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はじめての「はじめてのトランスジェンダー」その20 SNSの情報をファクトチェックしてみた結果 海外ではトランスジェンダーの権利を認めることで性暴力が増えているのか 前編

こんにちは。
はじめての「はじめてのトランスジェンダー」その20です。

はじめてのトランスジェンダーというサイトがありますね。

こちらのサイトはトランスジェンダーについて知りたいという人に紹介されることが多いサイトです。
しかし、このサイトには非常に多くの問題点が指摘されていて、トランスジェンダーについてはじめて学ぶ人に対して非常に不誠実な内容となっています。
それをなるべく丁寧に説明していきたいと思います。

今回は SNSの情報をファクトチェックしてみた結果 海外ではトランスジェンダーの権利を認めることで性暴力が増えているのか について見ていきます。


1.いきなり関係ないデータを上げている

「トランスジェンダーと性暴力について論じる際に知っておきたいファクトを2つご紹介します。」

といいますが、そこで最初に上げたデータが
「⑴ トランスジェンダーの約半数は性暴力サバイバーです」
というものです。

これを見てどう思いましたか?

私はこう思いました。
「それ関係なくない?」と。

トランスジェンダーが被害に遭っているかどうかと、
加害が増えているかどうかは別問題です。
被害に遭っている人が加害をしないという訳でもありません。

トランスジェンダーが被害に遭っているならそれは当然救済されるべきですが、
それとは別に加害もしているなら、それはやめるべきでしょう。

何故この場面でいきなり関係ないデータを出したのでしょうか?
うがった見方をすれば、
まるで「可哀想なんだから、おめこぼしをしてよ」と訴えているようにも見えます。
そうでもなければ、いきなり関係ない話題を持ってくる必要はありませんからね。


2.回答者の偏りが疑われる

日高教授の調査というのは以下のことかと思われます。

報告とおもわれるパワーポイントがこちらです。

https://www.call4.jp/file/pdf/202010/5068fe37cbdedf520c1e47d6fff23fd7.pdf

これは社会調査を行う際には
回答者の偏りというのが重要なのですが、
インターネットというのは回答者の偏りが出やすいツールと言われています。
たとえば、SNS等を通じて拡散すると、特定のインフルエンサーのフォロワーばかり答えるなど拡散する対象が偏ることが多いです。
情報サイトを通して拡散すると、そのサイトの趣旨に賛同する人の回答数が多くなります。

例えばですが、「産経新聞」のニュースサイトにアクセスした人と
「朝日新聞」のニュースサイトにアクセスした人とでは、
内閣支持率は違うでしょう。

また、ネットアンケートでは特定の結果を出すために何度も回答したり、親しい人に回答をお願いすることもありえます。
また、何の繋がりもない中でわざわざ時間を取ってアンケートに回答するような人は何かしら困っていて訴えたいことがある人の可能性が高いです。回答しようとする時点で偏りがあるのです。

そこで本来はある程度の規模の集団を特定した上で対象者をランダムに抽出するなどの手法をとったりするのですが、
インターネットで有志が拡散するとなると、そういう方法はとれません。

下記のようなツイートを見るとどうでしょう。

こうやって拡散すると、回答者は特定のインフルエンサーに近い考えの人に偏るでしょう。
その時点で調査対象者には偏りがあり、回答の割合は意味がなくなります。


3.元々はゲイの調査だった

下記のパワーポイントに移っているreach online 2019 for sexual minorities という言葉で検索を試みました。

https://www.call4.jp/file/pdf/202010/5068fe37cbdedf520c1e47d6fff23fd7.pdf

すると、次のようなページが出てきました。

さらにフォルダを遡ると次のぺージに行きつきました。

gay-report…ゲイ・リポート?
そう、どうやらこの調査は元々2014年まではゲイ・バイセクシュアル男性を対象としていた調査だったようです。

こちらが2005年当時に回答の呼びかけをおこなったサイト一覧ですが、
調査結果概要のご報告(リンク・参考文献):REACH Online 2005 (health-issue.jp)
ゲイ男性向けの出会い系サイトが多いようですね。

