#6 精神病院

久しぶりに帰った家は、思っていたよりもずっと暖かかった。

パートナーから受けている仕打ちを話し、僕が馬鹿だったことを謝罪し、うつ病を告白した。

家族は、あれこれと詮索することなく、布団を敷いてくれて、食事を出してくれた。

一つ下の妹がうつ病で入退院を繰り返していることから、対応に慣れていたんだろう。

家族と向き合い続けた妹のことを、とても尊敬したし、有難いと思った。

「しばらく実家に帰ります」というメッセージに、彼は「ゆっくり休んで」とだけ返信を寄越した。

ネットには、暴力の後に優しさを見せる、〈ダブルバインド〉だと書いてあった。

彼が本当に自己中心的でどうしようもないクズだったとしたら、僕だってとっくに逃げ出している。

どうしようもないくらい尽くしてくれるから、そこにほだされてまた一緒にいてしまうんだ。

僕は相変わらずまともな食事も取れなかったし、一日中寝込んでは手元の電子機器で、「この苦しさからどうやったら解放されるのか」を調べ続けていた。

少し調べては休憩し、解釈が合っているか妹に相談し、また調べ続けた。

それによって、どうやら僕と妹は、機能不全家庭で育ったことによるアダルトチルドレンで、極端に自己肯定感が低いことがわかった。

妹が10代の頃から、異性の愛情を確かめようとむちゃくちゃな行為をしたり、逆に突き放したり、手首を切ってみたり、いわゆる「ヤンデレ」的な行動を繰り返していたのも、ここから来ているのだと初めて解った。

妹が通っていた病院に行ってみることを勧められ、僕は親にお金を借りて、治療を開始した。

病院は入院施設もある大きな病院で、ネットの口コミによれば、アダルトチルドレンと依存症に強い病院だと言う。

精神科って、奇声を上げる人達が、鎖に繋がれて鉄格子のはめられた窓のある部屋に閉じ込められるイメージですごくドキドキしたが、行ってみると、ごく普通の内科や外科ととなんら変わらなかった。

患者さん達は奇声を上げなかったし、普通に待合室でソファに座って順番を待っていたし、女子高生もいたし、スーツ姿の男性もいたし、おじいさんもおばあさんもいた。

僕は問診票に、「同棲パートナーからの暴力によるトラウマで、日常生活に困難が生じている」と記入した。

まもなくケースワーカーさんからの聞き取りで別室に呼ばれ、生育歴やアルコールの摂取量、薬物歴、自傷歴などをヒアリングされ、最後に「治療中、私は自傷行為を行いません」と書かれた宣誓書にサインをさせられた。

そして問診。

「眠れない」「食べられない」などの自覚症状を伝え、それを緩和させる薬を処方してもらう。

風邪をひいた時に「鼻水が出る」「咳が止まらない」などと自覚症状を訴えて、処方薬を貰うのと同じだと思った。

だが、症状だけ改善しても、生活が整わなければ病状はよくならない。

医者が提案したものは、僕を驚きと恐怖に陥れるものだった。

「パートナーに電話してみましょうか」

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