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第五夜 雨ざらしの根

実家の一番大きな窓はリビングにあり、庭に面している。

それはちょうど2階のベランダの真下で、ベランダの床がひさしのようになっている。

いつしか、そのひさしのところにブドウの枝を這わせるようになった。

そんな庭をリビングから見ている。

外はどしゃ降りの大雨。

陽が沈んだ頃で、夜の一歩手前。

ブドウのあるひさしの左端に、4つのマンドラゴラの根のようなものが吊るされていた。

茶色くてシワがあり、左の2つは中肉中背、その隣は肥満、一番右端は痩せ型だった。

4つの根は大雨の音もかき消す音量でしきりにギャーギャー叫び声をあげているが、

その声を聞いても死んだりしないので、これらはマンドラゴラではないことがわかる。

父が時々窓を開けて根の様子を見る。

根は大雨に打たれて、次第に弱っていった。

そのうち左の2つが力尽きた。

窓を開けているとうるさいので、私は窓を閉めた。

様子を見に父が窓を開けるたび、根の叫び声が聞こえてきてとてもうるさい。

そのうち右の2つも力尽きた。

父が全ての根が死んだことを確認していると、

一番右の根が急に笑い出した。死んだふりをしていたのだ。

その根は人間の男の姿に変わると、窓からリビングに上がり込んだ。

根をそのまま大きくした姿にぼろを着せたようで、

痩せ型で、浅黒い肌にシワがあり、目は鋭くて、髪は長めだった。

リビングの食器棚から食事用のナイフを取り出すと、

「このナイフに火をつけよう」と私に話を持ちかけてきた。

私はなんとか時間を稼ごうと、男の話に乗るふりをして、

「火をつけるのはよいが、火をつけるのであれば、

このナイフで何かバターのようなものを切ってからの方が、

油が馴染んでよく燃えるだろう」と提案し、バターを取りにいこうとした。

しかし男は聞く耳を持たず、

バターを取りにいこうとする私の行く手を阻み、

油など付けずとも燃える、とさらに近づいてきた。

あまりに男との距離が近くて怖くなったところで目が覚めた。

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