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観た映画の感想 #53『Pearl/パール』

『Pearl/パール』を観ました。

監督:タイ・ウェスト
脚本:タイ・ウェスト、ミア・ゴス
出演:ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=ブーロ、他

スクリーンの中で歌い踊る華やかなスターに憧れるパールは、厳格な母親と病気の父親と人里離れた農場で暮らしている。若くして結婚した夫は戦争へ出征中で、父親の世話と家畜たちの餌やりの毎日に鬱屈とした気持ちを抱えていた。ある日、父親の薬を買いにでかけた町で、母親に内緒で映画を見たパールは、ますます外の世界へのあこがれを強めていく。そして、母親から「お前は一生農場から出られない」といさめられたことをきっかけに、抑圧されてきた狂気が暴発する。
(映画.comより)

https://eiga.com/movie/97924/

すごく良かったです。
作品単体の好みとしても前作の『X/エックス』よりこちらのほうが好きだったし、なんならこの映画があることによって前作の面白さもより増す。前日譚・エピソードゼロ系の作品としては文句なしの一作なんじゃないでしょうか。

オープニングからして前作を知っている観客からするとテンション爆上がりなんですよね。前作とほぼ同じ画角から始まるカット、ゆっくり開いていく扉、つまりここはあの納屋……! そして奥に見える家はあの家……! その一室でオシャレな洋服を着て歌い踊る自分をイメージする若き日のパール。かと思いきや、母親が部屋に入ってきて一瞬で現実に引き戻されるパール。真っ暗な空間でスポットライトを浴びる自分が一瞬で田舎の農家の一室に。ここの切り替えのキレ味の良さも最高。

で、牛を観客に、積まれた干し草のブロックを舞台の代わりにして自慢の「ステージ」を披露するパール……かと思いきや鑑賞マナーの悪い(?)ガチョウをいきなり惨殺! そして家の裏にある沼で死体をワニの餌に!
「えっ!? その沼って昔からそういう使い方してたんですか!?」という前作鑑賞済みの民へのサービスショットがあって、そこから間髪入れずにでかでかとタイトルロゴがドーン! ”Pearl”!!
ここまで10分足らずのテンポの良さ。この時点でもう「この映画ぜったいに面白いやつじゃん!」ってなる。

1作目の主人公・マキシーンと殺人鬼のパール婆さん、そして今作のヤングパールをミア・ゴスが一人三役で演じていた意味というのも今作を経てより深まったと思います。なぜならこの二人は境遇的な意味でも非常に似ているということが今作で分かったから。

二人とも「こんな田舎飛び出して都会でスターになりたい!」という野心があって、自分にはそれが出来るだけの才能もあるという自信もある。まだ違法だった頃のポルノ映画を実は観ていたパールと、ポルノ映画で成り上がろうとしていた(成り上がろうとさせられていた、というほうが正しいかもしれないけど)マキシーン。

そう考えると、似たような境遇、似たようなモチベーション、そして(これはメタ要素ではあるけど)同じ顔を持った二人の人間が登場するこのシリーズにおいて、パールに訪れる結末って一種のバッドエンドなんじゃないかと思うわけです。ノベルゲームで選択肢を間違えたせいで辿り着いてしまうアレ。

多分、パールは歪みきってしまう前にさっさと家を飛び出していればああはならなかったんじゃないかと思う。でもお母さんはともかくお父さんの方はちゃんと愛していたっぽいし、体が不自由な彼をほうっておけないというのも本心ではあったのかな、一線超えてしまうまでは。となるとやっぱり

という話になってしまうのかな……そしてそんなパールとあの家に「囚われた」まま一生を過ごすことになったハワードの悲壮さもまた増すという。

なので、ある意味で鏡像関係とも言えるマキシーンがどうなっていくのかも楽しみ。今作がバッドエンド的な作品であるなら、いわゆるトゥルーエンド的な結末を描くのが次回作の『MaXXXine』になると思ってるんですがどうでしょう……? 早く観たい!

それにしてもミア・ゴスさんの存在感、というか顔面のパワーは本当に凄い。彼女の顔面の力でもっているシーンがいくつもあって、その究極は間違いなくキャストロールが流れる中ですさまじい泣き笑いの顔をキープし続けているラストシーンですけど、オーディションのシーンでの「これは求められているものではないな……」って一瞬で分かる、見ていて胸が苦しくなるくらいの空回りっぷりとかも本当に巧くて。ホアキン・フェニックスの『JOKER』続編でハーレイクインを演じるのはレディ・ガガって話ですけど、個人的にはこの人にやって欲しかったなって思ったくらいで。
ロバート・パティンソン版のバットマンなら出られるかな? いつかやって欲しいな、ハーレイクイン。

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