のばらりんご

「おとぎ話」を作ります。 物語と挿絵。言葉と線の宝石箱。

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最近の記事

小さな妖精譚―スノードロップの妖精

 雪の深まる2月の終わり。もしあなたが、どんなに小さいものでも構いません、お家の外にちょっとした庭を持っているなら、息をひそめて覗いてみましょう。雪の上で遊んでいる、小さなスノードロップの妖精たちが見えるはずです。その姿はとてもかわいらしいけれど、決してつかまえようなんて思ってはいけません。もし本当につかまえてしまったなら、彼らは温かい手の上に落ちたひとひらの雪さながら、たちまち溶けてなくなってしまうでしょう。もっとも妖精たちは、人間の手をすり抜けて逃げるのには慣れっこですが

    • 小さな妖精譚―のばらの妖精

       のばらの生け垣をご覧なさい。妖精たちをおどかさないように、そうっと、ご覧なさい。小さな妖精が、ほら、そこの小枝に座って、長い金の髪を棘の櫛できれいに梳いています。その隣では、ほかの妖精が、今まさに咲こうとしている蕾に、歌を歌って聞かせています。妖精が歌うことで、花は咲くことができるのです。上を見上げてご覧なさい。何人かの妖精たちが、小枝の上で踊っています。棘を踏まずにいつまで踊れるか、みんなで競っているのです。でも、うっかり踏んでも大丈夫。花びらのように軽やかな彼らの身体で

      • 小さな妖精譚―ひなげしの妖精

         ひなげしの丘があります。空と同じくらいに、丘は広いのです。広い広い丘に、たくさん咲いています。目の覚めるような明るい赤色は、灰の空には、あまり似合いません。でも空には、薄く伸びた白い雲が、幾重にも重なっています。重なって、広がって、すっかり空を灰で覆っています。  霧が、立ち込めてきます。海のように、小さな水の玉が、転げまわります。歌に合わせて、転げまわるのです。誰の歌?―――妖精たちの歌です。  蕾が割れて、花が開く音。乾いた葉が、こすれ合う音。雨が土に染み込む音にも似

        • 花の魚

           昔々あるところに、たいへん豊かな王国がありました。その国には王様とお妃様と、ひとりの愛らしいお姫様がおりました。このお姫様が十五歳の誕生日を迎えようとしていた、ある日の午後のことです。お姫様がお城の近くの、氷に閉ざされた泉の前で一人遊びをしていると、突然泉の氷が割れて、とても良い香りがしてきました。そしてたちまち、見たこともないほど美しい花と光に覆われた、とても大きな魚が現れました。魚は言いました。  「かわいいお姫様、私にあなたの靴をください」  お姫様は履いていた靴の片

        小さな妖精譚―スノードロップの妖精

          春に

           光が蕾から花びらを呼び起こし、喜びがお屋敷の雪と氷を溶かしました。雀の若鳥は書斎の者たちに素晴らしい知らせを伝え、皆は大いに祝福しました。そして、ガラスのお姫さまから花の冠を受け取った綿の町娘の人形は、陶器の紳士とついに愛の契りを交わしました。それを見届けた賢い梟の傍らで、ボンボニエールは小さなガラスの花を撒きました。これは、あの涙でできたガラスの梯子を、炎の親方がさらに作り変えた物でした。  さて、お屋敷の主人である老紳士は、ガラスのお姫さまが姿を消した後、たいそう寂しが

          第六章 鏡

           こうしてガラスのお姫さまと幽霊は、毎日話をするようになりました。ひとひらの雪はいつもガラスのお姫さまの周りを舞い、彼女と同様に、幽霊の話に聞き入っているようでした。幽霊が現れるのは決まって、空が白んでから日が昇るまでの間と、日が沈んでから完全に暗くなるまでのほんの僅かな時間でした。それでも、お姫さまはそのたった数分を毎日心待ちにしました。幽霊も、彼女の呼びかけを聞くと何度でも大いに喜び、安堵しているようでした。ガラスのお姫さまは幽霊について、思いつく限りの問いを全て投げかけ

          第五章 幽霊

           雪はゆっくりと、書斎のドアの前にガラスのお姫さまを連れて来ました。お姫さまの小さな体では、広い書斎を渡りきるのも一仕事でした。彼女は来た道を振り返りました。棚の上では綿の町娘と陶器の紳士が、それからその下では梯子を運んだ置物たちが、そして梟や宝石の小鳥まで、各々の場所から手や翼を振っていました。お姫さまが手を振り返すと、ドアノブの鷲の頭はぐるりと首を傾げ、ドアを開けてくれました。    部屋の外はとても寒く、薄暗い廊下でした。廊下の景色を見たことがある者は、書斎の中には誰一

          第五章 幽霊

          第四章 雪

           ある朝、書斎の中はいつになくひっそりと静まり返っていました。とうとう、雪が降ってきたのです。昨晩から降り積もった雪は、この世の全ての音という音を一口に飲み込んでしまったようでした。  窓辺の棚の上では、綿の町娘が一人で古い民謡を口ずさんでいました。彼女は綺麗な編み物の肩掛けを羽織っていました。毎年雪の降る頃になると、召使いのばあさまが着せてくれるのです。町娘は隣の、ガラスのお姫さまに目をやりました。窓の外を、一心に見つめています。お姫さまはもう何時間もずっとこうしていました

