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忍者、事務職はじめました Vol.7

次の日から、世間ではゴールデンウィークというものに突入していました。

今年は、日にちの関係から、ほぼ全ての企業が9連休を取得していました。

私は、9日間全て出勤し、誰も来ないのに入り口で8時間待ち、退勤するということに使いました。

なぜなら、ゴールデンウィークというものが何か、その時には知る由もなかったからです。

10日後、いつも通り出勤すると、珍しく社長さんが仕事をしていました。

「社長さん、おはようございます」

「あ、ハヤクジさん、おはようございます」

「あのぉ、社長さん、どうして9日間、誰も出勤してこなかったのでしょうか?」

「え?どういうことですか?」

「私、9日間、毎日出勤してたんですが、誰も来なくて、どうしたのかなと心配してました」

「え?9日間、毎日出勤してたんですか?」

「はい。誰も来なかったんですが、誰にも連絡をすることができず、今日出勤してみたら、ようやく社長さんと会えたというわけです」

「ハヤクジさん、ゴールデンウィークを知らなかったんですか?」

「それはどういうものなのでしょうか?」

「あ、なるほど、わかりました。今度から、会社が休みの日は必ずお教えしますね」

「助かります。ありがとうございます」

「ハヤクジさん、その話しは、他の社員に言ってはいけませんよ」

「え?あ、はい。わかりました」

今日も、しっかりと事務職の仕事をこなしました。

しかし私は、事務職の仕事というのは、単純に入力作業をしたり、コピーを取ったり、そんな単純な仕事ではないと考えています。

明日は、社長さんとその辺の話しをしてみよう。

次の日、出勤してみると、社長さんが3日間の出張へ行ったことがわかりました。

「私は、今日から3日間、一体何の仕事をしたらいいのでしょうか?」

「ミスターカゲは、一体何ができるんだい?」

カマイさんは、2日目から私のことを急に「ミスターカゲ」と呼び始めました。

「はい。今、入力作業以外に私ができることは、おそらくありません」

「ハヤクジさん、はっきり言うわね。ウカミくん、何か仕事ないの?」

「いやぁ、オンミツさん、そんなこと言っても、僕達は営業だし、だいたいみんな直帰しちゃうから、思いつかないですよ」

「ご迷惑をおかけして、すみません」

「いや、ハヤクジさんが謝ることはないですよ。社長が、うっかりすぎるんです。あまりにも、うっかりすぎるんです」

「そうよね、うちの社長って、あまりにもうっかりよね」

「ミスターカゲ並のディープインパクトはあるよね」

「でも、何か放っておけないというか、この人のために俺達が頑張らないと!って思うっちゃうですよね」

「あ、私もそれわかる」

哀車の術という忍術があります。

独暇流でいうところの、独暇五者五車四諦の術の1つです。

相手の同情を誘うことで、相手よりも精神的に優位に立つのが目的です。

社長さんは、素でこの術を使える人なんだと思いました。

「ところで、1つ、いいですか?」

「おお、ミスターカゲ、なんだい?」

「社長さんの名前って、何ですか?」

「え!?」「え!?」「え!?」

私は、またしてもディープインパクトを与えたようでした。

「ハ、ハヤクジさん、本気で言ってるの?」

「やっぱり、ハヤクジさんといると、SNSに投稿するネタが尽きないですよ!」

「ミスターカゲは、うーん、英語が思い浮かばない」

あのカマイさんが動揺を隠せない程の衝撃だったようです。

「うちの社長の名前は、シャさんよ。フルネームは、シャ・チョウよ」

私は、オンミツさんの言葉を聞き、そして思考が止まりました。

「あ、はい」

「いやいやいや、ハヤクジさん、顔がやばいですよ」

「え?誰がですか?」

その日、私は、早退しました。

そして、2日ほど欠勤しました。

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