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眠れない夜のためのブックガイド “姉妹の絆”

愛情。或いは、嫉妬や羨望。ときには憎悪の対象にも成りうる、近くて遠い、不思議な存在。物語の世界では、姉妹という特別な関係が、とても印象的にえがかれています。ここでは、ただ美しいばかりではない、さまざまな感情がゆきかう小説たちを、あえて“姉妹の絆”と題してご紹介します。

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ゼラニウムの庭
大島真寿美/ポプラ社

血が繋がっているからこそ、怖かった。(p,104)

小説家のるみ子は、祖母の豊世から、双子の姉についての不思議な話を聞かされる。それらを書き記すようにと告げられたものの、彼女の語った秘密は、俄には信じがたいものだった。嘉栄という名のそのひとは、特異な性質をもって生まれたがために、存在を隠されて育ったのだという──。

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虹いくたび
川端康成/新潮社

──ささいなことが私たちを慰めるのは、ささいなことが私たちを悩ますからだ。(p,257)

水原家の娘、麻子には、それぞれ母の異なる姉と妹がある。自死をえらんだ母をもつ姉の百子は、戦死したかつての恋人から受けた心の傷のために、つぎつぎに少年を愛するようになった。そして、京都には、芸者の娘である妹の若子がいるのだが、いまだに会ったことはない──。

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アルヴァとイルヴァ
エドワード・ケアリー/古屋美登里 訳/文藝春秋

かつてわが町に、孤独にからめとられた双子の姉妹がいた。ふたりはその孤独を絶え間なく互いで埋め合っていた。(p,10)

エントラーラには、とある双子の姉妹が住んでいる。ふたりは分かちがたく結びついているが、姉のアルヴァが旅にあこがれているのに対し、妹のイルヴァは家にひきこもっているのだった。やがて彼女たちは小さな世界を築きあげる。それが人々の心を救うことになるとは知らずに──。

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パールとスターシャ
アフィニティ・コナー/野口百合子 訳/東京創元社

「自分たちを守ってくれる場所の鍵と、敵を殺してくれる武器だったら、どっちになりたい?」
「あたしは本物の女の子でいたい」パールはのろのろと答えた。「前そうだったみたいに」(p,24)

アウシュヴィッツ強制収容所に送られた双子の姉妹、パールとスターシャは、優生学思想に取り憑かれた医師メンゲレによって〈動物園〉と呼ばれる施設に入れられ、おぞましい人体実験の対象にされてしまう。ふたりは生きのびるために知恵をめぐらせ、復讐の機会を窺うが──。

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ずっとお城で暮らしてる
シャーリイ・ジャクスン/市田泉 訳/東京創元社

「大好きよ、コンスタンス」
「わたしもよ、おばかさん」(p,93)

ブラックウッド家の姉妹、コンスタンスとメリキャットは、家族が殺された屋敷で、しずかに暮らしている。ふたりを取り巻く悪意に背を向けて、空想で日々を彩りながら。しかし、従兄弟チャールズの来訪が、美しく閉ざされた世界に変化をもたらそうとしていた──。

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九月と七月の姉妹
デイジー・ジョンソン/市田泉 訳/東京創元社

もしもあたしたちのどっちかが死ぬとして、どっちが死ぬか選べるとしたら、あたしのかわりに死ぬ?(p,180)

内気な少女ジュライは、姉であるセプテンバーの支配下にありながら、彼女を深く愛している。ふたりだけの世界はいつまでも続くかのようにおもわれた。しかし、或る事件をきっかけに〈セトルハウス〉へ引っ越してからというもの、ジュライの心には奇妙な不安が芽生えはじめ──。

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カッコーの歌
フランシス・ハーディング/児玉敦子 訳/東京創元社

もうだれも、わたしを裁く人はいない。わたしについて語ってきかせる人はいない。だれかにいい子だと思われることも、がっかりされることもない。いまこそ、自分が何者かを見極めるときなのだ。(p,398)

池に落ちて記憶を失った少女トリスは、怪現象に悩まされていた。耳もとでささやく声。叫び声をあげる人形。目覚めたら髪に絡まっていた木の葉。亡兄セバスチャンからの手紙。そして妹のペンは、異常な食欲まで感じるようになったトリスを、偽者と呼んでひどく恐れている──。

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豆の上で眠る
湊かなえ/新潮社

「姉妹なんて、無条件に信じ合える間柄なのかな。同じ親から生まれてきたっていうだけで、それほど深く繋がり合えるものなのかな」(p,264)

結衣子の姉、万佑子が失踪した。近所のスーパーには帽子が残されており、不審な車の目撃情報も寄せられたが、姉が発見されることはなかった。だが、事件から二年後に、彼女は帰ってきたのだ。記憶に空白を抱えたその少女に、結衣子はひそかに疑いの目を向けている──。

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ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹
ジェフリー・ユージェニデス/佐々田雅子 訳/早川書房

「でも、これははっきりしてます、先生」セシリアはいった。「先生は十三歳の女の子だったことはなかったでしょ」(p,9)

リズボン家の末娘、セシリアが自殺した。動機もわからないまま、時は流れていったが、或るとき、残された姉妹は、厳格な母によって自由を奪われてしまう。荒廃した家から救いだそうとする少年たちの想いもむなしく、彼女たちはつぎつぎに命を散らしてゆくのだった──。

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手のひらの京
綿矢りさ/新潮社

一度目覚めたこの気持ちを無視するなんて、もう無理だ。大気に張っている薄い膜を突き破って、私は外へ飛び出す。なにかを得るためじゃなく、なにかを失うために。(p,161)

京都で生まれ育った、奥沢家の三姉妹。長女の綾香はおっとりしているが、近頃は、結婚を意識して焦りを感じている。次女の羽依は、恋愛沙汰でいそがしく、先輩社員からの嫌味を背中で受けとめる日々。三女の凛は、大学院で研究に励みつつ、家族には秘密で新天地を夢みている──。

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