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DIALOGUE+/DIALOGUE+1ーこの世界に点在する夢と人、音楽を繋ぎながら今を愛したい

「良いアルバムは時間をかけて作らなくてはいけない」by 音楽プロデューサー田淵智也

ついにリリースされましたね。衝撃でした。

物心ついた頃から好きだった色んな音楽が一本の線で繋がったような感覚を覚えた。それと同時に8人の少女たちが歩んできた、いや全力疾走してきた日々を総括する…だがそれだけでは終わらない傑作が生まれたと確信した。

コンセプトや曲順から発生するストーリー性はあえて明言されておらず、その言葉、メロディをしっかり受け取った一人一人が音楽を現実に繋げることで本作は完成する。

さあDIALOGUE+と共に大冒険の旅に出よう。

しばらく聞いてみた感想

9/5、アルバムリリース後のYouTube配信で田淵智也は「こんな奇跡は何回も起こっちゃいけない」と話しながら自画自賛を繰り返した。「俺が死んだ後でもいいからこのアルバムが評価されたい、音楽やってて本当よかった」と語る場面もあり、彼女たちと共に成し遂げた偉業を褒め称えた。

その言葉に値する音楽が存在している。何よりこんな1stアルバムは世界中のどこを探しても簡単には見つけられない。1stアルバムらしい拙さや粗削りな部分はほぼ皆無、洗練を繰り返された13曲が並ぶ。ベストアルバムを聴いているような印象に近く、どれをシングルとして切り取ったとしても問題ない。

1曲1曲が終わるたびに次曲への期待と高揚感で胸がいっぱいになり、何度も何度も胸が踊り出す。「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現は音楽作品のレビューでもよく見るが、これはもっと丁寧である。ひっくり返さない。確実に一つ一つ箱から取り出して見せる希望である。

アニソン、電波、ロック、ディスコ、ファンク、シティポップ、ヒップホップetc…言語化と細分化をするのが不可能なくらい様々な音楽を吸収するモンスター=声優アーティストというジャンルの懐の深さを感じる。それを往年のSMAPのような親しみやすさで仕上げる様は見事としか言いようがない。

マジですごいアルバムである(語彙無)。

革命の為の大きな一歩

収録された13曲が示すのは音楽、人の多様性である。100人を超えるスタッフや音楽家がジャンルレスに関わっている。どこからでもアクセスできる。たった1曲でもいい。好きになってもらえたら扉は開く。

アルバムを聞き終わった後、稗田さんの言葉を思い出した。

稗田:私たちがアニメを好きになった時は、アニソンは今ほどメジャーなものでは無かったけど、私たちの活動を通してアニメに興味が無い人も「いいじゃん」と言ってハマってくれて、それは自分たちの好きなものが認められた感じがして、すごくうれしくて。どんなきっかけでも、アニソン好きでも興味ない人でも、DIALOGUE+を通して「いいな」と思ってもらって、その輪が広がってくれたらいいなって。

本作のインタビューにおいてもそれはブレない。

稗田 「こんなに良いユニットで、曲もめちゃくちゃ良いんだから、もっとみんな聴いてよ!」って思っていて、だからこの1年くらい、「ログっ子さんはもちろんアニソン好きな人もそうじゃない人にも、どうやったらDIALOGUE+を聴くきっかけを作れるかな?」みたいなことをずーっと考えていて……。

同じ気持ちである。いつもこんな熱苦しい文章を書くのは同志に向けている前提ではあるが、もっと外に伝えたいからである。

声優アーティストに出会ってから約10年が経過した。「いい音楽は誰にでも響く」と信じてきたし少しずつ周りの理解が進んでいく一方で、それを錯覚と認めざるを得ないような溝を世間に感じていた。TSUTAYAに行くと声優アーティストは1番奥でひっそりと暮らしている。いつも、いつもそこから動かない。

物事はそんなに簡単ではない。文化の形成と発展には何年もかかる。
田淵智也も「俺が生きてる間に、俺の思ってるような音楽シーンにはならない気がする」と語っていた。だからこそ少しずつ歩みを進めながら開拓していくしかないのである。

しかし今、大きな一歩を僕は目にした。2021年、今一度この文化や音楽及び人を前に進めるために、DIALOGUE+は最も貢献したひとつのグループになるだろう。いや間違いなく。

