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絹糸の束

7、8台ある駐車スペースの最後の一角に
何とか滑り込むと、先に到着していた
友人が降車して来た。

開店まであと三十分。店の前の小さな
人だかりに身を置くと、その後ろに何処から
ともなくぞろりと人が列を成し始める。
 
15食のみの限定メニュー、
【京小麦二層麺の濃厚鶏白湯つけそば】に
ありつけるかどうかはもはや運、
そういう間(はざま)で一喜一憂して来た
猛者たちが指折り自分の順番を数えている。
 
一巡目で満席になった店内には業界の方や
熱心なファン、家族連れや我々のような
枯れすすきが陣取り、厨房で繰り広げられる
限定麺の進展具合が気になって仕方がない。

順ぐり供されて行くセパレートの皿には、
麺、具材、つけダレが振り分けられ、
どの様にカメラを仕向けるか、
少々悩ましさを感じる。
 
精製した京小麦「せときらら」を削った
いわゆる吟醸仕込みで仕上げた麺と、
石臼挽きの全粒粉で仕上げたふたつの麺が
ヒトサラにまとめ上げられ、
絹糸の束のような美しい光沢を放っている。

リスペクトを込めてまずは麺のみを
試食してみると、風味はもちろん、
そのコシ、その喉越しが充分楽しめる優等生で、
こりゃたまらんとザブリつけダレに投入し、
一気に啜り上げる。
 
「・・・・・!! 」
 
かねてよりこちらの鶏白湯のファンではあったが、
それをも凌駕するこの濃厚さに、
鳩が豆鉄砲を食らったような驚きを隠せなかった。

うんま〜〜〜〜(^^)!!鶏感が半端じゃない。

今回不運にも15食にありつけなかった方には
申し訳ないけど、これぞ限定、これこそプレミアム!!
 
大盛りに嵩(かさ)を増しておいた絹の束は、
具材と交互にみるみると胃袋に吸い込まれて行き、
最後のスープ割りの一滴も取りこぼさず完飲完食する。
この充足感はいつだって、人を幸せにしてくれる。
 
お店を出ると風はまだ少し冷たいけれど、
日差しはすっかり春の陽気で、耳たぶがその暖かさで
ぷっくらと膨らみ始めている。
唇の両端に留まる白湯スープの拭き残しが
瞬く間に乾燥して固まり、
指で引っ掻くとポロポロと剥がれ落ちた。 

【とうひち 京小麦二層麺の濃厚鶏白湯つけそば】

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