第六夜 港町の惨劇
※後半に残酷な描写があります。
内海に面したのどかな地域。
友人が船で海の向こう岸に渡ろうとしたが、その船は1日に数回しか運行しておらず、
まだ午後の3:00だというのに今日の便は終わってしまったらしい。
海沿いは観光客向けの商店が並んでいて、
その中に麦わら帽子屋さんがあった。
帽子一つの値段は2,200円〜2,800円くらい。
「原価が高いのでこれ以上割引できません」と貼り紙がしてある。
ある帽子は楕円形で、つばが広くて、山の部分が片側に寄っており、
つばの広くなっている部分が肩まで日よけをしてくれるので、使い勝手が良さそうだ。
でも「原価が〜」の文言になんだか気が引けてしまって、買うことはしなかった。
ここはかつて内海の向こうとこちらは一つの国になっていたが、
政府によって別々の国に分けられてしまった。
そして、向こうとこちらを行き来するには関税がかかるようになった。
政府は、ただその関税を取るためだけに、一つの国を二つに分けたのだった。
さて、そんな国で私には仲間がいた。
男女数名ずつの5人組だった。
あるとき、そのうちの一人の男の子が誘拐された。
彼は、今は使われていない古い下水道の行き止まりに鎖で繋がれていた。
私たちが彼のもとに行ったときには、彼はムチに打たれて血だらけだった。
彼をこんな目に遭わせたのは、政府の人間だということはわかっていた。
私たちのリーダーが言った。
「ここであえて寛容な姿勢を見せることで、政府に対して優位に立てるチャンスだ。
彼らは我々の懐の大きさを目の当たりにし、自らの非道を恥じるだろう」
そして、リーダーは、政府に取引を持ちかけた。
話し合いの末、それまで政府が秘密裏に独占して売りさばいていた外国産の牛肉の販売を
私たちが一挙に手がけることになった。
政府の私腹を肥やしていた闇商売を奪うことに成功し、私たちは満足していた。
商売が軌道に乗ってきた頃、私たちの仲間の一人が、遠洋漁業から帰ってきた。
彼は漁師の家の養子になって今は漁業を営んでいるが、もともとは肉屋の息子だった。
ちょうど私たちが船で届いた牛肉を荷下ろししているところで彼に会った。
私たちは彼に事の経緯を誇らしげに話し、彼に肉の目利きをしてもらうよう言った。
すると、私たちが荷下ろししている大きな肉の塊を見て、彼は言った。
「これは、牛肉じゃない。
小さな肉を牛肉に見えるように繊維に沿ってうまく繋げてある」
牛肉でなければ何の肉だというのだろう。
私たちは恐ろしくなった。
かつてこの地域が二つに分けられた時、それに反対した人たちを
政府が大量虐殺したという噂があった。
しかし死体はまだ見つかっていなかった。
政府の私たちを嘲笑う様が目に浮かび、私たちは完全に絶望した。
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