過言ではない。1人の力ではなく皆で立ち向かえば、成し遂げられる。人間って、音楽って本当にすごいんだってそう確信してやまない。そんな証明のアルバム、DIALOGUE+1を紐解く。

全曲解説

1.Sincere Grace
作詞・作曲:田淵智也 編曲:eba
ラジオボイスのような音が徐々に近づき、リスナーを見つけると微笑みかけてくる。8人の少女達が現実との境界線を超えながら、何かがパチンと割れた音が聞こえた気がした。閉ざされていた世界と視界が広がっていくのがわかる。

ふいによぎって 踵返す180度
ため息とか 自己嫌悪とかも
見逃しちゃいけない 寄り添え
手を貸そうよ 何気なく支えようよ
甘えなんかじゃない 
未来へと 確信へと 愛情へと
進んで行くんだから諦めるな

彼女たちは精神の強い人間だけに力強いメッセージを放ちながら半ば体育会系のようなスタンスを貫くように見えるが、実際はそうでもない。マイナスからプラスへ座標軸を渡って無限の希望や愛、夢を掴みにいくような全ての人間を諦めない。だから好きだ。

イントロだけ聞けば海外EDMのようなクールな展開を期待させるが、ちゃんとJPOPSとして落とし込まれている。もっとガチガチに作ることも軽薄なビートを鳴らすこともできる。ちょうどいい塩梅のアレンジで進行していく。内山悠里菜さんの柔らかなボーカルが楽曲に跳ね感を与えていくのが印象的である。

村上まなつさん曰く「ジャングルみたいな」音と形容された声ネタは編曲者ebaの提案である。これがサビにおいてもメンバー以外の声として機能することで好感触を残す。

星空と見間違うほどの綺麗な連鎖が
僕らを手招いている 見えるかな
君に知って欲しい そしたら一緒に行こうよ

ステージから見えたサイリウムの光はまるで星空のように見えるかもしれない。あるいはまだ何も知らない人が見上げた星空、その星のひとつがDIALOGUE+かもしれない。なんにしても気づいたら一緒に行けば良い。

みんなでひとつの夢に向かう物語を始めよう。

2.人生イージー?
作詞・作曲:田淵智也 編曲:田中秀和
曲間がほぼ存在しないまま綺麗に繋がるイントロを初めて聞いた時、ワクワクとドキドキに耐えきれずベッドに倒れ込んだ。まるでリアルライブを見ているかのような展開が気持ちいい。村上まなつさんの「なんちゃって!」がライブを見るたびにいつも違って可愛らしい。

僕ら一人一人に与えられたステータスは不条理極まりないほど不平等である。人生は全くイージーじゃない。故にズレていくこともある。しかし努力と理解を繰り返しながら向き合えば、そのズレは好転する。

生きるって難しいな
それでも同じくらい素晴らしいな
そうだよ 大人になっても
レベルアップはできるでしょ

緒方佑奈さんが聖母を宿した声で人生を語る時、演歌のような情緒が流れ人々は涙する。生きるのが難しいけど頑張って突き抜けた時、僕は生きてる意味を感じられる。いくつになってもレベルアップはできる。綺麗事だとしても、それは30代の自分の経験則からもわかることである。

がんばってないのは君の甘えだ!

様々な精神や状況を抱えた人たちに向けてあまりにも鋭すぎるナイフのような歌詞が心をえぐる。しかしDIALOGUE+がただ単純に厳しいだけのメッセージを放つ存在ではないことは1曲目で既に証明されている。君は君の状況を踏まえた上で君を全うしなくてはいけない。きっとその方が楽しい。

努力すれば報われるとは限らない。甘えたくも逃げたくもなる。しかしこの曲を聴いているとあと少しだけ突破したくなる。それを可能にするために背中を押してくれる2曲目、何度聞いても頼もしい。僕らにはDIALOGUE+がいる。

3.ドラマティックピース!!
作詞・作曲:田淵智也 編曲:フジファブリック
 
普通じゃないアレンジを求めて、オーダーから8ヶ月待ちで編曲作業が開始された3曲目は女子が女子を謳歌するための歌謡ロックである。当初からアルバムを想定して作られた人生イージーのフェードアウトから大胆なイントロへの繋ぎはこれまた見事な流れ。右肩上がりな上に絶好調な8人をさらに上の意識に連れていく。

