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建物に刻まれた数字の暗号?(1)

こんにちは、Akiです。

建築好き通訳ガイドの視点から、建物の魅力について紹介しています。

建物をよく見ていると、ときどき「これはどういう意味なんだろう?」というものが目に入ることがあるかと思います。

今回はそのようなものの中から、建物に刻まれた暗号のような、数字に注目してみたいと思います。

紀元2591年?

建物の土台の部分に、「定礎」という文字が刻まれた石や、プレートを見かけることがあると思います。

定礎(ていそ)とは、

「建築の着工に際して礎石を据えること。建築工事を始めること。」

という意味です。基めるということでしょうか。
最近の建物では、工事の開始段階ではなく、竣工時に石や金属プレートなどを埋め込むことが多いようです。

「定礎」には、工事の開始や完了を記念して、日付が添えられています。
この日付は「平成〇〇年〇〇月〇〇日」というような、馴染みのあるものだとわかりやすいのですが、古い建物の場合、いつのことかすぐにはわからないものがあります。

例えば、東京・丸の内は東京駅の赤レンガ駅舎の前に立つ、「東京中央郵便局」(昭和6年竣工)の場合を見てみましょう。

東京中央郵便局は、当時の逓信省・吉田鉄郎の設計による、日本の初期モダニズム建築の代表作で、ブルーノ・タウトからモダニズムの傑作と称賛された建物です。現在、建物の一部が高層ビル「JPタワー」の低層部に保存・利用されています。

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東京中央郵便局・JPタワー

東京中央郵便局のファサード、写真では低層の白い部分の右下の角に、以下の礎石を見つけることができます。

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東京中央郵便局は戦前に建てられた建物なので、礎石の文字も現在とは左右逆で「礎定」となっています。
そしてその右横には縦書きで、「紀元二千五百九十一年」(紀元2591年)という年号が刻まれています。

今年は西暦でいうと「紀元二千二十一年」(紀元2021年)なので混乱しますが、東京中央郵便局の紀元は日本の「皇紀」、つまり日本書紀に記された、神武天皇が即位した年を元年としたものなのです。

皇紀元年は西暦では紀元前660年にあたるので、皇紀年から660を引くと西暦年になります。
上記の礎石の数字は、2591年から660年を引くことの、1931年(西暦)、つまり昭和6年にあたります。建物の竣工年と一致しますね。

なんだかややこしいですが、戦前は皇紀が広く使われていたために、その時代の建物には皇紀で年号が刻まれているものが多いです。

街中の建物で「定礎」の数字が大きすぎる場合は、皇紀の可能性があるので、660を引いて西暦に換算してみるとわかりやすいでしょう。

余談

建物ではないのですが、有名な旧日本海軍の戦闘機「ゼロ戦」の正式名称は「零式艦上戦闘機(れいしきかんじょうせんとうき)」。
ゼロ戦が正式採用された1940年は、皇紀2600年にあたり、その下2桁の00から「零式」と名付けられ、「れいせん」または「ぜろせん」と呼ばれました。皇紀が広く使われていた一例を示しています。

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零式艦上戦闘機(靖国神社遊就館)

この他にも、寺社の石碑などで、戦前に建てられたものには皇紀での表記が見られますので、チェックしてみるとおもしろいですね。

参考資料

東京中央郵便局 「プレモダン建築巡礼」日経アーキテクチュア

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