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Kindle電子書籍『博士課程に進む学生さん,進学は価値>価格ですか?』サンプル

3月に入って大手企業は就職活動が解禁になりました。
理系では修士課程に行くのはもはや当然に近くなっていますが,
博士課程に行くかどうかも見極める時期に来ていると思います。

今回は拙著Kindle電子書籍
博士課程に進む学生さん,進学は価値>価格ですか?
のサンプルとして「4節 博士課程進学のデメリット」
公開しておきます。

他の節とリンクする内容なので,
お読みいただいてご興味がわいたら
是非手に取ってみてください!

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博士課程への進学を考える観点をこれまで示してきた。ここからはより直接金銭面に関わる話をしていく。博士課程に進んで金銭面に最も影響を与えるのは,収入を得られるのがそれだけ遅くなる点だ。博士の学位をもっていても一般の企業では給料が上乗せされることはない。博士課程を3年で卒業して企業に就職した場合の初任給は修士を終了して3年後の社員と基本的には同じになる。大学の教員の場合の例は「おまけ1」に挙げた。次のページの20代後半の情報から計算すると3年間で平均1000万円ほど収入に差がつく。

▼年収ラボ
http://nensyu-labo.com/nendai_20.htm

さらに学費もかかる。国公立だとしても3年間で160万円ほど必要になる。

日本の奨学金は原則返済が必要で,そのうえ有利子なら利子の分も負担が増える。たとえば,学生支援機構の奨学金を月122000円,36ヶ月借りた場合,無利子でも20年間月々18300円の返済を続けることになる。有利子で金利が1%だと20年間月々20199円の返済になる。学部と修士で借りていればさらに返済額は大きくなる。もし返済に遅延があると延滞料(年利2.5~10%,参考:学生支援機構の延滞金の説明ページ)が上乗せされる。返済額の計算には次のサイトを使った。

▼みんなの知識委員会;ちょっと便利帳,ローン返済額計算
http://www.benricho.org/loan_calc/

次の記事からわかるように,学生支援機構の取り立てが厳しいことも認識しておこう。学生支援機構は役所のようなものなので,政府のお墨付きがついた状態で民間企業以上に杓子定規に取り立てが行なわれるからだ。

▼Business Journal;武富士以上…若者を食い物にする学生支援機構の奨学金、えげつない取り立ての実態
http://biz-journal.jp/2014/06/post_5119.html

ただし,「奨学金=悪」と決めつけるつもりはない。ビジネスの経験がない者に将来性だけを担保に比較的低い金利で数百万円の借金をさせてくれるというのは破格の待遇でもあるからだ。いくら借りられるかだけでなく,返還免除や延長の申請方法,返済が遅れたときの延滞金はいくらかを含めた返済の仕組みについてよく理解した上で,順調に返済ができなくなった場合も想定して慎重に奨学金は利用しよう。次のリンク先の情報は奨学金のメリットデメリット,返済の仕組みの肝がわかりやすくまとめられている。

多額の奨学金の返済ができない・・・結婚にも影響の恐れあり,奨学金マニア

同サイトで,収入の条件はあるが,金利の支払いを減らすコツも役に立つ方はいるだろう。

奨学金を滞納する前に取るべき3つの行動
【返済負担軽減】奨学金の返済がはじまる前にやっておきたい5つのこと

そもそも奨学金に極力頼らないで済むのが一番だ。もらえる奨学金でも申請の手間はあるし,卒業後の進路に制約がかかることもある。借りる前に奨学金で補う必要のある額を計算しておいて必要最低限だけ借りるようにすることは,一手間かかるのだが,この一手間で利子の支払いを確実に減らせるし,借金の金額が減ること自体がプレッシャーを小さくしてくれるので精神衛生上もいい影響がある。

さらに研究者になれても以前の私のように任期付きと不安定な状態になる。次のような博士課程進学者の進路の不安定さを示している統計もある。

▼舞田敏彦;データえっせい,博士課程修了生の不安定進路の比重
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/12/blog-post_22.html

震災後の国家公務員給与の引き下げは2年間で元に戻ったが,退職手当の引き下げは恒久化するかもしれない(大学の教員の給与は人事院勧告の影響を受ける)。定年も上がるから若手にポストはまわりにくくなる。教授が退職してそのままポストが廃止になる,つまり内部昇進の道が閉ざされることもある。今後若手研究者を取り巻く給与面・ポスト面の状況が悪くなることはあっても,良くなることは想定しにくい。

このため,お金に関して学部・修士課程の後に就職する人たちよりもお金に関して数段シビアに考える必要がある。ファイナンシャルリテラシーを高める努力を同時にしないと後の人生で詰んでしまいかねない。しかし,お金のことは自分で学ぶしかないのが現状だ。

シビアな感覚を維持するのに次のサイトの日記は役に立つ。

▼金持ち兄さんの日記
http://rich.xrea.jp/

多くの記事があり全てを読むのは大変だろうから,まずは以下に挙げる記事から読んでみるとよい。ただ,時間をかけて少しずつでもいいからすべての記事を読んでみるだけの価値はあると思う。

▼ある日突然、収入が0円になったら…
http://rich.xrea.jp/200812/15.html

(任期切れで失業することも想定しておき,普段から蓄えを増やしていくとよい)