編曲者の影響はやはり大きいらしく、フジファブリックのファンはもちろんのこと普段声優アーティストを聞かない層にも訴えかけられる好機となったのが嬉しい。怪しいシンセの音色や変態的なリズム、情緒爆発系のエモギターソロなども含めてフジファブリックの長所がDIALOGUE+をより一層魅力的に見せていく。

2A部分、バトンリレーにすらなっていないセリフ祭りも面白いが、推しボーカルポイントはラスト「求めちゃうんだわ」からの「完全に真理♪」の緒方佑奈さんである。歩く色気すぎてクラクラする。一体何人の男女を虜にすれば気が済むのか?今日もその美声に酔いしれる。

1、2曲目の時間軸を現在とすると、この曲からが回想なのではないかと僕は考えている。「獲物にはちょっとムキになるわ」という歌詞から察するに恋愛の起承転結、そのうちの起が刻まれていることになる。

4.謎解きはキスのあとで
作詞:竹内サティフォ 作曲:ONIGAWARA 編曲:ONIGAWARA、伊藤翼
初披露から既に1年以上が経過、満を辞して音源化された名曲を待望していたファンも多いだろう。「DIALOGUE+って色んな曲があるんだな」と改めて思わされた一曲でもある。以降の曲順を見た時、この段階では主人公はまだ踏み出せずにいる。そのため頭の中の妄想小説のような楽曲なのではないかと推察する。

ラブストーリーが突然始まりそうなギターから場面転換。優しく降り続ける雨の下、ただひとつの傘を共有する世界の恋人の為だけに水たまりは踊る。基本となるバンドサウンドだけでなく、トランペットやトロンボーン、サックスなども生で収録している。音が良い音楽が僕は好きだ。
内山悠里菜、宮原颯希というピンクコンビのがラブソングを歌うのもキュートでたまらない。起伏なく続いていくように見えるが、随所に差し込まれるセリフが楽曲の表情を豊かにしていく。

そして気づけばSMAPが頭をよぎる。ジャニーズの空気が充満している。サビのオクターブ飛躍しちゃう部分とかメロディの雰囲気、イメージが90年台ジャニーズなのである。

余談、上はスマホゲーム『Readyyy!』に提供された楽曲である。当時一部界隈で「SMAPすぎないか??」と話題になったが、こちらも作詞を竹内サティフォ、作曲をONIGAWARAが担当している。さらに編曲まで調べれば90年代SMAPの名曲をいくつもアレンジしてきた天才と衝突不可避である。故に“謎解きはkissのあとで”においても意図的な狙いがあると推察できる。以前から「ジャニーズのやばいオタクがスタッフの中にいるのではないか?」と感じていたが今回確信に変わった。

100人中100人を恋に落とすような無敵のメロディに手招きされながら、何度聞いても初恋にも似た甘酸っぱさが胸の中に広がる。大好きです。

5.プライベイト
作詞:大胡田なつき 作曲・編曲:睦月周平
東京女子流あたりを彷彿とさせるオシャレかつ洗練されたイントロが夏を呼び寄せる。忙しない日々を抜けて束の間のバカンスを想像する5曲目である。いい曲しか入ってなくて怖い。MVも見てみよう。

ちょっともう何が起こってるかわからない。全員が魅力的すぎる。まゆゆん。まゆゆん最高なのである。きょんちゃんはパンダちゃん???やかんちゃんなんてこれ頭に何被ってるんですか?クマさんですか?ふざけてるんですか?かわいいですね本当にかわいいへへへ

脱線したので元に戻す。睦月周平が可能にしたネオシティポップのような音作りだけでも十分なのに、撮り方やビジュアルを含めて評価していくと理解が追いつかず「ここまで進化ちゃうの?マジで??俺たち置いてけぼりにならない?」という戸惑いを当初覚えた。しかしこの程度の背伸びならば、ハイヒールを履いて華麗に踊りながら可能にするだろうと言う説得力をDIALOGUE+1は持っている。

