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情報モラル教育は時代遅れなのか?その1

 情報モラル教育とデジタル・シティズンシップ教育はよく比較され論じられる。これからの教育はどうあるべきなのか考えていく。まず、情報モラル教育の歴史から概観しよう。

1.歴史

(1)1998年

 1960年代から情報モラルという用語の前進でもある考えが議論されていたが、学習指導要領に「情報モラル」が掲載されたのは 1998 年改訂の 中学校学習指導要領 技術・家庭科の技術分野の内容「情報とコンピュータ」である。ここでは、技術・家庭科以外の教科では取り扱っていない。
 次に、1999 年には高等学校学習指導要領の改訂で、必履修教科「情報」が新設された。その中で、情報モラルの 5 本柱が提案されたが、研究や実践があまり進められなかった。

※情報モラルの5本柱
「心を磨く領域」 :1・情報社会の倫理、2・法の理解と遵守、
「知恵を磨く領域」:3・安全への知恵、4・情報セキュリティ、5・公共的なネットワーク社会の構 築)

(2)2004年

 『佐世保小 6 女児同級生 殺害事件』により、情報モラル教育が全国的に注目集めた。教育現場では「生徒指導」の対象とし、1年間に1回程度、警察やIT系民間企業などの外部から人を招いて話を聞く「安全教室」 へと変化していった。
 また、以下の「文部科学省 教育の情報化に関する手引(令和2年6月)より一部要約」から読み取ると、生徒の実態として、インターネットの影の部分を焦点化している。
 「安全教室」の多くは、インターネットの怖さを児童・生徒に伝えるとともに、家庭でのルールをつくることを促したり、インターネット、携帯、スマホを慎重に利用し、極力利用はさける教育が実践されている。

教育の情報化に関する手引(令和2年6月)より一部要約

2.比較 

 次に、教育現場でなかなか実践が進まない学習指導要領における、情報モラルの学習項目とデジタル・シティズンシップ教育の学習項目を比較する。ここで、学習項目は文部科学省の情報モラルモデルカリキュラム(※1)とコモンセンス・エデュケーションのデジタル・シティズンシップ教材(※2)を参考にした。

情報モラルとデジタル・シティズンシップの学習項目©NoguLabo

 次に、学習項目を円で表し、円と円の重なった箇所は類似する学習項目があることを以下図で示した。
 ※注意点:円の大きさ、重なり面積は、学習項目の量と無関係である。
 ここでは、注目すべき点は、よく似た学習項目が多くあることである。

情報モラルとデジタル・シティズンシップの学習項目の重なり©NoguLabo

3.実態

 上記2の比較から、情報モラル教育とデジタル・シティズンシップ教育の学習項目は重なる部分が多い。しかし、学校での指導実態としては、情報モラル教育を計画に実施できている自治体・学校は少なく、年に1回の「安全教室」の実施が多いであろう。
 また、学習項目は重なっても指導方法が情報モラル教育とデジタル・シティズンシップ教育とでは異なる。
 次回は指導方法の違いに迫っていく。

※1 文部科学省 情報モラルモデルカリキュラム

※2 実践的教材を提供する米国コモン・センス財団のカリキュラム

※ 参考文献
「情報モラル教育からデジタル・シティズンシップ教育へ~情報モラル概説~」(芳賀高洋 岐阜聖徳学園大学・教育学部)




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