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読書メモ:経営行動-第7章 権限の役割

「万能人」ハーバートA・サイモン。ノーベル経済学賞受賞者にして人工知能のパイオニアによる経営組織における意思決定の研究!
ハーバートA・サイモン/ 訳者:二村敏子他(2009年7月初版)


第7章:権限の役割(1945年初版の内容から)

 組織は、組織メンバーである個人の決定に影響を与える方法としては、権限、コミュニケーション、訓練、能率、一体化(組織への忠誠心)などの基本様式を持つ。これらいずれの基本様式においても、その影響には、以下の外的側面と内的側面が機能している。

  1. 組織が個人に影響を与えようとする「刺激」:影響の外的側面

  2. 刺激に対する個人の心理的「反応」の集合:影響の内的側面

組織は、個人の決定を決めるのではなく、個人が決定を行う前提を示し与えるのである。また、組織での行動の統一と調整は、①計画が組織のために開発され、②計画がメンバーに伝達され、③メンバーにより計画が受容される、という過程を経て行われる。権限はこのプロセスにおける③メンバーによる受容の段階で中心的な役割を担う。

権限

「権限」とは、他者の行為を導く決定を行う権力、と定義できる。ただし、他者の行動へ影響を与えるために、常に権限の行使である「命令」が用いられるわけではなく、多くの場面では「説得」あるいは「提案」が用いられる。説得と提案は選択の根拠となる環境・前提を変化させ、命令は服従すなわち選択の放棄を求める。

「確信」とは、決定の根拠となる前提への信念である。このような確信の誘因となるものの一つが証明である。しかし、われわれは説得や提案を受け入れる際に、必ずしも証明を求めていない。そこでは説得や提案を行う人の地位や専門性への信用が確信の誘因となっていることがある。このように「いかなる批判的な考察もなしに説得や提案が受け入れられる状況」を作り出す機能として、権限を定義することができる。意思決定機能の専門化、特定の専門性に対する責任を特定の個人に負わせること、は組織の能率の重要な源泉である。

権限の存在は、「命令の受容」あるいは「不一致の解決」という状況によってのみ、示されるわけではない。命令を予期して服従する、という行動が起こり得うるからである。この現象は「予期反応の法則」とも呼ばれる(「忖度」と呼んでも差し支えないかもしれない)。

権限による制裁

 組織の権限の受容を誘引する要素の多くは、広い意味で「制裁」と呼び得る。ただし、「制裁」は罰則を通じて機能する刺激を指しており、他の要素のいくつかはむしろ「報酬」として分類される。

  1. 個人に植え付けられた、ある社会状況における服従の期待

  2. リーダーとフォロワーのパーソナリティータイプなど、個人間の心理的差異

  3. 重要な制裁としての「目的」

 組織の「目的」が権限による有効な制裁として機能するためには、命令を受ける部下が①命令が合目的であるという確信、②命令が目的達成のために有効であるという確信、を持つことが必要である。この確信は、部下個人の持つ知識ではなく、命令する上司の能力への信用や情報優位性の認識、さらには目的達成のための調整の有効性への認識、などに基づいて形成される。さらに、以下の要素に根ざした制裁がある。

  • 「職務」と経済的な安定と地位との関係

  • 責任の受容(自らによる決定)に対する意欲の無さ

組織の目的や組織内の地位による影響に感化されない組織メンバーにとっては、後者は他者による決定を受容する主な理由となる。

権限の限界

組織における上司と部下の関係維持において、部下による服従と同じくらい、上司の自制が重要である。確信へ導く影響の手段が他にある場合、権限の行使よりも、それを活用することが「自制」である。

権限の行使

 権限の行使は、組織の活動における意思決定過程の分離と垂直的「専門化」を可能にする。権限はまた、組織活動の調整手段としても利用される。ここで重要となるのが権限の持つ以下の3つの機能である。

  1. 行使する人々の責任を高める

  2. 意思決定の専門知識を保証する

  3. 活動の調整を可能にする

責任

 権限の機能とは、定められた規範に個人を服従させることである、という点はしばしば強調される。実際、多くの社会的な組織や機関の中核には、権限のシステムとそれを強化する制裁のセット、が含まれる。例えば、行政上のハイアラーキーの概念は、このハイアラーキーに責任を持たせるメカニズムの概念と結びついている。
 しかし、それにもかかわらず、制裁の重要性は強調されすぎるべきではない。特定の制度的背景の範囲内で権限を受け入れる人は、制裁への恐怖よりも、社会的に植え付けられた倫理的概念によって強く動機付けられているからである。例えば、公的機関の権威や他者の人権・財産権などを認めるのは、そうすべきとの信念を受け入れているからである。

専門知識

 組織を運営する上での決定は、多くの部分的決定に細分化され、個々の組織メンバーの活動はこれらの部分決定の領域の一部に制限されている。これは、特定の知識やスキルを要する決定の責任が、そのような知識やスキルを有するメンバーに委ねることを意図している。
 しかし、意思決定が公式的ハイアラーキーに制限されているかぎり、決定に必要となる専門知識の全てを確保することはできない。そこで、権限の公式構造を超える「アイデアの権限」が重要となる(「制裁の権限」は権限の公式構造と結びついている)。

調整

 調整は、すべての組織メンバーが、確立された目標を達成するために、共同して相互に一貫した決定をすることを狙いとする。

命令の一元性

 命令の一元性が確立されることでもたらされる状態は、組織にとって重要な意味を持つ。問題は、命令の一元性は唯一のあるいは最適の解なのか、である。

  1. 伝統的な命令の一元性 ― 唯一人の上司から命令を受ける

  2. 狭義の命令の一元性 ― 対立した命令を受けた場合、服従すべき命令者は唯一

  3. 権限の分割

  4. 階級システム

特に2、3、4は相互排他ではなく、組織において並行して使われ得る。

権限のハイアラーキー

 コンフリクト解消し、誰が決定すべきか、を決めるために議論の余地のない手続きを提供する。

権限の分割

 公式的な権限の分割が存在する場合でも、コンフリクトは発生する。それは、むしろ管轄権の問題であろう。こうした問題の解決手続きは「裁決」と呼ばれる。そこでは、決定の内容よりも「合法性」が問われる。管轄権をめぐる紛争は、トップの管理者に重要な課題をレイズし、彼の知識や関与なく下位の階層での決定が行われることを防ぐ。さらに、部下の特徴や性質について情報を得る手段でもある。このように、あえて紛争を生じさせる曖昧な権限配分には重要な利点があり、「人と人を競わせる」技術はしばしばトップの管理者によって活用される。


2024年1月4日


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