はじめての「はじめてのトランスジェンダー」その15 Q23 トランスジェンダーの権利が認められると性犯罪が増えるのではないですか
こんにちは。
はじめての「はじめてのトランスジェンダー」その15です。
はじめてのトランスジェンダーというサイトがありますね。
こちらのサイトはトランスジェンダーについて知りたいという人に紹介されることが多いサイトです。
しかし、このサイトには非常に多くの問題点が指摘されていて、トランスジェンダーについてはじめて学ぶ人に対して非常に不誠実な内容となっています。
それをなるべく丁寧に説明していきたいと思います。
今回は Q23 トランスジェンダーの権利が認められると性犯罪が増えるのではないですか
1 性自認による差別禁止をした地域、していない地域を比較したものではない
質問への回答の全文を見てみます。
「Q23 トランスジェンダーの権利が認められると性犯罪が増えるのではないですか
カリフォルニア大学ロサンゼルス校が2018年に発表した米国初の大規模調査では、性自認による差別禁止をした地域、していない地域を比較したところトランスジェンダーが性自認によりトイレを使うことが認められても性犯罪増加にはつながっていないことが指摘されました。詳しくはこちらの記事もご覧ください。」
この調査については下記のブログで詳しくしらべていますので
内容はほぼそこから抜き出したものになります。
まず、これは「性自認による差別禁止をした地域、していない地域を比較」したものではありません。
「性自認による公共施設利用の差別禁止条例」を制定した町と訂正していない町が調査対象に含まれているのですが、
制定していない町は差分を出すためにサンプリングしたものであり、
実際には「性自認による公共施設利用の差別禁止条例を制定した町」の、制定前と制定後のデータを比較しています。
そもそも論文に関する説明が間違っているのです
2.規模を誤認させている
「米国の大規模調査」という言葉からあなたはどのような想像をするでしょうか?
全米のトイレで起きている全ての、あるいはランダムサンプリングした数百万のデータによって導き出すような内容を想像するのではないでしょうか?
しかし、実際にはこれはマサチューセッツ州のみの調査です。
その中で「性自認による公共施設利用の差別禁止条例」を制定した町7か所、「性自認による公共施設利用の差別禁止条例」を制定してない町14か所の合計21の町のみを抽出しています。
さらに、21か所の中でデータが得られなかった箇所があるため、実際に比較に用いられたのは、「性自認による公共施設利用の差別禁止条例」を制定した町3か所、「性自認による公共施設利用の差別禁止条例」を制定してない町6か所の合計9の町のみです。
「性自認による公共施設利用の差別禁止条例」を制定した町のデータは3か所だけなのです。
その3か所も人口2万~9万程度の中規模の町です。
日本で言うなら「埼玉県の熊谷市と加須市と秩父市」の調査結果を合わせたもの、と言ったところです。
「埼玉県の熊谷市と加須市と秩父市」のデータを「日本の大規模調査です」と言われたらかなりの違和感があるのではないでしょうか?
「米国の大規模調査」という言葉は読み手に規模を誤認させるような言い方だと感じます。
3.件数が少なすぎて比較が成立していない
2万~9万程度の中規模の町で、トイレで起きた性犯罪及び凶悪犯罪の数を調べるとどうなるでしょうか?