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大胡田なつき(パスピエ)は、ずっと同じ韻を踏むのではなく1〜2行飛ばしくらいで器用に踏むことで独特のリズムを作り上げている。一方でBメロの稗田寧々さん「砂浜に書いたメッセージ」部分では夕陽と共に一瞬だけ時が止まったかのような展開を見せていく。静と動の使い分けが実に見事である。それを後ろから追いかけてくるような緒方佑奈さんのボーカルは、まるで寄せては返す波を思わせる。あと落ちサビの守屋亨香さんの声も素晴らしいと思う(アルバム全体を通して一番多彩にボーカルを使い分けてる印象)。

この曲がバカンスを妄想し部屋から出られない少女の歌だと仮定すれば、夕暮れがそのシルエットを強調する時、もう1人の自分=影が幽霊のように見えるかもしれない。そう思わせるような情景描写が季節を感じさせながら以降の曲順に影響してくるのも上手いと思う。

6.あやふわアスタリスク
作詞・作曲:田淵智也 編曲:広川恵一
プライベイトバカンスを空想した後に聞こえるのは夜の足音である。時にはそれに押しつぶされたりするくらい僕らは弱くて儚い。

緻密にプログラミングされた打ち込みのようなイントロからスタートして、肥大化と飛躍を繰り返した気持ちがサビで爆発する。2番からはそれを反映したエモーショナルな演奏を炸裂させていく。田淵智也のベースが僕の意識、穴という穴を龍のように駆け巡る。金属を切断するようなギターで夜を開拓していくプレイは広川恵一、全てがひとつになっていく。美しいバンドアンサンブルに心まで奪われてしまう。
バンドミュージックぽい響きとダンスミュージックぽい響きは似て非なるものであるからして、それらの両立を出来るか否かを問われ続けてきたのが近年の音楽シーンだと思う。この曲はひとつの最適解である。

夢見ることも簡単じゃないはずだから
優しさと似てるようで全然違うひとことで
片付けたりはしないで

世の中に優しいだけの人は五万といて、そう言う言葉に心まで売ることはできない。自分の人生の責任を取れるのは自分だけであり、他人の言葉がやはり他人事に聴こえる時もある。だからこそ簡単に優しい言葉に流されて諦めないでほしい。“人生イージー?”と同時リリースされた本作に込められたのはそんなメッセージだと僕は考えている。

笑った 迷った 泣いた わかった
暗くてもちょっとずつ ほらちょっとずつ
自分のことが
見えやしないどこかより 目に映る足元
見つめたらちょっとずつ ほらちょっとずつ
認めることができるよ
僕らがいる現在地は まだあやふわふや
それでも願いはある あやふわふやでも

広い世界を見渡しながら未来を思った時、自分は孤独で不安で嘘つきでたまらなくなる。そんな時、世界で何が起きているか?周りからどう見られているか?…は大事なことではなくなる。今自分の立ち位置がどこなのか?その足元を見つめることから始めればいい。あやふわだっていい。そうやって自分を認めた先を歩めばいい。

そのためのサーチライトさえ持っていないならDIALOGUE+を聞けばいい。ラスト、宮原颯希さんがその声を張り上げながら手を伸ばす。彼女たちはいつだって君の味方である。

7.夏の花火と君と青
作詞:本間翔太、田淵智也 作曲:瀬名航 編曲:瀬名航、伊藤翼

孤独な夜を何度も乗り越えて辿り着いた夏祭り。夜空に花を咲かせながら、自分を見つめられるようになった主人公の心をさらに高揚させる音が聞こえる。和の香りを漂わせながら某メルトを彷彿とさせるような曲調はボカロ由来の瀬名航の仕業だろうか。その一瞬の間に様々な音楽の文脈が広がっていく。

8bitシンセの可愛らしい音色と力強いドラムのコントラストに胸を打たれながら、最後の夏を駆け抜けていく様も美しい。さりげなく流れるストリングスも生なのが嬉しい。

歌詞から察するに、未だその気持ちを彼に伝えられたわけではない。だけど気持ちは上を向いている。ただ少しだけ背中を押してくれた夏に別れを告げながら、暑い感情を胸に物語は進む。

8.I my me mind
作詞:大胡田なつき 作曲:広川恵一、田淵智也 編曲:広川恵

夏祭りの翌日、目を覚ますと世界は変わっていた。最近は毎日毎日、明日が待ち遠しくて夢中でたまらない。楽しみ過ぎて眠れないせいで遅刻しそうである。だけどひとつひとつの物事を曖昧にしない。