          第三章 ボンボニエール

           それから半年が過ぎようとしていました。シラカシの木にできた雀の巣では、夏に生まれた子供たちの小さな妹や弟たちが、ちょうど卵から孵った頃でした。ガラスのお姫さまやその友達は、夏にそうしたように、雛鳥たちがすくすくと育っていくのをいつまでも窓辺で見守っているつもりでした。しかし今度の子育ては、前の時ほど穏やかには進みそうにありません。親鳥は急いでいる様子でした。  「ほら、今のうちにたんとお食べなさい。そして早く大きくなるのですよ。もうすぐ雪が降るでしょう。その時に凍え死なない

          第三章 ボンボニエール

          第二章 ひなげし

           ある日の素敵な昼下がり、窓の外のシラカシの木には、葉の茂みに隠された安全な枝で、雀の小さな丸い巣が完成しました。  ガラスのお姫さまが窓辺の棚に移動されてからというもの、彼女の心は沈んだきり、何日も塞ぎ込んでいました。しかし彼女の心を本当に苦しめていたのは、窓辺に移動されたという事実よりも、なぜ自分はそれっぽちのことでこれほどまでに落ち込んでいるのか、なぜ隣に座る町娘や窓の外で元気に歌う小鳥たちのように明るい考えを持つことができないのか、自分でも分からないということでした。

          第二章 ひなげし

          第一章 窓辺の棚

           書斎の前のシラカシに雀が巣を作り始めたのは、ツルバラだけでなくその他美しく着飾った庭の花たちが次々と目を覚まし、温かい季節の訪れを喜びながら、思い思いにおしゃべりを楽しむ五月の初めのことでした。ところが、うららかな陽気が漂う庭の様子とは裏腹に、その書斎の中はしんと静まり返り、その中にただ一つ、「ガラスのお姫さま」のすすり泣く声だけが響いていました。  「ああ、ひどいわ。あんまりだわ!何ということでしょう。こんな所に追いやられるなんて。こんな棚の一番上!もう誰の目も届きやし

          第一章 窓辺の棚

          お話の前に

           町の外れに、一軒の古びたお屋敷があります。温かい色味の石造りの壁にはツルバラが這い、五月にはそれが一斉に花を咲かせるので、まるでお屋敷全体が小さなバラの花でできているように見えます。おもてには、小綺麗に手入れされた田舎風の庭があり、意匠を凝らして刈り込まれた生け垣や巨大な噴水がある代わりに、カエデやモクレン、トネリコの木立が伸びのびと茂り、小鳥たちを誘っています。  すぐそこのコマドリの奥さんが歌っているのを聴いてみましょう。 ここはとっても素敵なお庭、素敵なお庭 私の赤

          銀のりんご

           昔々ある国に、王さまとお妃さまがおりました。ふたりには三人の息子がおり、一番上はエオリアン王子、二番目はハックブレット王子、末っ子はフィードル王子といいました。  三人の息子が結婚するのに良い年頃になったある日の夜、王様の夢に貧しい老婆が出てきて言いました。  「お前の息子たちに、金よりも美しい銀のりんごを探す旅に出るように言いなさい」  王様はとても賢い人でしたから、次の朝息子たちに、夢で言われた通りのことを命じました。息子たちは旅に必要なものと、それから旅の途中で誰かに

          エリヴェットと白鳥のドレス

          第六章 光と影  月が完全に欠け、運命の新月がやってきました。空はいつにもまして暗く、影の国と三つの国では、不気味な黒い影が飛び交っています。シュヴァン王子は昨晩、鏡の花の冠を完成させ、仕上げにそれを煤で真っ黒にしておきました。彼はぼろぼろの衣の下に、あの美しい短剣を忍ばせ、冠を握りしめて眠りにつきました。すぐに黒い翼が生え、それは影の女王の城へと王子を連れて行きました。影の女王はあの冷酷な、嘲笑うような目で 「お前は明日処刑されるそうね。無実の罪で殺されるとは、なんてかわい

          エリヴェットと白鳥のドレス

          エリヴェットと白鳥のドレス

          第五章 満月の夜  シュヴァン王子は焦っていました。次の新月までにどうしたら、みんなに本当のことを分かってもらえるでしょうか。自分が殺されてしまっても、影の国の女王はすぐにも三つの国を支配下に入れて、光の国を滅ぼしにやってくることでしょう。女王の企みを知っている自分しか、光の国を危機から救うことはできないのに……。王子は毎晩バルコニーから月を眺めては、この国と王家を守ると言い伝えられている白鳥の女王に祈りを捧げていました。  すると満月の二日前の晩、満ちていく明るい月の下で、

          エリヴェットと白鳥のドレス

          エリヴェットと白鳥のドレス

          第四章 愛しい家族 ‐後編‐  この場所にはその時、王様とお妃様と王子、それから限られた数人の大臣や召使しかいなかったのですが、不思議なことに、その日のお昼には、光の国の王子がもうすぐ処刑されるかもしれないということを、鏡の国のほとんどの住人たちが知っていました。というのも、鏡の国の烏たちが、王様たちの会話の一部始終を聞いて、皆に広めたのです。この烏たちは本当に鏡でできていて、周りの風景に完全に溶け込むことができるので、誰にも気づかれずに情報を集めては、皆に伝えるのが大好き

          エリヴェットと白鳥のドレス