第七夜 お隣さんの子ども

晴れた日の朝、夫と自宅マンションの一室で過ごしていると、ベランダになぜか通行人がいる。

スーツを着たサラリーマン、OL、幼稚園くらいの子ども、

ベビーカーに赤ちゃんを乗せたお母さん、暇そうなおじさん等々。

自分の部屋のベランダなのにおかしいな、と思って見ていると、

今日はマンションの共用部分のメンテナンス日だったことを思い出した。

マンションのベランダは、隣のベランダとの境の壁が緊急時に取り壊せる作りになっているが、

その壁を清掃するために、一旦全て取り外しているらしい。

ベランダにいる通行人は同じ階の住人で、

壁が取り外されてベランダが一続きになったことを利用して、

通路として使ったり、そこで遊んだりしているようだ。


そんなベランダを部屋から見ていると、

一人の小さな女の子がベランダの窓からうちに入ってこようとした。

こちらに向かって走ってきた女の子を抱きかかえて制止すると、その子が言った。

「この部屋を通って玄関からでて、おじいちゃんをびっくりさせるんだ」

しかし私は知らない子どもを部屋に入れるのは嫌で、

この子を許してしまうと他の子どもも同じようなことをしてくるかもしれない、と思って、

「ここは私のおうちだから、入ってはだめだよ」と女の子に言った。

女の子は面白くなさそうにむくれてじっとしていたが、

そのうちにそれを見ていた隣の家のおじいさんがベランダから顔を出してきて、

こちらに対して申し訳なさそうに会釈をすると、女の子を引き取った。

女の子はおじいさんの腕に抱えられながら、ほおを膨らませてむすっとしていた。


そこへ玄関のチャイムが鳴った。

出てみると、冷蔵の宅配便だった。発砲スチロールの箱には

捕れたばかりの新鮮なタイとヒラメとサバが入っていた。

しかし、うちで頼んだものではない。

確かお隣さんが魚を捌けることを知っていたので、

宅配便のお兄さんに「お隣じゃないですか」と言うと、それが聞こえたのか、

お隣の玄関から、はっぴにねじり鉢巻を着けた、清潔感のある中年男性が出てきて、

確かにうちで頼んだものです、と言って荷物を受け取った。

顔がさっきのおじいさんと似ているところを見ると、どうやらおじいさんの息子らしい。

これからお隣ではお刺身パーティーが開かれるようだった。

夫はお刺身が大好きなので、荷物を間違えられたついでに私たちもお刺身に与りたかったが、

何せさっきの女の子がまだおじいさんに抱えられて

むすっとして部屋の中からこちらを見ていたので、

とてもお願いすることはできなかった。

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