振り返れんのだ 急げ急げ
立ち止まれんのだ 急げ急げ
かかと、つま先の右左
繰り返しその中で 見つけてく
見つけてく わたし わたしの形を

“あやふわアスタリスク”で確認できた現在地から駆け出す。自分と向き合えたからこそ自分の形が見えてくる。世界は回り続け、それでも私は私である。少女は今日もまた日常を生きるためにドアを開ける。

“謎解きはkissのあとで”と同じく音源化を期待されていたその楽曲は、飯塚麻結のトリッキーなボーカルと緒方佑奈の色気が混ざり合う最高の化学反応を僕らに与える。広川恵一のテクニカルなギターがここでも大活躍、さらに印象的なのはナガイケジョー(Scoobie Do)のベースである。ちゃんとバンドがグルーヴィンしてる。歌詞に目を向ければ“プライベイト”を凌駕するくらい韻踏みの天才のようなワードセンスが光る。またしても大胡田なつきさんの仕業である。本当もう最高。

レコーディングは一年以上前と聞いたが、ライブを通して見せ方や歌い方も毎回変化と進化を繰り返している。

↑ここの飯塚麻結さんの歌い方めちゃくちゃ良くない?かわいい顔して結構しっかりしたドスとキレをこの子は利かせてくるんだよな。ツアーではどんな風に進化していくのか楽しみにしてる。(ダイジェストにはないけど1番サビの緒方佑奈さんが小悪魔っていうかもう悪魔的に可愛かったです)

9.アイガッテ♡ランテ
作詞:田淵智也 作曲・編曲:田中秀和
毎日が夢中で仕方ない少女は旅に出る。世界中を巡りながら様々な経験を積んでいく。そのひとつひとつ、生きた点を線にしていく。やがてそれは夜空を彩る星座へと変わるだろう。

定期公演フラフラ第2回で初披露された時、殴られて首ごと吹っ飛んだのか?と思うくらい衝撃的だった楽曲。KPOPベースのリズムにハードロック的展開を織り交ぜ、不可解な歌詞を8人が繋いでいく。バンドサウンドの感触を前面に押し出したライブ版とは違い、どちらかと言えばトラップミュージックに近い仕上がりを音源では見せてくれた。また2A部分、突如ラップバトルを勃発させる宮原颯希×稗田寧々コンビの聞き応えが素晴らしい。ツアーでは長尺のガチバトルがあるのか?と期待してしまう。

「メロが良ければ日本ぽくなる」と言う田中秀和の狙いは読み通りで、ここまで自由度の高い展開を与えたとしてもJPOPさを損ってないのは驚きである。

カラフルなセーラー服姿を披露したMVにはギターの堀崎さんも友情出演を果たした。通常なら8人の少女の中に中年男性が混ざれば物議を醸し出す可能性もあるが、むしろ大歓喜してしまうのが我々ログっ子である。

10.おもいでしりとり
作詞・作曲:田淵智也 編曲:睦月周平

星のひとつひとつに名前をつけながら結ぶ時、願うのは君のことである。星空と見間違うような綺麗な連鎖はこのために。たった一言を伝えるための物語がいよいよゴールを迎える。

「好きです」

アニメタイアップの影響もあり上半期ポニーキャニオン内で最もサブスク再生された楽曲が、彼女たちの代名詞になったのは嬉しいことである。極論、これさえ聴けば今の彼女たちが抱いてきたメッセージやパワーを感じ取ることもできる。

天秤のようなダンスと次々入れ替わるフォーメーションには面白さと挑戦を感じる。

DIALOGUE+1を聴いている時、僕は無敵になれるけど実生活全てが当然うまくいくわけではない。生活していくと言うことは本当に大変なのである。そう言う類の、ある種自分ではコンロトロールできない範囲への感情を絞り出したかのような歌詞には胸を締め付けられる。だからこそ鷹村彩花さんが放つ「知らない」の真意がわかる。痛いほどわかる。

生活が続いてって 隙間でこぼれ落ちた
この光はなんだっけ 名前を付けなくちゃ

昨日よりも今日は幸せなはずなのに、いつもと同じ毎日の中に違和感は発生していく。それに気づけない。日常から転落しないように未来だけを見据えれば、掌の隙間から何かがこぼれ落ちる。僕たちは不器用で仕方ない。