トランスやレズビアンの回答者が例年少なめというのも当然です。
元々対象ではなかったのですから。
「例年」もなにもトランスやレズビアンが回答できるようになったのが
2016年と2019年の2回だけです。
2回目の試みで「例年」というのもちょっと普通の日本語ではないですね。

また、有効回答数10,769人というのも、多くはゲイの回答と思われます。
その中でトランスの回答はどのぐらいだったのでしょうか。
トランスに関して統計操作が可能なだけの回答があったのか、
生データがないので判断ができない状況です。


4.質問項目が不明

アンケート調査を公表するにあたっては、質問に回答者への誘導がないか確認するためにも、どのような質問文だったのかを公表する必要があります。

たとえば「消費税を上げなければ社会保障は破綻すると言われていますが、消費増税に賛成しますか?」という質問と
「消費税は低所得者程負担の多い不公平な税金と言われていますが、消費増税に賛成しますか?」という質問では、
前者の方が賛成の回答が多いでしょう。
それを単純に「消費税に賛成する人の割合」と見做すことはできません。

ところが、この調査に関しては検索してみても、質問文を見つけることができませんでした。

一回目の2016年の調査は
調査を委託したライフネット生命からの簡易の報告と
2017-6638.pdf (lifenet-seimei.co.jp)
gay-reportのサイトから跳べる、より詳細な報告がありました。
reach_online2016_report.pdf (health-issue.jp)
回答期間と回答数などが1桁まで一致することから、
この両者は同じ調査であると思われます。

これを見ると
学校生活、カミングアウト、企業への購買行動、結婚、生命保険について聞いているようです。

では2019年の調査はどうでしょう。
調査を委託したライフネット生命からの簡易の報告はあります。
20208-31-news.pdf (lifenet-seimei.co.jp)
ですが、gay-reportのサイトは2016年までしか一覧に載っていません。
gay-report (health-issue.jp)
2019年のページはありましたが、報告がありません。
REACH Online 2019 調査結果のご報告 (health-issue.jp)
2019年のアンケートの内容はどうだったのでしょうか?

ライフネット生命の報告では、職場環境と、その他の2つの項目しか載っておらず、
性暴力被害についての質問が存在したのかどうかさえ確認できません。

どのような括りで何を聞いたのかさえ明らかになっていない中で
結果の数値だけ見せられても、どういう数値なのか分からない、
というのが正直なところです。

質問文の記録は見つかりませんでしたが、こちらの回答者のツイートを見てみてください。

このツイートを見る限りでは、回答者は「困っている」と回答するよう誘導されていたと感じていたようです。


5.その被害は一般的な女性と同程度のもの

トランスの性暴力被害が50%代というのが
(回答者の偏りや質問の仕方に目をつぶって)事実だったとして、
その「性暴力」の中身はどういうものでしょうか。

痴漢は性暴力の一種ですが、内閣府の調査によると「交通機関などの中や路上などで痴漢の被害に遭った経験」がある女性は48.7%です。

「交通機関などの中や路上」以外での痴漢、
痴漢以外の被害まで合わせれば、
50%代以上にはなるでしょう。

トランスが特に被害が多いという訳ではなく、
女性は一般的にそのぐらいの被害に遭っているという数値ですね。
(実際には、『被害に遭っているけれど、自分が被害に遭っていると気づかない人』も含めれば8〜90%代になると思われますが、それは女性もトランス男性/女性もあると思われるので、その影響は捨象します。)

文章量が多いので、今回はここまでにして
後編に続きます。

目次はこちら
はじめての「はじめてのトランスジェンダー」目次|ヘイトを許さない一市民🐸人権を相対化する改憲に反対|note

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