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“超・男社会”な救命の現場で、女性はどう働いてきた?みんなの生理研修@川崎市高津消防署

あなたの目の前に、消防士が3人立っているとイメージしてみてください。

その3人の中に「女性」はいましたか? では、パイロットはどうでしょう。経営者は、大統領の場合はどうでしょうか。

これらの職業は、圧倒的に男性のイメージが強い職業です。

そして実際に、日本の消防吏員(以下、消防士)における女性の割合は、全体のわずか3%。警察官の約10.2%自衛官の約7.4%よりも、さらに低い現状があります(2020年4月時点)。

今回、#NoBagForMeプロジェクトでは、そんな圧倒的な“男性社会”である消防で初めて『みんなの生理研修』を開催。ジェンダーギャップの大きい消防の世界の歩みと、現場の方々のリアルな声をレポートします。

みんなの生理研修とは…ソフィの「#NoBagForMe」プロジェクトの一環として、2020年からスタートした企業向け研修プログラム。生理にまつわる知識向上や、職場での相互理解の促進を目指し、これまで数々の企業で実施されてきた。2021年からは自治体や大学などにも拡大中。


日本初の女性消防士が生まれた街@川崎市 高津消防署


「みんなの生理研修」を開催したのは、川崎市にある高津消防署です。

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消防隊機関員

消防隊

※写真撮影時のみマスクを外しております。

川崎市消防局では、昭和44年(1969年)に全国で初めて女性の消防職員が誕生しました。

しかし、消防士と聞いてイメージする「火消し消防」の業務を行っていたわけではありません。消防行政サービス向上を図る目的での、火災の予防業務に当たる女性登用だったのです。

消防学校でも、当時は女性だけお花の授業があったり男性のみ寮に入れたりと、男女間でさまざまな格差があったのだそう。

初代12名

女性消防士の当直勤務が許されるようになったのは、第1期生の採用から25年が過ぎた平成6年(1994年)。労働基準法の女性労働基準規則の改正で、職域は指令業務や救急業務へも拡大していきます。

それからさらに10年後、消火作業を含む警防業務へも女性の配置が始まります。川崎市では平成18年(2006年)に消防隊へ1名配置。ようやく火災の現場へ女性が出動できるようになりました。この道を志した多くの女性たちが待ち望んだ、歴史的な転換点です。

この日、生理研修を行う高津消防署にも、実は2021年4月に市内初の女性署長が誕生したばかり。それが熊谷智子さんです。

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研修を始めようとした矢先、署内にサイレンが鳴り響きました。出動要請です。瞬時に空気が変わり、素早く数人の消防署員の方々が退出していきます。

喧騒に包まれたのは、ほんのわずかな間。消防士の方々の日常を目の当たりにしたところで、改めて熊谷さんの署長挨拶が始まりました。

「今回の開催のきっかけは署内からの声ですが、全国の女性消防士のネットワークや女性消防吏員活躍推進研修会の意見交換などの場では、生理の課題が持ち上がり始めています。

みなさんは目の前に置かれた生理用品にも『うっ』と思うかもしれません。そこからまずは整えていきたい」

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性差を超えて、仲間のための知識を学ぶ


今回の研修では、通常の動画講義で扱うカラダの仕組みや生理ケアの基礎知識のほか、消防署のみなさんに向けて「災害発生時」という観点から、生理ケア用品をご紹介しました。

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長時間の使用に対応できるショーツ型ナプキン「超熟睡ショーツ」や、吸収力をプラスする「シンクロフィット」と、ズレに強いスポーツタイプ「ソフィ SPORTS」の組み合わせは、トイレに行きにくい状況でも心強い味方。防災バッグに備えておくと安心です。

実際に生理用品を手に取りながら、男性消防士の方々からは「スポーツタイプって他と何が違うの? ズレにくいってこと?」「人によって使いやすさに差がありそうだね」といった声が聞かれました。

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研修の後半はグループに分かれ、生理にまつわる自由なディスカッションタイムに。

「職場で生理が来ている女性がいるかなんて、考えたことがなかったな」
「低用量ピルって処方箋が必要なんですね」
「男女共同のトイレだと、生理用品を捨てられません」
「何かしてほしいことってあったりするの?」

