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マルキ・ド・サド×澁澤龍彦『恋のかけひき』読了

短編集。

いずれもサドらしい卑猥な残酷さを備えつつも、陰惨な暗いものから滑稽譚に至るまでバラエティに富んだ内容。

強いて一篇挙げるなら、ラストに配された「司祭と臨終の男との対話」か。

サドの著述としては最も古く、事実上の処女作となる本作は、神の徒たる司祭と激越な無神論者による本格的神学問答が繰り広げられる異色作ながら、末尾の付記にて美女の群れに堕落せしめられる司祭の件に紛れもないサドの片鱗が垣間見える。

また獄中での膨大な著作群の劈頭が、物語でなく思想の表明というのもなかなか示唆的ではある。


新しい宗教をつくったやつらは、みんなこれ(奇跡)をやったんですから。そしてそのたんびに、それを信じた馬鹿どもがかならずいたんだから、実にどうも奇態千万というほかありませんな。あなたのイエスだって、別だんテュアナのアポロニウスより変ったことをしたわけじゃなかったんです。それなのに、誰もアポロニウスを神様にしようなんて考えるものはいやしません。(P216)

あなたの神、あなたの宗教をいますぐお棄てなさい。そんなものは人類の手に凶器を持たせるよりほか、何の益にもならないしろものです。実際、こうした身の毛もよだつような観念が、宗教という唯一の美名のもとに、他のすべての戦争、すべての天災を束にしてかかっても追っつかないほど、この地上におびただしい血を流したのです。(P223)

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