▼一度覚えると恐い「贅沢の味」(2)
http://rich.xrea.jp/200608/20.html

(生活レベルは一度上げると下げるのは困難,研究者として就職しても学生時代の節約意識・生活レベルを維持するくらいでいい,ただ高額なものは一切ダメと決め付けることもない,自分の感性の幅を広げるのに役立つ面もあるからだ,惰性で贅沢をしていないかを気を付ければよい)

▼貧乏で貯金(資産)ができない人のパターン
http://rich.xrea.jp/200710/12.html

▼貧乏で貯金(資産)ができない人のパターン(計画・収入)
http://rich.xrea.jp/200910/10.html

(上記のようなパターンにはまらないようにするためには本当に自分が必要としている物・サービスだけを購入することを意識する必要がある,外部から与えられた情報に踊らされるのではなく自分自身と向き合おう,しかしこれは同時に自分の「苦悩」とも対面することになる,だから言うほど簡単にはできないのも受け入れておこう,激しい消費が自分から目を背けることにつながっていることも認識しておこう)

▼まだ若いアナタも、少しずつ老後資金を作り始めた方がいい
http://rich.xrea.jp/200804/10.html

(大学教員も年俸制で退職金なしというパターンは多くなってきている,年俸制の場合はより貯蓄を意識する必要がある)

▼子供の教育費(学費)はいくら必要なのか?
http://rich.xrea.jp/200902/4.html

▼年収が下がる中「何を手に入れて、何を諦めるか?」
http://rich.xrea.jp/200902/11.html

(将来の見通しを考えてみたり,自分の望みを掘り下げたりすることで必須ではないことを手放していこう)

付け加えると,進学しても研究者を続けられる保証はない。研究者を続けられなくなった場合,研究者として培ってきたキャリアや能力が特殊すぎて,専門分野に固執すると誰からも必要とされなくなるリスクもあることは頭の片隅においておこう。上記の判断と合わせると,起業する以外の選択肢はないかもしれない(選択の余地がないのは必ずしも悪いことではないが……)。以下のコラムを読むとわかるが,アルバイトにすらつけない可能性もある。

▼池上正樹;「引きこもり」するオトナたち,第128回 一度レールを外れるとバイトにすら就けない!高学歴ワーキングプアの抜け出せない苦しい現実,Diamond Online
http://diamond.jp/articles/-/28112

だから博士課程の専門知識・研究技術だけが自分の価値だと固定化しないほうがいい。3節でもいくつか例を挙げた博士課程で経験できることの全てがあなたが提供できる価値につながっていく。たとえば,博士課程に進学した先にある道は楽しいことばかりではないかもしれない。でも何かに苦しんだり悩んだりしたこともそれに対処する方法を提供できる価値につながる。研究に関する活動で学んだことをビジネスに生かす観点を紹介した10節の内容も参考にしてほしい。

このように自分自身の性質や価値を感じ取るにも「感性」は非常に重要になる。価値を感じ取ることで他人が利用できる方法を考え始められる。研究というと「論理」が優先されるイメージかもしれないが,ここで書いた意味でも「感性」と「論理」の両方を活用していこう(本書2節に解説がある)。

そして,最悪の状況を想定しておいて,そのときにも何とか生き続けられるという状態にしておくのがよいと私は考えている。失敗しても大丈夫と思えるから試行錯誤ができて成功に向かえる。失敗できない状況を作ってしまうこと自体が失敗だと思うくらいでいい。「失敗してもいい,試行錯誤した上で成功すればいい」または「失敗せずに一発で成功させろ」と言われたら,成功に終わる確率が高いのはどう見ても前者になることは研究に関わったことがある方なら理解できるだろう。先の段落に書いたように自分の価値を発揮させる方法を複数考えておくのもいいだろう。8節の依存先を増やしておく話も参考にしてほしい。

次の5節から7節はお金との付き合い方の具体例を説明していく。この3節は,博士進学のリスクヘッジの一助にはなるが,学生の段階であまり細かいお金の話をされても……という方もいるだろう。進路の選択と直結する内容でもないので,興味によっては8節に直接飛んでもらっても構わない。

★今すぐやってみよう(4節)

博士課程進学のメリット・デメリットを次の手順で考えてみよう。時間がかかるかもしれないので,何回かに分けて行うといいだろう。

Step 1
あなたにとって博士課程に進学するデメリットを考えてみよう。何を手放すことになるだろうか?

Step 2
進学にかかる支出(入学料,授業料,教材費,生活費)とアルバイトや仕送りといった収入の差から,どれくらい奨学金という「借金」で補う必要があるか概算しよう。

Step 3
進学による最悪の事態を想像してみよう。

Step 4
最悪の事態になったらどう対処するか考えてみよう。最悪の事態を回避するためにできることも考えてみよう。

Step 5
進学のメリットも考えてみよう。

Step 6
上記で考えたメリットとデメリットを総合的にみて,進学が自分にとって進むとよい道かを考えよう。

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このような感じで本編13節とおまけが4節からなります。
Kindle Unlimitedの対象でDRMフリーです。
表紙(Amazonのサイトへのリンクにもなっています)を
最後に載せておきます。


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