嗚呼だけどDIALOGUE+がいた。失っていく…いくつかを仕方ないと割り切りながら、今僕が落としそうになったひとつを拾い上げてくれた。ここまで掴んできた星を、それを繋ぎながら描いてきた物語の存在を気づかせてくれた。

僕らは、音楽はまだこんなにも強く美しく生きていける。僕もちゃんと伝えるよ。

DIALOGUE+が好きです。

11.20xxMUEの光
作詞:やしきん 作曲:田淵智也 編曲:やしきん

「アルバム終盤に台風みたいな曲が来るのが好き」と子供のように語る田淵智也を見ながら、彼のアルバム理論にいくつか触れていると嬉しくなった。聞いてきた音楽こそ違えど通じるものはあって、オリジナルアルバムに求めるものや曲順、構成に相当こだわりがあるらしい。僕が一枚のアルバムを聴く時に考えすぎなくらい考える範囲を十分カバーしている。

まさに台風と言うか天変地異でも起きたかのように無茶苦茶なビートを叩きつけるハイテンションナンバー。セトリ的に言えばアンコール1曲目が似合うし、「好きです」の結果に関わらず宇宙へと未知を求め飛び立つ主人公を想像させる曲順も素敵である。

配信ライブで聴いた際は、もっと電波的な仕上がりになるのかと予想したが非常にロックンロールな感触を確認できる。予測不可能なムードメーカー村上まなつ+理性をぶち壊す歌声を持つ守屋亨香の組み合わせもピッタリハマる。惜しくもカップリング収録となった“走れ”と同様、ダブルセンターボーカル制を採用した4曲全てが彼女たちの個性を尊重しているように思える。

12.透明できれい
作詞:田淵智也 作曲:瀬名航 編曲:伊藤翼
名曲“For フルーツバスケット”から着想を得たイントロ、そのコーラスワークに息を飲む。ミディアムバラードかと思いきや最高の風を受けてドラムが疾走していく。

ストリングス隊が後ろにいる所めちゃくちゃ良い。そして“好きだよ、好き。”のMVと意図的に繋がって行った。あの日夢見たステージに彼女たちは立っている。

夢ってのは 叶えたら 夢じゃなくなる?
もしそうだとしても もう一回 目指すんだ
僕らだけが見れる 僕らだけの夢を 
また、ちゃんと!

様々な夢を叶えてきた彼女たちが放つ今、その地点から発信されるメッセージと音に圧倒される。彼女たちは今ここからもう一度夢を見ようとしている。既に歩き出している。

雨に濡れた約束はプリズムみたいに光る
だけどそれだけで終わるなら
僕たちががんばってる理由にならない

本当にどうしようもないくらいDIALOGUE+を好きになってしまった。好きにさせてくれる理由がある。いつだって今を見て走ってるアーティストが僕は好きだ。今までの活動を見るだけでも十分それがわかった。早い段階で有観客のライブを実現させたり同時進行(もっと以前から)でアルバムを制作、YouTubeやラジオでもたくさん楽しませてくれた。

今できることを彼女たちは選択し成し遂げてきた。たとえ今流す涙が過去を輝かせたとしても、今をちゃんと生きないといけない。それに満足して終わってしまったら意味がない。

君の声だってさ ちゃんと聞こえたよ
だけどなんにも返せてないよな

そんな彼女たちの声が聞こえる限り、僕も何か返したい。例えばこんなブログを書くとか…そんなこもしかできないけど。繰り返していく。DIALOGUE+がいる今が好きだ。その気持ちを今一度確認する。

その時、CDの帯に書かれたメッセージ「どうしようもないくらい好きになってね」が何を意味するのか僕は理解した。もう何周もアルバムを聞いたあとだった。

どうしようもないくらい今が好きだよ
ーどうしようもないくらい好きになってね
違う 僕たちがさせなきゃ

本当にここに気づいた時大号泣した。先ほども申し上げたが、僕は今と言う時代がどうしようもなく好きだ。大変な時勢ではあるけど僕の生活全体は好転している。失った代わりに得たものが無数にある。DIALOGUE+が好きなのは勿論だが今という時間が好きなのである。どうしようもないくらい今が好き。

