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BAR海人

老齢のチーフが切り盛りする
いぶし銀のようなBARを
街の先輩に教えてもらい、
若い頃よく通っていた。

地下へと続く階段、
カウンターの真鍮の手すり、
年代物のスコッチなど、
自分には相応しくない
大人の雰囲気に惹かれ、
訪れる度に背伸びをしていた。

中でもおつまみの
「オイルサーディン」が
死ぬほどおいしくて、
毎回舌鼓を打っていたのを
鮮明に記憶している。

チーフ曰く、
プロの料理人さんに失礼だから
料理なんて呼べる代物じゃあないと
謙遜されてたが、
「おいしくなれ、おいしくなれ」と
せめて念を込めると、極たまに
あなたのように喜んでくださる
お客様がいらっしゃるもんですから
不思議ですねえ、
などと照れ笑いなされていた。

BARは隠れたグルメスポットである。

そういった経験があったからこそ、
小倉「BAR海人」さんで、多彩でおいしい
ラーメンが食べられるという情報を得た時、
自分は別段驚かずに済んだ。

あれから2年。
遠方なので頻繁に、
という訳にはいかないが
マスターの平井さんつくる
一杯を求めて、
クルマは夜半の国道を
ひたすら南下する。

メニューはその時々入る食材と
マスターの気まぐれ。
今回は清湯系の塩ラーメンを
提供してくださるという。

久しぶりの会話に小さな花が咲いた後、
供されたのは赤色がアクセントになった
目にも鮮やかなこちらの一杯。

【豚清湯塩ラーメン】

さらりとしていてるようで、
そこはさすがに豚清湯、
しっかりとした味の厚みが
塩味と相まり、
失礼ながらファンが呼称する
「平井マジック」の健在さに脱帽。

豚ミンチやサイコロ焼豚、
アクセントの赤唐辛子など、
一見奇をてらってるようで、
実は整合性に基づく
平井マスターの絶妙の組み合わせに、
毎回驚き、喜び、無意識のまま、
箸を止める事が出来なくなる。

最後のスープに割ってみてくださいと
自家製「牡蠣醤油」を
小皿に注いで振舞ってくださると、
少し甘みのある魚介カエシによって
豚清湯スープは全く別物に生まれ変わる。
カエシの妙を体験体感、
すごいなと思う。

「ごちそうさま」
お世辞ではないそのままの
気持ちが言葉に顕れた時、
マスターは少し嬉しそうにはにかまれた。

一瞬、当時のオイルサーディンのチーフと
勘違いするほど、その仕草はそっくりで
思わず懐かしんでしまった。

BARのマスターは、
基本的にシャイなのかもしれない。

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