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人事・人材マネジメント(6):ジョブ型人事制度 ~日本企業への導入~

人事・人材マネジメントについては、2年前に5回ほど書いていますが、それ以来となります。
この時も日本型のメンバーシップ型人事と欧米型のジョブ型人事の違いは単に処遇だけの問題ではないため、「メンバーシップ型は古い、これからはジョブ型人事」と言った単純な議論に終始しないことが「実務家には大切」と書きました。

その後、ここ2~3年で実際に伝統的な日本企業へのジョブ型人事導入の事例やコンサルタントによる導入上の工夫点が紹介されてきました。
今回はそこからの得たポイント(論点)を書いてみたいと思います。

日本企業へのジョブ型人事導入 参考書

日本版ジョブ型人事ハンドブック

まず1冊目は2022年3月に発刊されたコーンフェリー社 加藤守和氏による「日本版ジョブ型人事ハンドブック」です。

この本で著者は日本企業でジョブ型を進めていくのは大きく5つの理由があると述べられています。

・報酬と職責の不整合
・日本企業の低い生産性
・社員の高齢化と同一労働同一賃金
・専門人材の獲得・活用の困難さ
・グローバルでの多様な人材マネジメント

「日本版ジョブ型人事ハンドブック」より

そのうえで、長らくメンバーシップ型人事の下で、新卒採用や雇用保障をしている日本企業へのジョブ型人事の導入は両者をテーマにより融合したり、使い分ける「ハイブリッド型」が有効であり、自社流にあった仕組みを志向すべきと述べられています。

詳しくは本書や下記、セミナーの講演録をお読みください。


経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて

つぎに同じく人事コンサルティングで有名なマーサージャパン社 白井正人氏による「経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて」です。

本書ではメンバーシップ型とジョブ型雇用について、採用から配置・代謝、報酬や教育、要員計画や人事機能と幅広い人事・人材マネジメントの領域における特徴比較を行っています。
特にワークフォースプランニング(人材ポートフォリオ、現場主導の要員計画など)や、パフォーマンスマネジメント報酬マネジメント(報酬と評価の分離、市場価値ベースの報酬決定など)はジョブ型雇用を深く知る意味でも非常に参考になります。

一方で、伝統的な日本企業への導入に際しては「一国二制度と段階移行」つまり「ハイブリッド型」を推奨しています。

こちらも詳しくは本書や下記、マーサージャパン社の解説ページをご覧ください。


ジョブ型導入における大きな人事方針転換

さて、伝統的な日本企業がジョブ型人事制度を一部導入から本格的導入へと進める際に、経営サイドや人事部に迫られる大きな方針転換として、私は以下の2つがあると考えています。
 1)人事権の現場移譲
 2)昇格・報酬決定のメカニズム変更

1)人事権の現場移譲

伝統的な日本企業では多少の濃淡はあれ、人事部や事業本部の人事ラインが採用・配置・処遇の最終的な調整・決定権を持っているところがほとんどです。
一方、ジョブ型においてはスキルを持った中途採用者を中心にジョブアサイン(配置)し、報酬もジョブサイズや市場価値をベースに現場で決定されていきます。

ジョブ型では現場や本人の意向を考慮しない人事部による定期人事異動や配置換えは難しくなりますし、昇格・処遇についても同期横並び比較での昇格スピードや昇格枠管理、処遇調整というのも、専門性の異なるジョブタイプの間では納得性が得られなくなります。

つまり、それぞれの現場が事業遂行のために必要な要員計画を立て、それに基づいて不足分は中途採用・アサインし、ジョブサイズ等に応じた処遇(ベース給)を支払い、本人のパフォーマンスや事業業績に応じて短期・長期のインセンティブ(賞与)を出すというのが基本的な考え方になります。

当然、人事部もある程度の調整(ジョブごとの報酬水準ガイドラインや昇給ファンド等)は行いますが、概ね最終決定権は現場側に移ります。

事業が好調で、必要な人材リソースも採用市場で高騰しているならば、当該リソース対象者の報酬額も上げていかなければ、中途採用も出来ませんし、内部要員の転職も徐々に増えていくでしょう。この場合、昇給によるコスト増よりも事業に必要なリソースが確保できないリスクの方が高いのです。

こういった個別事業やジョブごとのバラツキ、アジャストについて、これまで人事部がメンバーシップ型人事の下で行ってきた横並び比較内部公平性といった方針をどこまで転換ができるかが大きなポイントになると思われます。

ジョブ型に移行した際の人事機能の変革について「経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて」において、白井氏は以下の4つの要件を上げていますので、ご参考にして下さい。

①経営・事業運営に必要な組織能力の確保が重視されている
➁個々のキャリア自律を前提とした構えになっている
③変化への対応力、すなわち問題解決力が重視されている
④デジタルケイパビリティを活用した近代的な能力を備えている

「経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて」より

2)昇格・報酬決定のメカニズム変更

もう一つの方針転換は「評価と報酬の分離」です。

これまで全方位的な能力評価に基づく職能等級MBOをベースとした成果主義に親しんできた日本の人事からすると、この観点はなかなか相いれないのではないかと思われます。

この議論は2年前のnoteにも書きました。

成果主義の下で評価と報酬を強く結びつけたままだと、人事部も現場も最終的な報酬原資や内部公平性に目が行ってしまい、評価結果は中心化・正規分布になりがちで、本来、MBOが持つ自ら目標に向かっていく姿勢や減点を恐れてチャレンジ志向が失われるといった問題点があります。

一方、社員のパフォーマンスを上げること(① 必要な組織能力の確保)を
人事部門・人事プロフェッショナルたちが真剣に考えてきた欧米の先進企業では成果主義を脱却し、ノーレイティングOKR1on1ミーティングなど新たな評価・フィードバック手法を打ち立ててきました。
「ニンジンを単純にぶら下げても、人の自律的な成長は促されない」ということに彼らはいち早く気づいたのでしょう。

ジョブ型人事における報酬の考え方は両書に詳しく書かれていますので、興味のある方はぜひお読みください。

おわりに

かくいう私の会社でも、従来の成果能力主義型人事制度をベースにして、ジョブ型・市場価値水準型へとハイブリッドな人事マネジメントを行っています。

少し他の日本企業と異なるのは急激な事業成長に対応するため、多くの中途社員を採用してきました。結果的に現場の意見を尊重した採用方針、そして昇格や報酬が決まっていくメカニズムに変更してきています。

人事部が精緻に全社横並び比較しないで、なぜ内部公平性が保てるのかと言えば、幹部や役職者の多くが中途採用になってくると、彼ら自身が配下のプロフェッショナルたちの報酬相場観や成長度合いを市場目線で身をもって理解しているからに尽きます。

新卒一括採用、終身雇用、中途採用は少数派といった伝統的企業においては、昇格ピラミッドにおける同期の昇格争い的な視点が強く、人事も現場もなかなか外部労働市場との比較に慣れていないため、この点でも苦労するかもしれません。

一方、中途採用が中心になってくると、短期的な成果を求めてスキルのある社員だけ外から集めたがり、どうしても部下の中長期的な育成は疎かになりがちです。
この点、ジョブ型人事制度をとっている欧米企業はその弱点を理解し、パフォーマンス・マネジメントを上司の重要な責務として、1on1など新たな手法を積極的に導入するようになったと考えられます。

皆さんの会社でも自社に適した人事・人材マネジメントをぜひ試行していって下さい。

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