詞:稲葉浩志)

まずAメロの歌詞との関連性を考えてみると、「メマイ」のクラクラするさまと決意おもいが揺らぐ様子が対応していることがわかる。また、サビの歌詞を見てみると、「夢じゃない」という言葉が使われている。「メマイ」のする時の夢現な状態と対をなしているといえよう。さらに言えば、『ultra soul』のMVは水が張られたステージの上で撮影されており、この水面の揺らぎとも対応性が垣間見える。実際、MVでは「メマイ…」の直後、水面に最も近づくカットが一瞬挿入されている。

B'z 『ultra soul』MVから引用

このように、「メマイ」という単語は、一見不自然に挿入されているように感じられるが、実際には文脈としっかり合致しているのである。この眩みは突然ではない。


カタカナ表記の文脈的意味?

伊沢氏は「メマイ…」がカタカナで表記されている点に関して、「カタカナでの表記は『韻を踏む以外には使われていない』」と論じた。既存曲におけるカタカナ表記の使われ方という根拠を持ち出しており、かなり説得力を感じる。だがここでは、あえてその逆、「カタカナ表記に文脈的な意味を見出す」という試みをしたいと思う。

まず、なぜ「メマイ…」が突然出てきたような名詞に見えるのか。それは、文が切れた直後に名詞が一つだけ置かれているからであろう。句点をつけてみるとわかりやすい。

この瞬間ときを楽しめない。メマイ。

非文と言ってしまっていいだろう。最後だけ浮いていて、大変不自然である。句点を三点リーダーに戻すと多少マシになる。

この瞬間ときを楽しめない。メマイ…

三点リーダーを用いることによって、最後は文ではなく呟き、ないし嘆きの言葉のようになり、自然になるのである。
語り手はひたむきに努力を続ける中で、結果ばかりに固執してしまい競技そのものを楽しめていない自分に気づく。努力の意味を見失いかけ、持て余すほどのプレッシャー/熱量にあてられて目眩を感じてしまうのだ。そんな苦しい状況――本気で何かを競ったことがあれば一度は経験するはずだ――を嘆くさまを、三点リーダーを使って自然に書くことによって、よりリアリティのある、共感しやすい歌詞になっているのである。

そして本題、なぜカタカナ表記なのか。
まずはひらがなや漢字での表記と見比べてみよう。

めまい…
メマイ…
目眩…

(やや感覚的な話ではあるが、) 一般的にひらがなはやわらかい/やさしい印象を与えるため、競技に打ち込む者のエネルギーとバランスが取れない。
漢字だと力強さはあるが、同時に(眩が常用外なのもあり)堅苦しさを感じさせ、リアリティからは遠ざかってしまう。
しかし、ひらがなの親しみやすさと、漢字の重厚さの中間にあるカタカナは、両者の特徴を併せ持ち、「メマイ…」という歌詞に臨場感・躍動感を感じさせるのである。ひたむきに競技に打ち込む様子が描かれた歌詞の文脈(とハードロックの曲調)にマッチするのは、カタカナをおいて他にない。

このように、「メマイ…」は表記を工夫することによって、文脈との親和性を高め、我々の心に迫ってくるリアリティを獲得しているのである。



(…尤も、作詞者の稲葉はこれを感覚的にやっているようにも感じられるが)




以上、書き殴りの考察であったが、伊沢氏の記事を読んで思ったことをまとめた。考えたことを全て書けているわけではないので、もしかしたら今後加筆や修正を入れるかもしれない。

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