夜の冒険者たち、隕石ながれ

暗い映像。光はどこか遠くに侘しく灯るのみ。
濃淡の異なる影の大小が左右に、上下に危なっかしく揺れる。波の音が大きく聞こえる。大きくというのは質量だ。近くには車の通り過ぎる音、街の喧騒、閉じた窓から漏れる笑い声。波の音はそれに紛れて遠い。しかし聞こえている。空気の振動をまるごと掌握している、大いなる揺らぎが、ずっとわたしたちにつきまとう。波の音とは、なんの音がしているのだろう? 頂点から墜落する、瓦解の音。未練がましい、這いずる音。道連れを呼び込む末期の叫び。これは誰の音なんだろう? 波はもう行ってしまったのに、まだ蘇る。反響、追憶、行ってしまった子供。

光は幾重ものベールで塞がれている。覆われたものはエロティックであるというのは嘘で、さもなければそれ自体が隠匿である。あれは怖れなのだ。照らし出されることに、自らを曝け出せよと迫る圧倒的なのしかかるもの。宙に吊られていようがどこからだろうが関係ない。光とは権能のことを言う。
光からの距離がわたしたちの姿を証明する。わたしたちは光ではないから、光放つものとの隔たりを語る言葉が、わたしたちの最初の発明だった。

ただ暗闇がわたしたちの輪郭を知っている。触れるとは視覚を奪われた者に残る、最初で最後の繋がりで、わたしたちは闇に曳かれる舟。しかし闇が最後までその船旅を果たせることはない。闇はいつも奪われるものの象徴だ。

わたしたちはここで幾つもの言葉を持っているのに、それを明かすことはない。それは本当の言葉で、本当の言葉は、誰かに告げることはない。それはひとを互いに遠ざける。言葉が中心に浮かび、わたしと彼女はその周りに戸惑う。衛星のようだ。わたしたちはそれを避けるために、歩くのだ。末端は冷えているのに、身体を突き動かしている熱が、酔いが、それを忘れさせて、駆動している。
わたしたちはもはや人間を離れている。だから、なにも言わない。なのにいつまでもついてきて振り払えないのは正しいことを説く昔馴染んだ声で、なんでわたしは、昔のわたしの姿を思い浮かべられるのだろう? 手をふりあげれば袖口に迷い込んだ風が身体を軽くさせるが、彼女はそれに気にも留めず、笑うばかりで、歩き続けようとしている。

夜は休むことを知らないのに、いつも追いつかれてしまう。誰が夜の悲しみをみんなに知らせてあげられるのだろう。

さよならポニーテール「夜の冒険者たち」(アルバム『銀河』より)に基づいた素描


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