田淵 :(透明できれいについて)たしかに「好きだよ、好き。」のときには“呪い”っていう言葉を使ったよね。「その歌詞を歌うことで、責任感をつけろ!」みたいな意味で。

色んな人に届くであろう楽曲群とメッセージを読んだ時、その“呪い”は過言ではなく確かな説得力を持った“お呪い(おまじない)”になるだろう。今この世界で一番強い気持ち。つまり聞いた人みんなが今を好きになれるアルバム、それがDIALOGUE+1なのかもしれない。僕はそう思う。

ラスト、村上まなつさんが泣きそうな声を振り絞り「負けたりしないでね」と叫びながら僕の手を引っ張っていく。ここ、めちゃくちゃ好き。

村上 逆に私は歌うときに1個1個考えてしまうので、この曲を歌うときには「ダイアローグ+インビテーション!」でいただいた「重要拠点ムードメーカー」というキャッチフレーズをイメージして、私が歌ったところでみんなが明るくなったりとか元気になってもらえたらいいな、と思っていました。それが「負けたりしないでね」の、ちょっとした力強さや手を引く感じに表れていたら嬉しいです。

本人も自分の長所をしっかり理解してるのずるいよな。天才だと思う。涙でグチャグチャになった顔が笑顔に変わっていく。ありがとう。

最後はみんなで笑って勝ちに行く。そんなストーリーが見える。少しばかり早いエンドロールが流れ出す。さあ行こう、君と僕とで作る未来へ。

13.はじめてのかくめい!2021
作詞・作曲:田淵智也 編曲:田中秀和
大きく吸い込んだ息が始まりの地に繋がる。ラストを飾るのはデビュー曲の新録バージョンである。オリジナルバージョンよりも力強く表情豊かな声に成長を感じる。録音に際して今の歌声に負けないように音圧まで上げたらしく、聞き応えまでアップしているのが素晴らしい。

やるじゃん!やるじゃん!やるじゃん!
僕たちありえちゃったベイベー
不可能は無し
絶望も無し
って話でいいんだよな!そうだよな!

2020年、21年を通して僕が感じたのは「人生はやるかやらないかの2択。そしてやり切れるか否か」だと言うことである。これまでの活動と大名盤の誕生を目の当たりにしながら歌詞を読んだ時、DIALOGUE+は本当に有言実行のアーティストだなと思った。世の中はできないことばかりが溢れているように見えて、彼女たちはちゃんとやり切ってきた。その結果素晴らしいアルバムで全てを出し切ってきた。

まるで最初から未来を確信していたかのように響く。あの頃から背負ってきた言葉が力強く今に響く。不可能も絶望もない。ここにあるのは今、DIALOGUE+と共に駆け抜ける今である。そして未来に辿り着く。

ほら僕らについてこようぜ
ワクワクてんこ盛りなんだ
ほら僕らについてこようぜ
損は絶対させないさ

DIALOGUE+についていく。だって僕はいつも楽しい方を選びたいし今を好きだって言いたいから。彼女たちに出会ってから毎日がもっと楽しくなった。もっと好きになれた。だからついていく。

最高のアルバムだ。ありがとう。


未来

いよいよ東名阪神奈川を回る全国ツアーが始まる。困難もあるけど彼女たちはきっとやり切っていくだろう。諸事情で全通は叶わないがその勇姿を目に焼き付けたい。

話を大きくしてしまうのはいつもの癖だが、それくらい言いたくなってしまうアルバムであることも事実である。しかし最もパーソナルな部分では、これだけ聞き応えのあるアルバムが出てきて…YouTubeや配信を見ればみんなが笑っていて仲が良くて…そう言うのを見てるともう満足してしまう。これ以上何も望めなくなる。幸せになってしまう。DIALOGUE+に出会えて本当に良かったと心底思う。そんな気持ちになってくれる人が増えたら良いなとあわよくば思うのも仕方ない。どうかたくさんの人に届きますように。

これから何がどうなっていくかわからない。だからこそ今は彼女たちと共に今を楽しみたい。今日を好きだって言えたら、それを毎日繰り返せたら一生幸せだと思う。

長い文章を読んでくれてありがとう。DIALOGUE+にこれからも光があたりますように。


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