その規模ではトイレで起きた性犯罪及び凶悪犯罪の数は1桁程度にしかなりません。
「性自認による公共施設利用の差別禁止条例」制定前では0件、
「性自認による公共施設利用の差別禁止条例」制定後で人口10万人当たり0.62件でした。
(おそらく合計1件か2件だったのでしょう)
この程度の数では統計的に有意な差は出ないのが当たり前です。
しかも統計的に有意ではないとはいえ、
増えたか減ったかで言えば、増えています。
0が1にはなったのです。
4.犯罪件数のみの比較でいいのか
犯罪件数としてデータにでるのは、犯罪が発生し、被害者が被害に気づき、被害者が警察に訴え、警察が被害届を受領したケースのみです。
しかし性被害の場合は被害者の多くが被害届を出さないというのはよく知られています。下記の本では10%程度とのことです。
それも気づいた場合の話であって、盗撮・覗きなどはそもそも気づかないケースが相当数あるでしょう。
日本とアメリカの違いはあるでしょうが、やはり実際の被害件数は犯罪として現れる数値の数倍あることでしょう。
5.制度が変わると犯罪の基準そのものが変わる
そして何より、「性自認による公共施設利用の差別禁止条例」が制定されたことによって
これまでならば男性が女子トイレにいればその時点で性被害を訴えることができていたものが、
「性自認が女性かも知れない」と一回逡巡する必要がでてくることになりました。
そうなると今までなら犯罪として訴えることができたものが、訴えることが難しくなったケースがあるでしょう。
条例が変わると言うことは犯罪の基準そのものが変わるのです。
それによって「被害を訴えるのをためらった女性」がいる場合、
女性側が被害を感じていても訴えられなかった、
というケースが増えている可能性があるのです。
6.住民は条例の制定を知っていたのか
そもそもマサチューセッツ州の該当の街に住む人々は条例の制定を知っていたのでしょうか?
あなた自身のことを考えて欲しいのですが、自分の住んでいる市区町村で去年施行された条例をいくつ知っていますか?
市議会議員や、政党事務所スタッフ、公務員などでなければ
一つも知らないと言う人が多いのではないでしょうか?
地方政治に関心がある人であっても、せいぜい一つや二つといった所でしょう。
マサチューセッツの人々だけが異常に地方政治に関心が高いというのは考えにくいです。
マサチューセッツの人々もほとんどは条例制定を知らなかったのではないでしょうか?
そして、知らなければその時点で住民の行動に変化が無いのは当然です。
条例がだんだんと知られるに従って、それを悪用する人々が知るに至り、
それからそれに基づいて行動を変える、というのは
1,2年では起こっていないだけかも知れません。
7.執筆者の中立性の問題
筆頭執筆者であるAmira HasenbushさんはLGBT関係の問題を扱う弁護士です。
最初から自身の立場にとって都合のいい結論が出るようなデータの取り方をしていた可能性があります。
不十分なデータのみで結論を出しているのも、
もしかすると意図的である可能性がありますね。
8.実際には今まで起こりえなかったことが起きている
実際には性自認を「尊重」するという名目の元、
本人が名乗ればその性別として制度上扱われることが
性犯罪者に利用されるケースは起きています。
たとえばイギリスでは犯罪者が「自分は女性自認である」と言って
女性刑務所に入ることができます。
審査もあるので必ず認められるものではありませんが、
その結果、女性刑務所の中でレイプ事件が発生しました。
アメリカのニューヨークでも同様の事件が起きています。
これらは身体的性別に基づいて収監先を決めるというルールであれば
起こりえなかった、0件だったはずのケースです。
そして、女性受刑者のような女性の中でも社会的に弱い立場にいる人が
まず犠牲になるということもここから見えてきます。
9.まとめ
以上のことから以下のことがいえます。
・「性自認による差別禁止をした地域、していない地域を比較した」調査ではない
・一地方の中小の町3か所のデータを「米国の大規模調査」と呼んでいる
・件数が少なくて統計的な比較ができる数ではない
・性犯罪は、立件されないケースが立件されるケースの数倍ある。
・条例が変わると今まで立件されていたものが立件されなくなる可能性がある。
・住民が条例制定を知らなかった可能性が高い。
・執筆者の立場は中立ではなく、意図的に不十分なデータをとった可能性がある。
・実際にはトランス女性受刑者による女性受刑者へのレイプなど、今まで起きなかったはずのことが起きている。
Q23については以上です。
目次はこちら
はじめての「はじめてのトランスジェンダー」目次|ヘイトを許さない一市民🐸人権を相対化する改憲に反対|note
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?