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フェリーニの『8 1/2』は唯一無二の芸術的傑作映画である

1963年製作の映画フェデリコ・フェリーニの「8 1/2」Otto e Mezzo
ぼくが初めて観たのは、リバイバル公開の時でした。
80年代当時この映画の評価はすでに定まっていて、大学生だったぼくは観終わって「さっぱり訳がわからん」と頭を抱えたのを覚えています。

ストーリーは、というか、ストーリーらしいものがないのが、この映画なんですが、主人公は映画監督のグイド。これをイタリアの名優マルチェロ・マストロヤンニが演じています。冒頭、渋滞にはまった車の中から、もくもくと煙が出て、必死の思いでグイドは外に出ますが、そしたらタコのように空中を飛んでいき、浜辺で下から紐を引っ張られて地上へ落ちるという、なんともシュールで意味不明なシーンから始まります

つまり、この映画は、映画監督グイド、すなわちフェリー二自身の頭の中に描かれた意識、想像、夢、苦悩などを羅列していく映画なんです。
医者に勧められて、温泉療養にグイドは行きますが、映画製作はストップされません。プロデューサーやスタッフ、スポンサー、出演する役者や、妻や愛人との関係、フェリー二自身が悩まされ続けた、熱心な宗教家である両親との関係、まぁ、そういうものをそのままスクリーン上に描いていきます。

おそらく映画を見慣れてない方が、評判だけ聞いていきなりこの映画を見てもたぶん寝ちゃうでしょう。まるで、ピカソの後期の絵を見て最初は理解できないようなもんです。
フェリー二自身もインタビューで、この映画が理解できないという記者に「理解?この映画は理解するものじゃない。感じるものだ」と話してて、ぼくは正直ホッとしたのを覚えてます。

それまでのフェリー二は、イタリアン・ネオリアリズムの映画を撮ってて、初期の「」なんかは、底辺に生きる人間の尊厳を描いた、誰が観ても感動し泣ける一編でしたが、「甘い生活」から宗旨変えしました。
それは、ぼくは50年代末期からのフランスのヌーベルバーグが影響してるんじゃないかと思います。もっと映画表現は自由で良いんだという手法が、天才フェリー二の感性に響いたんじゃないかと思ってます。

あ、そうそうこの「8 1/2」という題名は、フェリーニの「8本目と半分」の監督作品ということから付けられてます。デビュー作が、共同監督だったのとオムニバス作品が2本あるので、「8 1/2」なんですね。

この一本の映画を製作する過程でおこる、監督の苦悩を描くというのは、世界中のあらゆる作り手の琴線に触れたらしく、その後色んな映画人に影響を与えています。

二、三例をあげると、「アニーホール」でアカデミー賞とったウディ・アレンも、北野武の「監督バンザイ」も、カンヌをとった「オール・ザット・ジャズ」のボブ・フォッシーもそうだし、「ナイン/NINE」はそのままこの「8 1/2」をミュージカルにしたものでした。だけど、どれもこれもフェリーニの「8 1/2」を超えられません。それほど唯一無二の芸術的傑作なんですね。

フランシス・フォード・コッポラも、フェリーニ映画に必ず流れる音楽のニーノ・ロータを「ゴッドファーザー」で起用し、「地獄の黙示録」では、ヘリコプターからベトナムの村に、ナパーム弾をぶち込む時にワーグナーの「ワルキューレの騎行」を使ったのは、この「8 1/2」の中で同じ曲が流れていたからじゃないか?と邪推してます。

映画の途中で老紳士と女性が踊るダンスシーンは、「パルプ・フィクション」でクエンティン・タランティーノジョン・トラボルタウマ・サーマンの踊りでオマージュを捧げてます。そして「パルプ・フィクション」の構成もこの映画に似てますしね。

つまり、この「8 1/2」をわかりにくくしているのは、パズルのように監督の頭の中にあるものがバラバラに出てくるからなんです。簡単に理解するためには、これは「」のシーンなのか、「想像」のシーンなのか、「現実」のシーンなのか、「過去」なのか、「現在」なのか、とその都度確認しながら見ていくと案外簡単に理解できて、面白さがわかるかも知れません。

グイド役のマルチェロ・マストロヤンニ

だけど、ぼくは、わからないからこそ面白いとも思うんです。こういう一種難解な芸術作品を見て色々と考えることも、人間の感性を磨く上で大切だと思います。そういう意味で幾つになっても楽しめる作品なんですね。

映画のラストで、グイドは妻に「人生は祭りだ、共に生きよう」と云います。イタリアは離婚が難しいというのもありますが、フェリーニ自身も奥さんのジュリエッタ・マシーナと終生一緒にいました。あの「道」のジェルソミーナをやった女優さんですね。

ラストのみんなが踊る場面とニーノ・ロータの音楽は、フェリーニのあたかも人生讃歌のように心に残ります

人生は祭りです。共に人生を楽しみましょう。てなことで。

(YouTube「アジア最高のイタリアンレストラン OTTO E  MEZZO BOMBANAと映画フェリーニの「8 1/2」から加筆訂正しました↓)

最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました!