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春菜、たったひとりの闘い

ラーメン屋さんなどの飲食店もそうだけど、客が訪れるコンビニなど、働いている方は全く意識していないだろうが、客はそのお店の方の顔をしっかり覚えているもんだ。たまに別の場所で偶然遭遇したりすると、声には出さないがすぐにわかる。

きのう、大好きな鶴武者さんで和風らーめんの窯出しチャーシュー愉しんでいると、家の近所のよく行くとあるお店の女の子らしき子が彼氏なんだろうか、仲良く連れ立って奥のカウンターへと腰をかけた。あれはもしかして、春菜じゃないのか。おお、春菜で間違いない。その瞬間、心の中で出来ることならこの若い2人に奢ってやりたーいという、強烈な衝動に駆られた。なんせ春菜は、2年ほど前から自分にとってはヒロインだからである。

見たかったDVDが貸し出し中なので、無人返却ボックスに戻ってないかと物色してたら、「そこは触らないでください!」ときつく注意された。ハリセンボンの春菜によく似たアルバイトの女性である。仕方なしに時代劇とジブリの2本を持ってレジで順番待ちの列に並んでいると、見るからにチンピラっぽい格好をした若い男が店内に入ってきて、並んでいる我々などおかまいなしにいきなりカウンターへ割り込んできた。

そいつは春菜に向かって大声で「◯◯の実写版ってあんのか。あったらそれを持って来いや」と命令した。ちょっと異常なくらいの暴力性に抗えないと思ったのか、事を穏便に済ませるマニュアルがあるのかどうか、春菜は男のリクエストしたDVDの有無を端末で確認して、無言で2Fに取りに走った。その間、男はカウンターで接客しているもう一人の男性に向かって「ここはインカムしてへんのか。◯◯の黙示録も追加してもらいたいんや!」といけしゃあしゃあと悪びれる素振りも無く言い放った。

さすがに一言云ってやろうかと思ったが、妙な正義感を出して怪我をする事もあるまい。並んでいる他の客もおそらく同じ事を考えていた筈だ。下りて来た春菜からDVDを渡された男は、黙示録を調べろと再度命令し、それが貸し出し中と判ると「ほなこれだけでええわ」とほざいて、会員カードをカウンターへ無造作に放り投げた。

すると春菜は毅然として「皆さん並んでおられます。後ろへお並びください。」ときっぱり言い放ち、男へ会員カードを突き返した。男は一瞬ムッとした表情で春菜を睨んだが、その場にいる全員が春菜になんかしてみろ、という殺気を迸らせたのを感じたのかすごすごと最後尾に並んだ。

春菜!よくぞ言ってくれた!よくぞ勇気を見せてくれた!溜飲が下がったよ!あんたは偉い!聞こえないだろうけど、みんな心の中で満面の笑みを浮かべながら、拍手喝采でキミを讃えているんだぜ。

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