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観た映画の感想 #32『アングスト/不安』

アマゾンプライムで『アングスト/不安』を観ました。

監督:ゲラルド・カーグル
脚本:ゲラルド・カーグル、ズビグニュー・レプチェインスキー
出演:アーヴィン・レダー、他

刑務所を出所した狂人が、とたんに見境のない行動に出る。
(公式サイトより)

http://angst2020.com/

いやシンプルすぎる!

なんだけど本当にこれが全てなんですよ。
「刑務所を出所した狂人が、とたんに見境のない行動に出る」映画。

現実に起きた事件とか実在の人物をモデルにした映画って、どれだけリアルに寄せた作品であったとしても「あ、これは作り物なんだな」って知覚できる一線が引かれていると思うんです。

だけど本作にはそれがない。というか限りなく薄い。
殺人犯の「K」含めて登場人物は実際の事件とは名前も違う架空の人物だし、劇中で起きる事件も実際の事件よりはあれでもマイルドになってるくらいなんですけど(実際には被害者はもっと激しい拷問の末に殺されているし、犬ではなく飼い猫が殺されている)、作り物を観ている感覚が全然しないんですよね。映画というよりは殺人事件の再現VTRとか犯人視点のドキュメンタリーを観ている感覚に近い。

それと劇中で行われる殺人がぜんっぜん上手くいかないのもリアルで怖い。
これが例えばレクター博士とかだったらそりゃあもう完璧で、芸術的で美しくすらあるような殺人になると思うんですよ。
「K」もしきりに「すでに計画は考えてある」「今度は見つからないように上手くやる」みたいな独白をするわけですけど、その通りにできてることって一つもないんですよね。空き家だと思って忍び込んだ家には普通に住んでる人がいるし(それがまさに事件の被害者になってしまうわけですけど)、一人一人の殺し方も場当たり的で全然スマートじゃないし、死体を運ぶのもドタバタしてるし……

言ってみれば、ある狂人が犯した殺人事件を追体験させられるような映画になっているわけで、強烈な拒否反応を示す人も当然いるだろうし、場合によってはそちらの世界に引っ張られてしまう人もいるだろうなあと。そういう意味でとても危険な映画であるというのは間違いないと思う。

ただ同時に、映画としてはものすごくカッコイイ作品でもあるというのが厄介なところでもあると思うんですよね。「K」が3人家族の家に侵入するシーンとか「K」を上空から撮る絵が長回しで続くんですけど、こことか今観ても緊張感あって良いシーンだなあと思う。これ40年前の映画ですよ?

全編通してグレーとかダークブルー寄りな寒々しい色調も映画の雰囲気にぴったりはまっててカッコイイし、何よりクラウス・シュルツの音楽がめちゃめちゃカッコイイんですよ。ちょっとBGMの主張が強すぎないか? と思う箇所は正直ないでもないんですけど、そのマイナスを補ってあまりあるインダストリアルミュージックとしての完成度の高さ。
サントラは今でも聴けます。

あと、音でいうと「K」の足音。
革靴の足音がすごく好きなんですけど、何一つ共感できるところのない「K」の中で唯一つ、足音だけはすごくカッコよかった。

気軽に人におすすめできるタイプの「ホラー」ではないですけど、僕はすごく好きな一本です。

あと犬は無事です。人間はまったく無事じゃないですけど。

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