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【ライブ・レビュー】アンダーグラウンド・シーンの現場から⑮ 完全閉店セール(多田葉子、秋山Bob大知)、ゲスト:星衛

2023年12月12日(火) 大久保「ひかりのうま」
完全閉店セール vol.7
多田葉子(sax,bcl,melodion,etc)
秋山Bob大知(computer,synthesizer)
ゲスト:星衛(cello,篠笛,etc)

これは想像以上に面白かったですね。ゲストのチェロはリーダーと旧知らしく、メロディアスな即興が相当うまく、手が合う感じなので、それだけにシンセの異物感が際立つ。シンセはかなりシンプルな仕様なんで、「スーパーマリオのクッパの面」(わかる人にはわかるたとえ)とか「ヘリの音」、「短波ラジオの音」みたいな具体的なものを想起させる。だからといってそれがバックグラウンドの効果音として作用するかというと、全然そんなことはなく、楽器がうまくやってる横で、勝手に変なのがビヨビヨ~鳴ってんなー、という印象。

チェロは非常にうまく、クラリネットのうねうねしたフレーズは心地よいのだが、それらと電子音とがどう接点を作れるのか、頓智みたいな状況だが、後半思ったより互いに寄せていった風です。カギはサックスのマウスピースだけのプレイで、そこをきっかけにわりとノイジーな面で交錯していった。終盤、奇怪なノイズをバックに狂ったように乱舞するソプラノ・サックスのねじれまくったフレーズが強烈でした。そこまでの演奏はこれを引き出すための延々とした「散歩」という気もする。「完全閉店」した空間での「迷宮入り」というか。よくこんな奇妙なセッティングを思いつくなあと思わせるバンド。

なぜ外したマウスピースで演奏することがポイントだったかというと、選択肢をわざと狭めることで、これまで培っていたテクニックを一度手放して、つまり手慣れた演奏を一度捨てるためだろうし、またわざと少ない選択肢から音を選ぶことで、異質な音楽との接点を作るうえでの、余計な選択肢が減るので、思考が整理されるよね。そして、異質なものとの接点ができてくると、旧知の演奏者とのインタープレイも風変わりなコースをたどることになり、自分でも思いがけぬフレージングやテイストが飛び出してきたりするのだと思う。

その結果得られた新奇なサウンドのパターンを、今度はサックス本体で鳴らすと、とても面白い演奏になる。オートマチックな演奏だけでは得られない知恵だ。多田葉子はユーモラスな演奏家でもあるんだけど、そのユーモラスさは思考の柔軟さの表れでもあるし、柔軟さを担保してもいる。だから彼女は優れたプレイヤーであるとともに「音楽家」でもあるのだ。

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