訓練や災害派遣といった日々の業務での気配りや工夫、生理休暇などをテーマに話し合いが進みました。

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みなさん率直に「これってどうしたらいいんだろう?」をぶつけ合い、同じ現場で働く仲間のために、これまで気づかなかった課題に向き合っている様子です。

ディスカッション後の質疑応答タイムでも、生理の際のサポートを真剣に考えるからこその疑問が多数寄せられました。

「女性社員も多いソフィさんの場合、周囲に相談はしやすいですか?」
「どんな言い方ならセクハラにならないのでしょうか」
「男性が生理用品売り場にいたら、女性としてどう思いますか?」

川崎市消防局の消防士1445人のうち、女性は70人。比率は4.8%です。

人数でいえば、まだまだ圧倒的な男性社会。でもその内側は、性別を問わず仲間を思いやる組織へと、確実に歩みを進めているように感じられました。

変わらなければ、男性さえも入ってこなくなる


約90分の生理研修を終え、2人の消防職員の方にお話を伺いました。

「実は以前、保健体育の先生だったんですよ。教師だった頃の知識は、だいぶ記憶から抜けてしまっていました。研修を受けて改めて、生理について知らないことがいかに不利益かを感じましたね」

そう話すのは、副署長の松本智禎(ともよし)さんです。

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松本さんが入署したのは平成元年。「体育会系の“男性だけの社会”だった」と当時を振り返ります。

「上司に呼ばれるのは、叱られるときくらいでした(笑)。設備や制度も古いまま整備されておらず、署内の洗濯機を使うにも、男性用トイレの中に女性が入らねばならないような環境でした。

以前に比べればだいぶ改善されたものの、今なお一部の消防署には、女性が当直するための仮眠室や更衣室が備わっていません。まだまだ男女平等に働きやすい環境という点では、課題を抱えているのが現実です」

消防の現場のために変わっていかねばならないと、松本さんは語ります。

「旧態依然のままでは、男性さえこの道に入ってきてくれなくなるでしょう。これから労働人口が減るなかでますます、性別を問わず誰もが働きやすい環境が重要になっていると感じます。

私たちも現場の職員の声に耳を傾けて、これまでにない勤務形態を取り入れるなどしています。詳しくは、きっかけとなった女性消防士からご説明しましょう」


“現場に行けない悔しさ”を抱えてきた女性たち


24時間交代勤務が原則となっている消防の世界。そんな長年の働き方にも、変化が起こりつつあります。

「家族全員がそろうのは、9日間に2日だけ。そろそろ家族一緒に過ごす時間を増やそうと思い、救命士を辞める決意を上司に相談しました」と、入署10年目の井上裕子さんは言います。

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ご夫婦ともに川崎市消防局に務めている井上さん一家は、小学校3年生の息子との3人暮らし。しかし、現場に出る消防士の仕事は24時間交代制のため、休みのタイミングを調整しても、顔を合わせられるのは月にたったの3日しかありませんでした。

「家事育児はワンオペですし、夫婦の会話もLINE中心です。息子には随分と寂しい思いをさせてきましたね……。

もっと家族の時間を増やそうと、8時30分〜17時15分で働ける日勤を検討しましたが、そうなると業務は予防や査察といった署内が前提。救命士の資格を持って入署した私は、やっぱり現場に出たくて。その気持ちを我慢しながら働くのは、あまりにつらい選択でした。なら、いっそのこと転職しようと考えたのです。

そんな私のキャリア相談も後押ししたのか、令和2年4月から日勤救急隊員という勤務形態が新設され、今はそちらを選んで働いています」

救急隊

※写真撮影時のみマスクを外しております。

井上さんが消防の道に進んだ10年ほど前は、ようやく救急車に女性が乗れるようになったばかり。「どんなにあがいても、消防車には女性は乗れない」といわれていたそう。周りに産後復帰した女性消防士はいても、現場ではなく、事務が中心の業務へとシフトするのが当たり前でした。

