表紙-自分らしく伝えたいことを表現する学会プレゼンのコツ-note

Kindle電子書籍『自分らしく伝えたいことを表現する学会プレゼン』サンプル

この時期は学会が多いですね。

発表資料の作成や練習も大変だと思いますが,
学会発表で一番気が重く感じるのは
発表者の想定どおりに進むとはかぎらない
質疑応答だと思います。

学生さん用にポスター発表を設ける学会も増えてきていますが,
口頭発表よりも質疑応答が長いので
ポスターのほうが難易度が高いと思う方もいるでしょう。

そこで今回は拙著Kindle電子書籍
自分らしく伝えたいことを表現する学会プレゼン
のサンプルとして「8 質疑応答への準備と不安への対処」
ここに公開しておきます。

なお「1 はじめに」,
7 資料のデザインにも気を配ろう」(一部)
12 プレゼンのチェックリスト」(一部)も
メインブログに公開しています。

お読みいただいてご興味がわいたら
Amazonのサイト
で是非ダウンロードしてみてください!

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プレゼンの中身についてこれまで触れてきたが,とくに慣れないうちは質疑応答が発表自体よりも困難に感じるだろう。発表自体は自分が用意したもので話せばいいが,質問はどんなものが飛んでくるかは完全には予測できない。その場のアドリブが必要になる。研究と発表の経験を積んでいきながら上手くなるしかない部分もある。経験を積むことで発表の背景にある知識は確実に増えていくのでより柔軟な対応ができるようになっていく。だから初心者のうちは完璧に対応できなくても自分を責める必要はない。答えられなかった質問は自分の研究を強化するための視点を与えてもらえたと思えばいい。わからないことは素直にわからないと答えても構わないのだ。質疑応答に上手く答えられないとバツが悪く感じるだろうが,聴衆もしばらくすればあなたが質問への返答に失敗したことなど忘れてしまうものだ。安心して失敗してもらいたい。とはいえ,何も対策ができないわけではない。準備ができそうなこと,質疑応答の心構えを以下に列挙しておく。

■想定される質問とその答えをリストにしておこう。とくに時間の制限で説明を簡潔にせざるをえなかった点,研究成果がどこに役に立つのか,研究の発展の方向性は考えておくといい。

■測定や数値計算の原理をよく復習しておこう。質問されたらその原理の重要な点を手短に説明できるように準備しておくといい。数式や無次元数が出てくるときは物理的な意味も把握しておこう。

■研究期間の制約から検討できなかった操作因子・条件範囲を確認しておこう。これを検討することでさらに何がわかりそうかも考えておこう。

■自分の研究方法の弱点・盲点・不合理な点を洗い出してみよう。完璧な研究は存在しないのでこれらがあるのは問題ない。これらの点を改善する方法を考えてみよう。質問で弱点をつかれたら,指摘してくれたことを感謝しつつ,改善方法を説明しよう。

■質問に答えるときに合わせて示すとよさそうな資料も発表スライドの後ろに用意しておこう。

■質問者に対して優位な立場に立つのが質疑応答の目的ではない。優位な立場というのは幻想だと思ってくれていい。質問者が勘違いしているのがわかっても,勘違いさせるような説明をしてしまった自分のせいもあるので,理解してもらえるように再度説明をしよう。

■質問する側が優位に立とうと質問や批判をしてくることもある。批判をすれば相手よりも優位な立場になれる,という幻想の中に相手がいるわけだが,その幻想を打ち破っている暇は質疑応答の時間にはないので,「そのような考え方・視点もあるかと思います。今後の検討に役立てようと思います。ご助言ありがとうございます」と相手の発言をその場は受け入れておくのがいいだろう。本当に受け入れるかどうかは発表の後でじっくり検討すればいい。

■質問者が話し終えてから答え始めよう。どう答えるか考える時間をかせぐことにもつながる。

■とくに初心者の場合は複数の質問に一度に答えるのは難しいだろうから,質問者が複数の質問があると言われたら「一つずつお答えする形でよろしいでしょうか」と伝えて一つ一つ答えるようにしたほうがいいだろう。

■質問の意図がわからないときは,意図を確認してから答え始めよう。問う側と答える側がかみ合わないまま時間が過ぎるというのは会場の全員にとって不幸な状態だ。英語での発表のときはもう一度ゆっくり話してもらうか,自分がわかっている範囲や単語を伝えて,聞き取れなかった部分を言い換えてもらうといい。

■質問には早く手短に答えるに越したことはないが,考える時間をとりながら答えることがあってもいい。考える時間を取らないと答えが出ない問いもある。少し考えて答えが出なければ,すぐに結論が出せるような質問ではないことを素直に伝えよう。鋭い観点であることも多いだろうから,そのような観点を提示してくれた質問者に感謝の意を伝えよう。

■英語の質疑のときは無理に文法的に正しい文になるように話す必要はない。キーワードを並べていれば,相手が確認をしつつ伝えたいことを補ってくれることもある。

■他力も活用することを考えてもいい。共同研究者が同じ会場にいてその人のほうが詳しければ話を振ってもいい。英語の質疑なら座長に助けてもらいながら答えていってもいいし,質問者が確認するような感じで相手に言葉を補ってもらいながら話が進むこともある。何でも自力でしないといけないと決めつける必要はない。