井上さんが25歳で出産した当時は、サイレンの音が聞こえるたびに、悔しくて涙が出たと言います。

「現場で働く救命士はすごくかっこよくて、私の憧れの仕事です。自分もその一員になることを目指し、4年もかけてとった資格。なのに、たった1年で使えなくなってしまうのか、と。産後復帰するときは、気遣いから周囲に『もっと家庭を優先して』と言われて悩んだりもしました。

でも、こうして現場にこだわり続けられたのも、家族や周囲のサポートのおかげ。特に、先人の女性消防士が道を作ってくれたから、今の自分があります

現在の目標は「後輩にもいい環境を残し、パスしていくこと」と井上さんは微笑みます。


定年を迎えた女性は、2人。働き続けられる環境を目指して


最後に、高津消防署長の熊谷さんにもお話を伺いました。

「みんなの生理研修の必要性を感じたのは、高津消防署内で『生理休暇の申請が来たが、どのように返答したらいいかわからない』という相談を受けたことがきっかけです。生理休暇の対応一つとっても、知識がなければ戸惑ってしまうのだな、と」

過去には、総務省消防庁で、女性消防吏員活躍推進アドバイザーを担当した経験も持つ熊谷さん。生理にまつわる課題は、消防の現場に長年存在していたと言います。

「全国の女性とディスカッションするなかで『生理のことは話しにくい。症状がつらくても相談できない』といった声は、女性たちから寄せられてきましたし、そもそも消防本部に女性1人だけという消防署も少なくありません。

また、大規模な災害発生時に被災地へ応援出動する緊急消防援助隊として、近年は女性も派遣されるようになってきました。ここでも生理の心配がつきまといます。消防の現場で活躍する女性が増えるほど、生理にまつわる課題の重要性が高まっており、それを解決したい思いがずっとありました」

女性が働きやすくなるには?という質問に、「最も大切なのはコミュニケーション」と明言した熊谷さん。今回の生理研修の開催に至るまでも、女性たちとの丁寧なやり取りを重ねてきました。

「この研修に先駆けて、まずは『みんなの生理研修』の動画講義を女性署員たちに視聴してもらい、全員が研修をやってもいいと思えるかを確認するところから始めました。女性たちが求めていないのであれば、本末転倒ですから。

まずは開催できたこと自体に安堵しています。

実際の研修では、男性たちが生理用品を目の前にして驚いている空気を感じましたし、ディスカッションでさまざまな意見を直接耳にできました。何より『男性署員が生理研修を受けた』という事実が、女性職員の安心につながったのではないか、やってよかったという気持ちがあります。

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熊谷さんが消防学校に入学した昭和60年(1985年)は、男女雇用機会均等法が公布となった年。

「消防に女はいらない」「訓練に出るな」

同期生からそんな言葉を投げかけられた時代から36年の年月を経て、市内初の女性署長に就任しました。

「私にも女性消防士の先輩がいますが、定年を迎えたのはわずか2人。救命士の勤続年数も平均5年ほどです。長く働き続けることを希望する女性たちが、安心して定年まで働ける職場環境をつくりたいですね。変えられるのは、自分と未来だけですから

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川崎市消防局では2026年度までに、女性比率を4.8%から6%以上に引き上げることを目指しています。熊谷署長や井上さんをはじめ、ロールモデルとなる方が少しずつ増え、女性消防士のキャリアの可能性を広げている真っ最中。

ジェンダーギャップのない未来に向けて、道を切り拓く人たちとともに、#NoBagForMeプロジェクトも活動を続けていきます。


「みんなの生理研修」お申し込み受付中


生理にまつわる知識向上と相互理解を深める「みんなの生理研修」。実施初年度の2020年は、サイボウズ様やLINE様など複数の企業で開催し、受講者の満足度は9割以上となりました。

2022年も、受講を希望される団体のお申し込みを受け付けています。自治体や学校など、企業という枠組みを超えて、全国に広まりつつあります。

また、「動画などで好きな日時に自由に受講できると良い」というお声にお応えし、ご活用しやすい研修動画もご用意しています。

お申し込みは以下のフォームから。お申し込みをお待ちしています!

https://www1.unicharm.co.jp/CGI/enq/jpn/td/2006nobagforme_seminar/terms.cgi

文:中道薫
訓練・過去写真 提供:川崎市 高津消防署
生理研修当日写真:玉村敬太


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