■質疑応答が終わったらできれば質問内容と自分の答え,こう答えればよかったという内容のメモを残しておくいい。今後の研究の観点になりうるし,次の発表の質疑応答対策にもなる。

上記のような対策や心構えを理解しても,質疑応答に緊張・不安・恐怖といったマイナス感情を抱くこともあるだろう。このマイナス感情とどうつきあうかについてはまず指導されることはないだろう。まず,なぜマイナス感情が生じてしまうかというと,「すぐに手短に的確に質疑応答に対処すべき」といった「~すべき」または「……してはいけない」という固定観念に合わせようとしているのが一つの理由だ。これが固定観念に合わせられなかったらどうしよう,という想念になってマイナス感情を生じてしまう。極端に感じるかもしれないが,本質だけ言ってしまうと固定観念はすべて幻想だと思ってくれていい。固定観念は絶対的に正しいわけではない。特定の状況にはフィットすることはありうるが,これが守られなくても問題ない状況のほうが多い。質疑応答がスムーズにいかないくらいであなたの人生は破綻しない。

研究の発表では,自分がやったことに対して反対意見が出たり,否定的なコメントが来たりすることもある。研究とは未知の対象に取り組むことなので聴衆にとって当たり前でないことが必ず含まれることになる。もちろん取り組み方が未熟なことに対する批判であることもあるが,当たり前でないから反対や否定のコメントが飛んでくるのだ。聴衆が簡単に賛同できてしまう内容は目新しさがないともいえる。簡単に理解してもらえないということは未知でオリジナルな研究である可能性の証拠でもある。学会発表の質疑応答の場が批判的な雰囲気だったとしても自分のやっていることを完全否定しなくていい。ただし,未知と既知をつなぐ表現を工夫したり,より客観性を高める検証手法を考えたりするためのフィードバックとしては生かすようにしよう。またこのような批判が攻撃的に感じても,攻撃的な応答で返すのは控えよう。このように反発してくれる方々でさえもあなたの研究をより強固なものにしてくれる協力者なのだ。未知のものに人間や不安や恐怖を感じやすい。これらの感情に対処するために攻撃的な表現をしてしまっている可能性もある。お互いに感情に巻き込まれ続けないような対処をしていこう。ただ,巻き込まれ「続ける」のは避けたほうがいいのであって,「一時的に」感情に巻き込まれてしまうことがあってもいい。不安・怒り・恐怖といったマイナス感情を含め,あらゆる感情は味わうために存在している。そして味わったら学びを得て手放していこう。

ただ,原因を表面上理解しただけではマイナス感情を生じないようにはできないだろう。マイナス感情は無理に消さなくていい。消そうとすると「マイナス感情になってどうしよう」とさらにうろたえたり,「マイナス感情になっている自分はダメだ」と責めたりすることになって,ますますマイナス感情にはまってしまう。固定観念をゼロにするのは自我意識だけでは不可能なのでマイナス感情は生じ続けるものだと思ってくれていい。

大切なのはマイナス感情を自分で強化したり巻き込まれたりしないことだ。マイナス感情に陥ったら,その感情を認めよう。「ああ,自分は不安を感じているな」といった具合だ。自分の感情をまるで他人が見ているように客観視するのだ。マイナス感情を相手にせずに,ただ静かに放っておくだけにしておくようなイメージだ。こうするだけで不安の感情は落ち着いてくる。この不安の感情は先にも書いたように何かしらの固定観念に囚われているのが原因のことが多い。しばらくして落ち着いてきたらその固定観念に対して,「○○という固定観念は,△△の状況では役立つこともありました。でもこれは今は手放してもよさそうです。今までありがとう。○○を手放します」と心の中でつぶやいてみよう。手放せないなら手放せない自分がいるんだな,と自分をさらに客観視すればいい。手放すのに抵抗することで学べる何かがまだあなたの内側にあるだけだ。手放せようが手放せまいが良いも悪いもない。判断はできないのだ。マイナス感情が生じることも善悪を「判断」しなくていい。

最後にもう一度繰り返すと,どんな感情もあなたに味わって欲しくて,そのような感情を通じて何かを学んで欲しくて生じている。マイナス感情が落ち着いてきたら「この感情は自分に何を学ばせるために生じたのだろう」と自分の内側に問いかけてみるといいだろう。

★今すぐやってみよう(8節)

次の手順で質疑応答に備えよう。

Step 1
質問されそうな点をリストアップしよう。

Step 2
想定質問への答えを考えてみよう。具体的な答えが今の時点でなくても構わない。正直にできないことはできないと伝えるか,今後の方針と答えるのも手だ。

Step 3
図解・グラフ・写真・数式があったほうが質問に答えやすいのであれば,そのためのスライドを作っておこう。

Step 4
質疑応答やプレゼンに対するマイナス感情を客観視してみよう。

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自分らしく,でも伝わりやすいプレゼンをできるようになりたい方は
ぜひ手に取っていただければと思います。

Kindle Unlimitedの対象でDRMフリーです。
プレゼンのチェックリストはテキストファイルとして
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